最終章

西田と入れ違いに早苗と康隆が入ってきた。

「明日香、こんな事になってごめんね。お母さん、ちゃんと育ててあげられなかった。ごめんなさい…。」

明日香の表情を見て、早苗は

「ごめん、これから話すことをちゃんと聞いてほしいの。」

と話し出した。

「実はね、明日香は、いわゆるバイオロイドなの。わかるかな?」

明日香は、一層疑問が深くなった。聞き慣れない言葉に戸惑う。

「バイオロイドって何?」

早苗が続ける。

「遺伝子操作をした、人造人間とでも言えばいいのかな?」

明日香は、あまりに現実離れした話にほうけてしまった。

「かなり前から、この世界は命が生まれなくなっていた。何と言うか自然妊娠が難しい世界になってしまったと言えばいいのかな。」

「人間はどんどん減って行った。だから、政府はバイオロイドの開発、施工を実施。年頃の夫婦に赤ちゃんを授ける試みを始めたんだよ。」

康隆がゆっくりと引き継いで言った。

「え?私、作り物って事?」

明日香は、あまりの唐突さに何とか頭を整理しようと頑張る。

「え、でもだったら何で私達子供はその情報を知らないの?おかしくない?」

早苗が答える。

「それは、徹底的に情報を管理して操作をしていたから。それでもたまに気が付く子がいてね。そういう場合は、記憶媒体をいじって削除するの。無かった事にするのよ。」

明日香は、ショックが大きくて息苦しくなる。

「でも、だったら、もっと不平等を無くす事も出来るんじゃないの?貧富の差とか!」

明日香は、吠えるように言う。

早苗の視線がチラッとこちらを向く。

「政府は、あくまでも自然な形に近い状態を求めて、夫婦の遺伝子をデータベースにランダムに赤ちゃんを授けるシステムにしているの。だから、男女も選べないし、頭がいいとか悪いとかも、ランダムだから、何万通りもの組み合わせから産まれてくる子を選出する。夫婦の体の状態も、全て条件に含まれるから、元々産まれにくいご夫婦には、中々授からないケースもあるし。」

早苗は少し寂しそうな、表情をする。

「だから、自然妊娠に近い状態を目指して作られたシステムと言うことだ。」

康隆が付け加える。

明日香は、まだ納得がいかない。

「じゃあ、体は?どうやって大きくなって行くの?」

早苗が明日香の頬に触れる。

「この間、健診受けた病院あるでしょ?そこで、成長に合わせて体を調整しているの。」

明日香の流した涙を優しく拭いてやる。早苗のそれは、母親の、愛情だと明日香は、感じた。だから明日香は、絞り出すように続ける。

「じゃあ、今は自然妊娠で産まれてくる子はいないの?」

「全くゼロではないよ。今ではかなり珍しいけれど、生身の人もいる。でも、生身の子は死ぬでしょ?だから、中々大人になれなくて、大人になるって奇跡なのね。」

早苗は明日香の髪を愛しそうに撫でて

「明日香は、何で頑張れなかったのかな?部屋が無いとか、言い訳して人のせいににして、頑張らなかったよね。踏ん張ってほしかったよ。待ってたのに、いっぱいヒントも出したのに。お母さん、明日香とまだ一緒にいたかった。」

「何?どういうこと?一緒にいられるでしょ?」

早苗は辛そうに目を伏せると、首を横に振った。

「このままでは、明日香の人生が駄目になるから、ここまでにしようと思う。政府側も決定考を出したから。」

「私、どうなるの?」

震える声で明日香は、問うた。

「データは削除され、トリミングされます。新たな命に書き換えられます。」

入り口から急に声がした。スーツ姿の女性が入ってきて感情の無い声で言った。

「お父さん、お母さん、待って!私、そう説明してくれたら、頑張れたかもしれないじゃん、何で、まだやりたいこといっぱいあるよ!助けて!」

「明日香、それじゃあ、自然な子育てにならないでしょ。思春期の失敗が重なった場合は、1から始める事も許されているの。本当にごめんなさい。」

「明日香、ごめんな。助けてやれなくて…本当に、ごめん。」


「では、デリート作業に入ります。」

明日香が最期に見た風景は、光溢れる景色だった。

明日から頑張ればまだ取り返せる場所に、あなたは、立っていますか?

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呑まれる前に さが あさひ @asahi-saga

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