第204話 誰が為の戦い➃
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「あれは……」
急ぎ足のスモーカー達の行く手に、大人数の人だかりが見えた。それを人だかりと判断したのは、皆武器も防具も持たない布切れ一枚の子供達であったからだ。
「なんすかあれ……」
「子供……」
「何故ここに……」
「もうどうなってんだよマジでよぉぉおおおおおお!!」
各々が有り得ない光景に思考力の大半を奪われる。ベテランの多い一団の中では最も若い内の一人であるティッシュキッシュが上げた叫びに、小さな子供達が身をビクッと震わせた。
「第四層に人間の村があるって噂は知ってるか?」
取り敢えずティッシュキッシュの頭に拳骨を落としたモドリスが、自身も驚きを隠せないまま口走る。
「また噂かよモドリス。不確かなまま口に出すな。男なら筋肉の話だけしてりゃいいんだ」
「待て、」
モドリスに筋肉の何たるかを語ろうとしていたアブドーラをスモーカーが制した。
「猿の楽園……その子供達で違ぇねぇかい?」
少しざわつくと、
「あぁそうだ!」
ヤンチャな顔つきの若い青年とふわふわの赤毛をした少女が出てきた。青年は血糊がこべり着いたままの刀剣を裸で持ち歩いていた。
「知ってんすかスモーカーさん!?」
仲間の声を無視して青年に目を向ける。
スモーカーは商人としても活動していることもあり、並の冒険者とは比べようもない程情報を集めている。故に猿の楽園の噂を聞いていたし、存在する可能性の方が高いと結論付けていた。
しかし、超一流冒険者である自分の言葉には重みがある。あると言えばある事になってしまう。不確かな情報を裏も取らずに口にする訳にはいかない。例え仲間達に対してでもだ。
「おっさん!アニマたちに会わなかったか!?」
少しは事情を知っている。もしくは装備を見て頼りがいがあると思ったのか、黒い短髪の青年が聞いてきた。
スモーカーは直感的に言葉を選ぶべきだと考えを巡らせた。
アニマ達に対する敵意は感じない。寧ろ心配などを含んでいる事から仲がいいと思われる。だが、悪魔に対する知識があるようには見えない。もし既知ならばこの道を大人数で進もうとは考えないはずだ。
正直に会ったと言った場合、この子供達は間違いなくアニマ達の元まで行ってしまうだろう。
逆に嘘をついた場合、恐らく人海戦術を用いて捜索に移る。この階層では最悪の手だ。迷子になるか悪魔に甚振られるか……
「第四層の状況と、目的を教えてくれぃ。猿どもはどうした?」
そこまで考えて、一旦話を変える事にした。迂闊な事は口に出来ない。数百人はいるであろう子供達の為、全容を知る必要があると思ったからだ。
「お猿様達はみ~んな殺したよ!アニマ達と一緒に!私達はね、ランジグに行くんだよ!アニマがご馳走してくれるんだ!」
ふわふわした印象の少し肉のついた女の子が能天気に答えた。「ラーメン!」「ハンバーグ!」「カレー!」などと子供達の声が上がる。
「キメラモンキーを……倒した……?」
「嘘だろ……」
「冗談キツイぜお嬢ちゃん!」
冒険者達もその発言にざわついた。悪魔から逃げている状況を加味しても、抜群にヤバい話だったからだ。
「てことは今第四層は安全なんだな?」
嘘ではない。この能天気な少女だけを見ていれば嘘のように感じるが、青年の顔、その周りにいる子達の少し引きつったような顔。
あれは殺した奴の、死を知った奴の顔つきだ。それを成したと言う少年達の、置いてきてしまったアニマ達の顔を思い浮かべて僅かな戦慄を覚えた。
「…………この道を真っ直ぐ進んだ先にアニマ達がいる。その奥の建物からランジグへ行ける。だがアニマ達は今悪魔ってバケモノと戦ってる」
僅かな沈黙の後、スモーカーはまるで礼代わりと言わんばかりにそう言った。仲間達の中でも察しのいい連中が信じらんねぇと息をのんだのを感じながら、
「俺達はこのまま第四層まで行く。貴重な情報ありがとな」
第六層の大きな建物群を指さし、
「それと、隠れて進んだ方がいい。俺達ゃその悪魔から逃げてきたんだ。いいか?
