第214話 死闘②
ここに来て今までで一番の連携!碌な合図も無しに、凄い!
バッ!
その瞬間世界が僅かに暗くなった。
「プレス!?」
一早く気づいたフィーリアさんの声が響く。なんと両手両足を広げた悪魔がいやらしい笑みを浮かべながら頭上を飛んでいた。
ドシーン!
警告のお陰で皆は回避できたようだ。しかし、悪魔を中心に放射線状に散らばってしまった。
プシュッ!悪魔の脇腹から血が飛び出る。その側には二振りの曲剣を振り抜いたフィーリアさん。潰されるかどうかのあの刹那で唯一カウンターを仕掛けていたのだ。
凄すぎる……!
個人技ではランコさんやジェニの方に目が行きがちだが、流石はランジグ最高峰パーティーの屋台骨。咄嗟に皆を鼓舞する姿にしても、前線に立ち続けてなお無傷の戦い方にしても、頼もしさが段違いだ!
「今ので分かったわ……!悪魔は達人じゃない、計算が速過ぎるだけの素人よ……!戦い方はいやらしいけど、一つ一つの動きはまるで洗練されてないわ!!」
成程……!「悪魔は最適解が分かってる訳じゃなかったのか……!」自然と独り言つ。
計算した上であの速度だったと……それはそれで厄介極まりないが、確かにその動きは技と呼べるほど完成されたものじゃない。
武術とは体格に劣る弱者が格上と戦うために編み出されたものだ。その体格により基本的に爪を振りかざすだけで勝てる悪魔にとっては磨く必要のない技術。
サマーソルトや突きなどは見よう見まねで扱っているに過ぎず、そこにこそつけ入る隙はあると……!
「でも勝てる」
ゾッとする声と共に流動体のような奇妙な動きで、ミッドレアムさんとフィーリアさんの上に悪魔が影を落としていた。
一早く反撃の構えを取ろうとしたフィーリアさんは、少しだけ早く、ミッドレアムさんの対処的行動がこのままじゃ間に合わないことを察してしまった。
ドンッ!
脇腹を思いっきり蹴り飛ばされたミッドレアムさんが衝撃のした方を見る。
悪魔の拳の下からは、顔以外のほぼ全てを
「なぜ俺を助けたもうた!!」
ミッドレアムさんは拾われた命を無駄にしないようロングソードを両手で力強く構えながら、自分を嫌っていたはずのフィーリアさんへ問いかけた。
その声音からは、実力でも立場でも自分より勝っている彼女がなぜという思いも感じられた。
「……何でこんなことしたのかしら…………」
殆ど力を感じさせない声で、しかし「ふふっ」と自嘲気味に笑った。
「貴方って……剣だけは……本当にカッコいいのよ……」
……こと切れた……魂が昇っていく……
「ぁぁ……ぁぁぁぁぁ……フィーリアが……死んじゃったぁ……」
這いつくばうミサミサさんの小さな声がやけに大きく聞こえて来て。
「……もぅ……皆死ぬんだわ……」
ゴッ!!
攻撃後の悪魔の下がっていた横顔に、特大のハンマーがぶち込まれた。
ふー、ふー、と激怒の息を吐くアブドーラさんだ。
「てめぇぶっごろじでやう゛!!!」
およそ人に出来る限界の形相で睨みつけ、叩きつけた特大槌をもう一周回す。
まずい!怒りのあまり周りが見えてない!踏み込み過ぎだ!
「はい孤立砲台」
両手両足を解禁した悪魔にとって、大振りの攻撃を躱しつつその背中に拳を叩き落とす事など児戯にも等しかった。
ダァン……!
大きな拳をどけ、己が潰した命を見、
ドゴッ!
