3 見た目は子供、頭脳は大人
>電波が無線設備その他のモノに及ぼす影響による被害の防止、又は軽減。
総務省・組織令。第百三条、一。
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光を感じてまぶたが熱くなる。
スズメが合唱を始めてるということは朝なのかな?
薄めで目を開くと太陽の白色が目を焼いて、顔を光とは逆にそむけた。
ソーラーパネルが太陽光を受けて充電するように、瞳で受けた陽射しが脳を回転させる。
ベッドに張り付いた身体を起こすと、室内を見回して混乱する。
目の前は
ここは自分の部屋だ。
今しがた窓から飛び出して淀んだ雲の下、豪雨に身体を打ち付けトラックに轢かれ、さらには雷に打たれて水溜りで溺れていた。
なのに、日当たりは良好で服はキレイなパジャマ姿。
もっと言うと長年散髪してなかったはずなのに、頭は軽く小ざっぱりしてる。
床に足を揃えて立つと、よろけることなくしっかりと踏みしめた。
運動不足で足はかなりおぼつかないと思っていたけど、自分でも驚くほど健康的だ。
手元でメガネを見つけ、早速かけて見える世界を把握しようと試みた。
身だしなみチェックで学習机に置いた鏡を見つけると、自身の身辺を確認、そこには子供の顔が写り込んだ。
自分はこの子供をよく知ってる。
何年も、この顔で生きてきた。
な、何だこれは!? 十代だった僕だ!
何がどうなってるんだ?
ほんの少し前は引きこもりの小汚い二十四歳だった。
僕は死んだと思ったのに、子供に戻って生き返った。
ひょっとして、これが世に言う転生ってヤツなのか?
だとしても場所はスライムやドラゴンがいるような世界には見えない。
十年以上も過ごした子供部屋だ。
つまり現実の世界にいる。
じゃぁ、死ぬ間際に自分の人生を振り返る走馬灯?
ん〜現実感あり過ぎて実感がない。
というか走馬灯って実感するものなのかな?
そうだ……アレをやろう!
僕は鏡に写り込む姿を指差して、心の声で言い放つ。
見た目は子供、頭脳は大人、その名も―
―――万城目・
おぉ!? まさか、あの有名な少年探偵のセリフを完コピできるなんて、貴重な経験だ。
一階から女性の呼び声が聞こえ、我に帰る。
「縁司! 早く起きなさい。学校に遅れるよ!」
「は〜い! 今、行くよ!」
咄嗟に口を押さえた。
声がすんなり発せられる。
引きこもりが続いて親とさえ話をしてなかったので、声帯が弱ってまともに声が出せなかったのに。
親?
今のお母さんの呼び声だ。
僕は大して広くない二階の部屋から駆け下りて、一階のリビングへ向かった。
顔を合わせた母親は僕に目をくばると一言。
「あら? 今日は珍しく自分から起きたんだね」
父親はテレビ前のテーブルで茶碗に盛られた白米を箸ですくい、口へ運び租借した後に僕へ言う。
「縁司。食べないと朝食が冷めるぞ」
「お父さん! ご飯食べながらしゃべらないでよ」
「あぁ、悪い」
お、お父さんとお母さんだ……。
二人とも僕が最近まで知っている時より若い。
僕が知っている父と母は二人揃って老け込み、科学洗剤で拭き取ったように黒い色が落ちた白髪に、枯れ木と見まがう刻まれたシワ。
腰に至っては植物のゼンマイくらいおり曲がり、実年齢よりも老人に見えていた。
全て僕が家にとじ込もっていたストレスから来ている。
朝からテレビのニュースは気が滅入る話題を取り上げていた。
『引きこもり世帯は【二〇二五年】の現在で推計、一四七万人。引きこもり予備軍と思われる世帯は七〇万人です。十年後にはこの予備世帯が引きこもり人口として繰り上がると、予想されます』
十年後……僕が引き篭もっていた未来と重なる。
一四七万人に七〇万人が足されて二一七万人に膨れ上がった。
お母さんはこの問題を一言で締めくくる。
「ヤダね。引き篭りって」
それを聞いて心苦しくなり、両親から目をそむける。
――――ごめんね。
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