歴戦の猛者たちが逃げざるを得なかった。それで全てを察してくれと、恐らくリーダーである覚悟の違う顔つきの青年を力強く見て。
気を引き締め直してまた走り出そうとしたスモーカーの肩をベテラン冒険者の一人であるモドリスが掴んだ。
「スモーカー、お前は正しいよ。正しい冒険者で、正しいリーダーだ」
振り向くと、仲間達の一人すらも続こうとしていない事に気が付いた。
「お前がリーダーやってくれてなきゃ、俺達が一流冒険者だ英雄だなんて持て
「何が言いてぇ?行くぞ」
長い前置きを一蹴するかのように言い放つ。
「下層でほとぼり冷めるまで待ってランジグ帰って、報酬で酒飲んで、欲しいもん何でも買って、でも使い切れねぇだろうな、でまた飲んで、いい顔して新人に奢って、冒険話聞いて貰って、俗にいう成功者さ!歳くって死ぬまでちやほやされて、悪くねぇな、悪くねぇけど……退屈だろ、気持ちわりぃ」
日々を思い出すように、思い描くようにゆっくりと語っていた。そして息を吸った。
「そんなんじゃあねぇだろ!!!」
普段朗らかで、場を楽しい空気にさせるように振舞っているモドリスからは想像出来ない程の迫力に、スモーカーでさえも思わず面食らった。
「俺達がしたことって何だ!?昔の人達の墓荒して、盗んだもん珍しがって、高値で売りつけて、ガキ見殺しにして!!これのどこが英雄なんだ!?ぇえ!?」
「金なら腐る程ある!!そんな事の為にこの依頼を受けたんじゃねぇ!!分かんだろ!!おめぇらが一番大切なんだぁ!!おめぇらとの冒険が好きなんだぁ!!」
挑発するようなモドリスに、スモーカーが切れた。
「墓荒らしだって上等だぁ!!大昔に死んでんだからぁ!!良い子ちゃんになったつもりかぁ!?生きてる方が偉ぇだろ!!なぁ!!いいから俺についてこいやクソだらぁども!!!」
物凄い剣幕で言い放った。
「履き違えんなよスモーカー」
もう片方の腕も、つまり両腕で肩を掴んで、
「賢い生き方に唾吐いて、俺達は!!
自分の胸を激しく叩きながら叫んだ。
アニマのように見えずとも、魂の籠った言葉というものは肌で感じるものだ。
「憧れに生き、憧れに死ぬ!!!この命はお前の灯なんかじゃねぇ!!!
それは事情を碌に知らぬ子供達にすら感銘を与える程に。
元より長生きなど出来ない体。老いさらばえて病床に伏すくらいならば、命の限り刹那を生きる。冒険者に大酒飲みや愛煙家が多い
何より、英雄に憧れて血反吐を吐くような鍛錬を乗り越えてきた、おとぎ話のような英雄に本気で憧れた馬鹿の集まり。
スモーカーが見渡すと、モドリスだけではない、仲間達が皆同じ視線を向けていた。言葉に出さずとも想いは同じ。
「スモーカーさん、この子達は冒険者じゃないですよ」
タコンが口を開いた。
「
若僧の生意気に、気づけば口角が上がっていた。
「いっちゃんうめぇ煙草吸いましょうや!」
「ふ……」
小さな笑いが伝染し、大きな波へと変じていく。
「一発引き締めて下さい!皆、かっけぇあんたが大好きなんすよ!」
タコンはいい笑顔で、スモーカーに気合の号令を求めたのだった。
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【余談】
☆短期集中キャラ紹介☆
【モドリス】 三十三歳
・思想
人生は生き急ぐもの。
不確かな安寧よりも確かなスリルと興奮を。
強さとは強かさである。
正面切って強いのはそれに秀でた天才に任せればいい。
影は天才すらも殺せるから。
・キャラクター
スモーカー一派の今は少なき初期メンバー。
攻略経験者であり、ナイフ一本あれば余裕でサバイバルできる。
スモーカーとは親友でありライバルでもある。
しかし短曲剣と小盾と暗器を使用する戦闘スタイルという事もあり、バチバチにライバル視し合っている訳ではない。
暗殺者のような音の出にくい服装を好み、奇襲戦法を得意とする。
体中に暗器を仕込み、それらを全て使いこなすスペシャリスト。
噂や都市伝説が好物で、よく酒場で陰謀論を熱く語っている。
暗殺者ではないが、怪しい奴から何故かよく依頼される。
有名人故かブジンやその家族暗殺の依頼が結構多いらしい。
はした金で殺せるものかと笑い飛ばしている。
若干しつこめのノリで、女性ウケはそんなに良くない。
フィーリアと共に副団長的な立ち位置であり、メンバー皆と仲がいい。
特に仲のいいミッドレアム、ミコン、ティッシュキッシュ、キャッシュレスアサイ、ゼダー、黒炎竜らと金に物を言わせて合コンを開いている。
最近ミッドレアムの付き合いが悪い事に不満。
一部からは地獄のコンパと呼ばれている。
実はフィーリアとなら結婚してもいいかもとやや上から目線で思っていたりいなかったり。
・口調
「俺は~」「~だな」「~だろ」「~だ」「~を知ってるか?」
・容姿
いつもフードを目深に被っている。
捉えどころのないひらひらした服を着ている。
やや大きめの尻尾が出ている。
シルエットを隠す目的の服だが、下半身は動きやすさを重視したぴちっとしたもの。
ブーツも音が出にくい物を履いている。
腰には短剣をしまうホルダー。
身長や体格に特筆すべき項目なし。
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