その拳に衝撃が走る。なんと、潰されたはずのアブドーラさんが再び特大槌を振るったのだ。
ただ目鼻口、穴という穴から血が漏れ出ている。
ならばとどめを刺すだけと突かれた鉤爪を、キーン!とミッドレアムさんが弾いた。
だがしかし、ミッドレアムさんはアブドーラさんに引くように言わない。それどころか、
「付き合おうとも」
涙を流しながら、中段にロングソードを構えた。
「なんてことを……!」
スモーカーさんが咄嗟に走る。それにベテランメンバーが慌てて続く。
「悪手だ!!」
僕は叫んでいた。ジェニ、エストさん、怪物は動きを止める。
フィーリアさんが居なくなっただけでも苦しいのに、その上でアブドーラさんとミッドレアムさんを失うような事になれば、悪魔相手に持ち堪えて来た前線が崩壊する。
その阻止を優先することに必死でスモーカーさんは指示が出せていない。今までの連携も細かく指示を出していたからこそのものだ。サブオーダーのゼダーさんには瞬時にこれを判断できるだけの実力は無い。
致命的な崩壊を恐れて追従したベテラン達も、何が正解の動きか分からずに飛び出してしまって戦略的に動けていない。
ジェニも怪物もエストさんも、そして僕も、今から動くには遠い!ボディープレスという予想外の攻撃に対して慎重を期すあまり距離を取り過ぎていた!
僅か一二歩の差が、酷く遠く離れて見える。
援護は悪手。アブドーラさんを引かせる事が最善手だが、今のアブドーラさんに言葉を届けられる唯一の人はアブドーラさんと心中する気で、時間稼ぎの策も無い。
かと言って二人を切れば土台を失う。
助けに行けばミイラが増える。
万策、尽きてる……?
悪魔の振り上げた腕が、アブドーラさんに向けて一直線に叩き落とされた。
ドスッ!
潰れて……いない!?
アブドーラさんは無事!拳は逸れてる!
悪魔の肩には何かが刺さっている……あれは……矢?
「ぉわマジで当たったよ……ハッハァー!俺様神エイム!」
子供達の列の奥、元気な声に視線を向ける。
くすんだ金髪のオールバックで耳には複数のピアス。所々土汚れのついたホワイトアウトの冒険服に袖を通し、強力な攻城用の武器であるウィンドラス・クロスボウをその手に持っている。
細いながらも筋肉質な腕を振り上げ、軽薄でヤンキーみたいな顔で喜びを表現している。
「ジャン!!」
「ようお前ぇらぁ!助っ人だぜぇ!普通のな!」
え!?何で!?何でここにジャンが!?
子供達の間を縫ってこっちに全力で駆けてくる。
え一人!?どゆことえ何で!?あクロスボウだから矢じゃなくてボルトか……てえ何で!?
え、何で!?
走りながら、右手に持っていたウィンドラス・クロスボウを背負いなおし、直剣を勢いよく抜き放つ。
僕の横すら走り抜け、アブドーラさん等を死なせない為に、連携もくそも無い我武者羅の
脚をばたつかせながらその直剣を脛の辺りに振り抜いた。
「ハァァイヤァアアアアアぉ!?かってぇ!!」
ジャンは思ったように刃が通らない事に無様な驚きを叫んだ。
とにかく疑問は尽きないけど、ナイスだよジャン!グッジョブだ!
派手な奴が派手な攻撃をして派手に叫んだ事によって、皆少なからず驚いている。
激憤している者を落ち着かせるのに最も効果的な事は、それ以上の驚きで怒りを上塗りする事だ。僅かに生じたその隙間を、今から全力でこじ開ける!
「全員につっげぇえるるぅ!!!たった今よりぃ、指揮権はこの僕が預かったぁあ!!!」
聞いている者の鼓膜を一つ残らず突き破ってやるくらいの気合で声を張り上げる。
「直ちに全員悪魔から距離を取れ!!!
【余談】
ウィンドラス・クロスボウとは、手では引けないくらい強力な弓を搭載しているため、弦を引くための巻上げ機(両手ハンドル)が後部に取り付けられているクロスボウ。十三世紀頃からヨーロッパで使われていた。破壊力は絶大だったが、巻き上げる際、あまりにも無防備になってしまうため、もっぱら攻城戦・防御戦に使用された。
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