6 ゴースト 白い幻
僕は慌ててカーテンを閉め、ベッドに飛び込み布団を頭からかぶって身を隠す。
な、なんで!?
どうしているんだ?
アレって、未来の僕を追いかけて来た幽霊だよな?
この時代でも僕を追いかけて来るのか?
引きこもりの元凶になった幽霊。
未来で僕を襲い、二十四歳の万城目・縁司を死へ追いやった悪魔のような怪物。
あの時も、こんな雨が降り雷鳴が街を怖がらせていた。
また同じことが起きるか?
今度は過去にさかのぼって、引きこもる前の十代の僕に……。
だけど、未来で僕を襲ったのは砂嵐のスライムみたいな怪物だ。
人の形なんてしていなかった。
何もかもが不気味だ。
キモチ悪い。
かけ布団から顔を出して部屋を見回す。
話に聞く幽霊は平気で不法侵入するって噂たけど、さっき見た幽霊は外から眺めるだけで、何かする気配はない。
幽霊というよりストーカーだよな?
落ち着きを取り戻しかけた時だった。
布団に違和感が生じる。
何か重みのある物が足首から膝へ這うように乗っかる。
首を四十五度に傾け、かぶせた布団に視線をやった。
布団が波のようにうねる。
違和感は恐怖心へ変わり、冷や汗か吹き出した。
全身の震えが止まらない。
早く飛び起き逃げないと、そう自分の頭に言い聞かせるも、身体は金縛りに合ったように硬直している。
かけた布団は次第に盛り上がり、"何か"が立ち上がろうとしていた。
布団が起き上がると、洞窟のような隙間が出来上がり、その中と目が合う。
影で見えづらい黒く長い髪に白装束のようなコート。
呻き声を発しながら睨みつけている。
白い女性の幽霊がベッドに潜り混んでいた。
ダメだ――――逃げられない。
白い幽霊は奇声と共に飛び付いた――――……。
朝はけたましい目覚まし時計のアラームで目を覚ます。
「うわぁあー!?」
いたずらされた驚くカエルのように飛び起きると、ベッドから距離を取って学習机に身を寄せた。
布団を明け広げたベッドにはなにもなく、シーツは自分の乱暴な起床でシワだらけだ。
冷静さを取り戻す、と一連のことが理解出来た。
ゆ、夢? なんだ……夢かぁ~~。
カーテンを指先で少し広げ、窓の外をそろりと覗く。
昨日見た白い幽霊の姿はない。
とりあえずは安堵するものの、灰色の曇り空は相変わらず、不穏な空気を漂わせていた。
-・-・ --・-
十年前の過去へタイムスリップして、早一週間が過ぎた。
もう未来のことは頭によぎることなく、この時代の中学生に馴染んできた。
学校の昼休み親友の戸川はスマホ片手に「万城目~。ゲームやろうぜー」と誘って来たので、僕は白けた目で答える。
「戸川。学校でスマホとか先生に没収されるぞ?」
「あれ? お前ってそんな優等生だったけ?」
「僕は優等生に転生したのさ」
「なんだお前? キッショ。じゃぁゲームやんねーの?」
「やる!」
教室では昼休みに入ると、ほとんどの生徒がスマホを取り出し、互いに画面を覗いて談笑していた。
それを見て今さら学校の規則とか気にしても意味ないと感じ、ためらうことなくスマホをカバンから取り出した。
教室の隅で戸川と向かい合いスマホを突き合わせ、対戦型シューターゲームに興じる。
戸川のキャラはしつこく僕が操作するキャラの背後を取っていた。
親友は得意げに語る。
「万城目。腕が落ちたな? お前のケツが丸見えだぜ。俺にケツを見せたヤツはみんな死んでいった」
「戸川、認めるよ。お前はスゲェよ」
「今さら解ったか?」
熱が入り操作するタッチパネルがタップダンスのように音を鳴らす。
僕はズレ落ちそうなメガネを指で上げてから、不適な笑みを見せた。
「けど……僕に勝つなんて十年早い!」
「な!? いつのまにそんなテクニックを……くっ、お前、進化してやがる!」
「もらったぁ!?」
勝敗が決まる、その瞬間。
興奮でアドレナリンが制御できなくなったのか、僕の脳内はショートしそうなほど電流がかけめぐり、全身は熱くたぎる。
目の前に閃光のようなスパークが生じたかと思えば、スマホの画面が暗転。
「「なんだよ!?」」
何故だか戸川と揃って落胆の声が漏れ出た。
お互いに顔を見合わせ、状況を確認し合う。
戸川は不思議そうな顔で言った。
「スマホの画面がいきなり落ちて、電源が入らねぇよ」
「僕も落ちたままだよ」
教室の空気感が変わったことにようやく気がつき、二人して室内を見回す。
生徒達は不満や怒りを口々にし、中には青ざめた顔で手に持ったスマホを左右に降る者までいた。
教室中のスマホの電源が一斉に落ちたのだ。
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