第83話 怪物と呼ばれた男⑤
姿無きフェニックスのメンバーは皆フレンドリーで、どこかアットホームな雰囲気にウガチも居心地の良さを感じていた。
特にリーダーのアンドリューとは不思議と馬が合った。
年が近いという事もあっただろう。スケベでいい加減な所も多いアンドリューだったが、パーティーのリーダーとして色んな所で金を工面したり情報を集めたりと色々頑張っていた。
そんなアンドリューの話は面白く、特に女がらみのトラブルが絶えないせいで話のネタには困らないようだ。
女性と付き合ったことなど一度もないウガチからしてみれば、それは物凄く新鮮かつ刺激的で、アンドリューからしても、ウガチの狩りや医療の話は面白かった。
「姿無きフェニックス……面白い名前だ……どういう意味だ?」
皆で夕食を食べている時に、ウガチはふと気になってそう尋ねた。
「ジョナサン、言ってもいいか?」
「ああ……いいぜ。ウガチももう立派な仲間だからな」
アンドリューはなぜか神妙にジョナサンに尋ねると、ジョナサンもいつものおちゃらけた感じではなく。
「ジョナサンのとこの家族は昔から体が弱くてな……冷え込む季節にゃ寝込むことも多かった。幸いジョナサンはそこまで弱くは無かったんだが、3年前に親父さんが死んじまってな……そのショックでお袋さんも寝込んじまって、今は妹たちがその面倒を見てるんだ」
アンドリューは真剣に語りだした。
「昔からの付き合いも長かったから、俺とピーターで金出し合ったはいいものの、元々金なんて大して持ってねぇ貧乏な俺たちだからよぉ。薬も碌に買えやしねぇ……」
「あいつらもそろそろ結婚とか考える歳だろうに、付きっきりで看病して……かわいそうだぜ……」と小さく付け足す。
「そんな時、ある噂を聞いた。なんとクリーチャーズマンションには不老不死の存在がいるらしい。そいつは手をかざしただけで怪我や病気を治しちまうんだとよ。目撃者の話では背中に大きな翼が生えていたそうだ」
こんなかんじじゃないか?と手で翼っぽい形を作りながら説明する。
「直ぐにビビーンときたぜ!これだ!その力があれば助けられるって!直ぐに二人とも相談した!そして結論がでた!それは!……噂は噂でしかないだろうという結論だった」
言葉には熱がこもっていき、段々と早口になっていく。だが大きく息を吸うと、静かに続きを語りだした。
「そういう噂は昔から幾度となく囁かれてきた……だが誰もその正体を知らない。誰も不老不死を確かめてない。結局暇を持て余した無責任な奴が酒の席でデタラメ言っただけだろうってな」
当時の自分を皮肉るように笑いながらアンドリューは酒をゴクッと飲み干した。
「でも本当にそうか?常識の一切通用しないクリーチャーズマンションだぞ?昔から噂はちょくちょく出てたんだ!火のない所に煙は立たないって言うだろ!?不老不死の一つや二つあったって何も不思議じゃない!」
再び熱が入り、どんどん饒舌になっていく。
「俺たちはむしろこれはチャンスだと思った!俺たちがその姿を現さない恥ずかしがり屋の不死鳥を見つけてやろうってな!そしたら金も入ってくるし、ジョナサンの家族も助けれる!そこにはロマンも実益もある!!
過剰なほどのジェスチャーと共に熱く語り、最後には立ち上がってそう叫んだ。
「ああ、十分過ぎるな。零れてしまわないか心配なくらいだ」
「ウガチ!!お前なら分かってくれると思ってたぜ!!」
アンドリューはウガチの肩に腕を回すと、「乾杯だ」と、店員が持ってきたばかりのグラスを空にする。
ピーターとジョナサンも続いて楽しそうに飲み干す。
気分の良くなったアンドリューは「もっともっともってこーい!」と更に酒を注文する。
「ああもうそんなに飲んで……誰が介抱すると思ってるんですか……」
「いいじゃねぇかよ!今日はウガチの歓迎会だ!お前も硬いこと言わねぇでもっと飲め飲めぇ!がははははは!!俺たちは姿無きフェニックスを必ずこの手に掴んでみせるぞぉ!!がはははははは!!」
いつの間にか歓迎会と化した愉快な夕食は、次の日の朝まで続く事となった。
「ブジンさんだ」
「おお」
「ギルドに来るなんて珍しいな」
「聖ダン・ザ・ヨン学院にいるんじゃなかったか?」
周囲からはそんなざわめきが聞こえてくる。
「ウガチ!俺のパーティーに入らないか!?」
その言葉を聞いた瞬間、ざわめきは更に大きくなる。
「はっはっは!俺としたことがつい飲み過ぎてしまってな!うっかり誘い忘れてたわ!いやー、起きたら頭も痛いし散々だったな!はっはっはっは!」
大太鼓のような低くも迫力のある声で、ブジンは豪快に笑う。
「自慢だが、うちは超一流の仲間たちが揃っている!最高の環境でクリーチャーズマンション攻略を目指せるぞ!どうだ?一緒に来ないか?」
「そこは自慢じゃないがだろう?」
「いや実際ブジンさんのパーティーはバケモノ揃いだよ。自慢しても誰も文句なんか言えないさ」
「あのウガチって奴もかなりの使い手だったしな」
「ビビってねぇでもっと早く声かけときゃ良かったぜ」
「俺あいつに誘われたことあるぜ!」
「マジかよ!?」
「怖くて断っちまったがな……」
「何やってんだよバカ!超一流の人材をゲットできたかもしれねぇのによぉ!」
周囲の冒険者たちはウガチとブジンのやり取りを見ながら、ひそひそと話をする。
「すまない剣鬼。俺はもう姿無きフェニックスというパーティーに所属することになった。仲間を裏切るような真似は出来ない」
ウガチはアイシャを見ながらそう即答した。
「そうか先に誘われてしまったか……ならば仕方ない!引き抜きはマナー違反だからな!出遅れた俺の負けだ!はっはっはっはっは!暇があればまた飯でも行こう!」
ブジンはそう言うとあっさりと帰っていった。
「ウガチくん本当に良かったんですか!?ブジンさんのパーティーに誘われるなんて凄いことですよ!?ほとんどの冒険者は泣いて喜ぶほどです!私たちも流石に文句は言いませんよ?」
突然のことに、小心者のアイシャは若干パニックになっていた。
「まだ付き合いは浅いが、俺はこのパーティーが気に入ってる。何よりアイシャは俺を怖がりながらも、話しかけてきてくれた。それは誰にでもできるようなことじゃない。少なくとも俺はあの時アイシャの勇気に救われた気がした」
ウガチは改めてアイシャに向き直ると、
「
ウガチが心の底からの笑顔を見せたのは、この時が生まれて初めてだったかもしれない。
「うん!」
アイシャは嬉しそうに頷いた。いつも通りの敬語じゃ無かったのはたまたまだろうか?
少なくともウガチはこの時の無邪気なアイシャの笑顔を忘れはしなかった。
その後、ギルド内は暫くウガチを仲間にできなかった者同士で反省会が開かれていたという。
【余談】
ジョナサンは長男で下に三人の妹たちがいる。
ピーターは一人っ子で、アンドリューは五人兄弟の次男だ。
アイシャは三姉妹の末っ子で上二人とは年が離れている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます