第112話 ひゃっほうっ
死相が見える。らしい……
んなバカな!
「え?し、死ぬ!?僕が!?」
「ヒヒヒ……お前さん、誰か大切な人を探しておるな……分かる……その者は今遺跡の中じゃ……恐らくダンジョンであろう…………」
「な、なんでわかるんですか!?」
「ヒヒヒッわしは占い師じゃぞ?」
自信満々のババさん。す、すごい……
「その顔を見るにお前さん……一人で行こうとしておるじゃろう……?ヒヒッ……そうじゃなぁ……
この時の僕は自分の死の衝撃に気を取られて、「二人とも」の意味を、省略された言葉の存在を、理解してはいなかった。
ババさんとリリとはそこで別れた。あまり時間を浪費したくは無かったから。リリには「はなれたくない!」ってごねられたけど。
死にたくないならダンジョンには行くな。それでも行きたいなら墓地公園へ行け、か……一体どういう事なんだろう?
ダンジョンに行けば死ぬというのは分かる。ダンジョンは、クリーチャーズマンションは危険な所だ。その可能性は十二分にある。でも、それと墓地公園には何の関係が?
死者繋がりのジョークか何かだろうか?いやいくら変わり者でもそんな不謹慎なジョークは流石にないか!アハハハハ……
…………
気付いたら墓地公園の前まで来ていた。
大小さまざまな墓石が少しの間隔を開けて所狭しと乱立している。墓参りをしている人の姿もそこかしこにあった。
はぁ……何をやっているんだ僕は……時間が無いはずなのに……
死ぬかもしれないなんて最初から分かっていた事だし、覚悟もしていたはずだ。それが人に言われただけで、ちょっとばかり凄い力を持つ占い師に言われただけで、何をビビっているんだろうな……
結局買い物も忘れてるし、とっとと戻ろう……
「あっ」
その時、端の方に見知った後ろ姿が二つ見えた。一人は有り得ない程の巨体で背中には立派な大槍を携えている。もう一人は全身をローブで覆い隠しているが、何故か背中が不自然に膨らんでいる。
見間違うはずもない、それは怪物とエルエルだった。
「おーい!」
僕は二人に駆け寄った。ババさんのあの言葉は、怪物とエルエルがそこに居るっていうことだったんだ!
「王子!!」
僕の声に振り返ったエルエルは、ガスマスクをしていても分かる程に目を輝かせて飛び込んできた。
「良かった!二人の行先を聞いてなかったから、」
「ああ、言い忘れていたな……こうして少し墓参りをしていたんだ」
怪物の前の墓には、姿無きフェニックス全員の名前が彫られていた。
「……そっか」
怪物はクリーチャーズマンションを攻略したばかりだというのに、栄光を手にしたばかりだというのに、かつての仲間の為に、自分を置いて行った仲間の為にこうして真っ先に墓を訪れたのか……
その気持ちが分かる時が、いつか僕にも来るのだろうか?
「自分の名前があるというのは変な気持ちだな」
そう言って笑った怪物に、
「いやっ、分からないよ」
僕は苦笑するしかなかった。
「バヘン!」
「バヘン?」
僕を抱きしめていたエルエルは、唐突にそう言った。
「ジェニちゃんがおいしいって教えてくれたのよ!私も食べてみたいわ!」
バヘン中毒者は布教活動を欠かさないらしい。いつの間にかエルエルもバヘンの魅力の何たるかを吹き込まれていたみたいだ。
「エルエル悪いけど、それはジェニに直接頼んでみて。僕には時間が無いんだ」
「なんで?」
「それは――――――」
語った。お母さんがクリーチャーズマンションへ行ってしまったこと。それが僕のせいだということ。今すぐにでも助けに行きたいこと。そして、
「僕だって分かってるよ、一人で行くことがどれだけ愚かしい事かなんて、僕だって分かってる……!
……怪物は三年ぶりに帰ってこれた。エルエルは初めてランジグに来た。ジェニは大切な家族に囲まれてる……
……巻き込めないよ……付いてきてだなんて言えないよ!
だってこれは僕のエゴで……僕の
気付けば全身に力が入っていた。まるで僕の体が、その続きの言葉を発することを拒んでいるかのように。
「僕は一人で、」
「
怪物の言葉が遮った。力強く、明るく、自信とやる気に満ち溢れた言葉が。
「
そして堂々と言いのけた。
怪物にだって家族が居るんだ。何年も会ってない家族が。言いたいことは幾つもある。聞きたいことも、聞いておかなければいけないことも。でも、そんな風に言われたらもう……
「断れないじゃないか……」
怪物はにっと笑って僕の頭をくしゃくしゃに撫でた。
「私もついて行くわよ王子!」
そこにエルエルもそんなことを言い出した。
「でもエルエルは初めてクリーチャーズマンションを出たんだよ?そんな直ぐに戻らなくても、もっと町を観光していってもいいんだよ?」
これ以上僕の都合に仲間を巻き込みたくない。
「確かにこの町は凄いわ!まるで中世の時代に来たみたい!ここで暮らすのもきっと楽しいと思うわ!けど、王子がまたクリーチャーズマンションに行くって言うんだったら私も行くわよ!」
「だって」と彼女は続ける。
「
それじゃまるでプロポーズじゃないか……
何でエルエルは僕のことを……僕のことをそうまで好いてくれるんだろう……?過去にどうたらというのは僕には分からない。けれど、出会ってからの僅かな時ですら分かる程にエルエルは僕のことを好いてくれている。
だからこそ巻き込みたくない。
「でもこれは僕のせいで起こった問題で、僕の手で解決しなけりゃいけないことで、僕がお母さんに会いたいだけなんだ!
大義名分も何もあったもんじゃないよ!ただ僕がお母さんと仲直りしたいだけなんだ!それだけのことに仲間を巻き込みたくないんだ!
巻き込みたくないんだ……それでも……ついてきてくれるの?」
あれ?僕は何を言っているんだろう?これじゃまるでついてきて欲しいみたいじゃないか……
「ひゃっほうっ!!」
ニコニコと笑って僕を見ているエルエル。
ひゃっほう!?なんで今!?どういうことなのエルエル!?
ぁ……そうか……僕がギルドで……そうだった……
なんだこれ……?なんだろうこの気持ち……二人とも一切躊躇うことなくついてきてくれるって言った。死ぬかもしれないのに。またあの悪魔に遭遇するかもしれないのに……
「ひゃっほうっ……」
僕の口から漏れ出たそれは涙混じりの、嬉し涙混じりのひゃっほうっだった。
【余談】
ババは占い師として死相が見えたアニマをクリーチャーズマンションに行かせたくは無かった。
墓地公園にいるアニマの仲間なら、アニマを止めてくれるかも……と思い、そう口にした。
変人のババは往々にして舌足らずの言葉足らず。
その真意はアニマには伝わらなかったようだ。
その奥に秘められた更にもう一つの真意も。
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