第6層 悪魔

第93話 終焉のダイレクトロード


「私も第6層には滅多に行かないの」


 第6層へと続く階段を登りながら隣をエルエルが歩く。


「だから悪魔がどこに居て何をしているかは分からないの……とにかく私たちは目立たないように行動しなくちゃね」


 真剣に話してくれているけど、階段を登るたびに揺れる黄金の髪と純白の翼がふさふさと綺麗で、揺れると言うとたわわなおっぱいも僕の眼を釘付けにして止まない。


「と言っても悪魔はほとんどの時間を寝て過ごしているわ。起きている時間は少ないはずよ。何日か或いは何ヶ月かに一回目を覚ますくらいかしら」


 頭ではきちんと話を聞いている。けれども目線は煩悩に正直で、ダメだと分かっていても男のさがには敵わない。


「なんでそんなん分かるん?」


 ジェニがエルエルに横から問いかける。今は階段の内側から僕、エルエル、ジェニと並んでいる。怪物は先頭だ。


 本来ならジェニは僕の横を歩く。いやジェニが横に来ると言うか僕が横に行くというか、とにかくいつもそんな感じでべったりとくっついていた。


 『距離を置け』正直どうやっていいのかわからないから、僕は敢えて端っこを歩いてその横にエルエルを挟むことで物理的に距離を置いている。


「悪魔は起きている間は獲物を探し続けるわ。あれはもう病気よ。もし普通に毎日起きていたらクリーチャーズマンションの生物はとっくに絶滅してるわ。悪魔もそれが分かってるからたまにしか起きないのよ」


「ほへー。じゃあ悪魔が寝とることに期待するしかないってことやな」


 エルエル越しに見るジェニはやはりかわいい。ていうかこの眺め最強じゃない?人外級の美女と世界レベルの美少女のツーショット。


 エルエルのワガママドスケベボディーもいいけど、ジェニの等身大の可愛さも最高だ。どれだけ見ていようと見飽きる事なんかない。


「起きていたらどうするんだ?」


「心配しないで!その為の私よ!安全なルートを案内するわ!」


 おお!エルエルがいきなり胸を張ったから緩いローブから形が強調されて凄いことになってる!あまりの大きさにジェニの胸が隠れちゃってる!


 うっひょーーー!そのまま歩くもんだからダンスっちゃってるよ!


「……アニマ胸見過ぎ」


 ジト目のジェニからは良く分からないヤバさが伝わってくる。


「みみみみ見てないよ!何言ってんのさははは!」


「ホンマに~?」


「ほんとほんと!僕が嘘ついたことあった?」


「割とあった気するんやけど」


「ききき気のせいじゃない!?ほらっ僕って清廉潔白って書いてアニマって読むくらいだし!」


「ぷぷっなんやそら!」


 わたわたと慌てながら言い訳する僕にジェニがぷぷぷと噴き出した。


「あ、あはは……あはははははは……」


 なんだか良く分からないけどいい雰囲気な気がする。


「ってんなわけあるかー!」


「あだ」


 ジェニのチョップが僕の頭に直撃する。


「そう簡単には騙されやんで!?」


「すみません嘘ですめっちゃ見てました!」


 ババッと素早く頭を下げる。


「えっゲロんのはや!?お漏らしのアニマやん!」


「不名誉!」


「お漏らしのアニマ……」


 エルエルが口を押えてぷるぷる震えている。どうやらツボだったようだ。


「口にオムツ履かしたった方がええんちゃう?変態仮面みたいに」


「大変態仮面じゃん!頭おかしいと思われるよ!」


「おつむだけに?っちゅーてな!」


「あはははははははは――――――!」


 エルエルの爆笑が僕たちのやり取りを遮った。笑い声すらも鈴の音のように美しい。内心少し傷ついたけどエルエルの笑顔を引き出せただけで良しとしよう。


「お前たち気を抜き過ぎじゃないか?」


「そうだね!切り替えて行こう!」


「いやアニマが言うな!」


「あははは――――――!」


 小気味いいジェニのツッコミに更にエルエルが笑う。長い階段を登りながらも面白おかしく時は流れていく。






「なんかあんまり第5層と変わらないね」


「いや建物の感じとかちょっと違うで?」


「二人とも慎重にね!あまり頭は出さないで!」


 第6層は第5層同様辺り一面が硬い建材で作られていて、一直線の道が遥か先まで続いていた。


 第5層と違う所は建物の感じで、第5層が居住区だとしたら第6層は何かの施設みたいな大きな建物が乱立している感じだった。


「この道の突き当りのあの管理棟の中に転移紋があるわ。真っすぐ行くのが最短ルートだけど直ぐに右手の工場の中へ入りましょう。ここは見晴らしが良過ぎるわ」


 エルエルが指さした約10キロメートル先の立派な建物。それが僕たちの目的地だ。僕らは目にしっかりと焼き付け、エルエルの指示に従い、そそくさと大きな建物の中へと入った。


 念入りに辺りを見渡して生体反応が無いか確認してみたけど、虫の一匹すら見つからなかった。


「この工場はいくつもの建物が繋がっているわ。だから外を歩くより中を通って行ったほうが安全よ。でも不用意に物陰からは出ないようにね」


 静かに頷き、警戒心を強めながら進んでいく。エルエルは工場と言っていたけど中は複雑でとても人が作業できるような場所には見えない。


「ここでは誰がどうやって何を作っていたの?人が沢山働けるような場所には見えないけど」


「ここは主に電化製品を作っていた所ね。作ってたのはロボットよ、人じゃないわ。今はもう機能停止してるけどね」


「電化製品?ロボット?」


「あー……えっと……電気で動く人形のようなものよ」


「電気?」


 アホ顔でジェニが尋ねる。


「電気って言うのは……ごめんね、私もよく分からないわ。多分だけど雷を小さくしたみたいなやつよ」


「んん?それでどうして人形が動くの?」


「要するに凄いエネルギーなのよ。私も学校には行ってないから知らないのよ」


「原理は良く分からないけど、無人で稼働する工場ってわけか……凄まじいね」


「やっぱり王子は呑み込みが早いのね」


 顎に手を当てて考え込んでいると、横からエルエルが覗き込んできて感心したように言った。






 コツコツと靴音を鳴らしながら、鉄のようで鉄ではない素材の通路を進んでいく。


 通路は様変わりしないし、工場の中は複雑すぎて入り込めない。生物の気配も全くない。第5層には僅かに小さな生物の気配があったのに。


「結局ブジンさん見つからなかったね。痕跡すら全然分からなかったよ」


 エルエルも第6層のことに関してはそこまで詳しくないようなので、工場やその他の施設などについて考えていてもらちが明かない。


 いくら気を張っていても何もないので、退屈になってジェニに話しかけていた。


「ホンマやなー。やっぱりオトンはもうランジグ帰っとるんやろなー」


 ジェニは頭の後ろで手を組んでいる。


「なんだか少し安心したね」


「ジェニはちょっと残念やけどなぁ。どうせならカッコよく助けたかったもん」


「ふふっ。ちょっとわかるかも」


「やんな!」


 その手を解いてニヤリと笑うジェニ。


「うん!」






 その後もかなり長い事歩き続けた。建物の中を隠れながら進むという事もあってか、右に行ったり左に行ったりと遠回りをしながらの道のりだからだ。


 第6層は確かに複雑すぎて良く分からない。先人たちが理解できなかったのも無理はないだろう。僕もエルエルの説明があってもよく分からないから。


 余りに生物の反応が無いせいで完全に油断していた。そのせいで気が付くのに少しだけ遅れることになった。


「っっつ!!」


 ジェニと横並びにならないように先頭を歩いていた僕が突き当りを曲がろうかという所で、やっと気が付いた。


 でもその時にはもう遅かった。体は半分壁から出てしまっていた。


 その曲がり角の向こうには大きな生体反応があった。


 僕はそいつに見つかってしまった――――――






【余談】

精神は肉体に依存し、肉体は魂が形作る。

魂が変われば器である肉体も変わる。

魂とは存在としての核である。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る