第5話

明日香の生活は戻らぬままに、1年生の生活は3学期を迎えていた。

何とか学校には行っていたが、明日香が勉強に自信を持てる事は無かった。

とにかく毎日眠くてしょうがなく、早く学校が終わればいいのに、早く家に帰ってゲームがしたい、と思うようにすらなっていた。


帰宅した明日香は、早速iPadを開きヘッドフォンを装着する。

ゲームの世界に入って行く。

グラフィックが綺麗なゲームの世界には無数の煌めきが存在していた。

ゲーム人口は、今や世界中にいる。

世界中の人間と繋がっていられるのだ。あまりに、現実世界とのギャップがあり、明日香は出て来られない。

こちらが、本当の世界ならどんなにいいだろう。そんな風に。

現実世界の母早苗が横から何やら文句を言っているのがわかったが、無視した。

「明日香、あなたは、何も知らない。これから教えてあげるよ。」

早苗がそんな風に言ったような気がした。

そこから記憶が途切れた。


意識がゆっくりと浮上してくるのがわかる。

頭が何となく重くて中々焦点が合わない。

「眩しい…。」

明日香の焦点が合って、最初に目にしたのは医師の西田だった。

明日香は、よくわからずに起き上がろうとしたが、何かが手と足に絡み付いているようで、起き上がれない。

「目が覚めたようだね。ゆっくりしているといいよ。君には、これから重要な話をしなくてはならないからね。」

西田の低音な声が響く。

明日香は、ここは病院なのかな?と思った。

西田がいたからだ。

内科健診の担当の先生がいるのだから、病院なのだ、と。しかし、病院に来た経緯がわからない。何があったのか、よく思い出せない。

家に帰って明日香は、ゲームをしていた。

ゲームの世界を浮遊していた。

文字通り、明日香がやっているゲームは空を飛ぶゲームで、現実の嫌な事を忘れられた。だから、毎日少しずつのめり込んで行った。

「君はいつも、うちの美知と仲良くしてくれていたよね?ありがとうね。」

西田の言葉にぼんやりしていた明日香のイメージがハッキリした。

なんの事はない。西田先生は、みっちゃんのお父さんだ。通りで誰かに似てるって、みっちゃんの意思の強そうな涼しげな切れ長の目元がそっくりだ。

でも、だから何で明日香は病院にいるのか

重要な話とは何だろうか?

この前の健診で何か見つかったのだろうか?

明日香は、そんな事を考えて怖くなる。

治らない病気だったらどうしよう…と。

しかし、西田は思いもよらない事を言ったのだ。

「君の生活の事なんだが、最近君、生活が乱れているんだってね。」

明日香は、想像していた事とは違う事を言われてキョトンとした。

「はあ…。」

と間の抜けた返事をしてしまう。

西田は続ける。

「お父さんや、お母さんの話を聞いていたかな?心配されて、何度も相談にみえたよ。」

明日香は、友人の父親にそんな風にだらしない生活の事がバレていて、しかも注意されるなんて、恥ずかしくて親への怒りが湧いてくる。

「再三注意をしてみたり、優しく声をかけてみたり様子を見守って来られたと思うけど、明日香ちゃん、ゲームに嵌まってたんだよね?」

西田は明日香の精神面をカウンセリングするつもりなのだろうか?

「このままだと、明日香ちゃんは大人になれないんだよ。」

西田はあくまで優しく声を紡いだ。

明日香は、しゅんとして

「わかってます。でも、どうしていいかわかんなくて。毎日イライラするし、勉強もどんどん難しくなるし。」

「そうだね。でも、這い上がって来てほしかったよ。きっとご両親はそれを望んで、最後まで明日香ちゃんの意思に任せたんだと思うよ。」

西田の言葉に明日香は、涙が流れた。

自分に対する不甲斐なさか、悔しくてか、何なのかわからず涙が頬を伝う。

「ご両親と話をした方がいいね。これからここに呼ぶからね。しっかり話なさい。」

そして西田は部屋を出ていった。

西田が出て行った扉をぼんやり眺めていた。

ただただ、白い部屋を異常に眩しいライトが照らし出していた。

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