最終話 アルド、保険の契約に臨む

      ユニガンの酒場にクエストアイコン。

      ティムとユイが契約の準備をしている。


ティム   アルドさん!お待ちしていました。

アルド   ああ。なんか、ドキドキするな。保険の契約なんて、初めてするから。

ティム   僕も、契約をお預かりするときはドキドキしますよ。さあ、これが契約書です。良く目を通してください。

アルド   本当に字が細かいし、難しいな!でも、分からないことがあれば、ティムに聞けば良いんだろう?

ティム   ええ、そうしてください。ところで、受取人はどなたにされますか?おじいさまですか?

アルド   いや、それだとまた、じいちゃんとケンカになるからな。フィーネにするよ。

ティム   分かりました。

ユイ    私はフィーネちゃんを受け取りたい。

ティム   ユイちゃん、ちょっと意味が分からないよ。

アルド   それで、俺は何をしたら良いんだ?

ティム   あとは、告知事項と言って、ケガや病気の経験と、その治療の有無ですとか、それ以外のちょっとした質問に答えて頂いて、サインをして終わります。

アルド   そうか。病気もしたことはないし、大したケガもしたことは無いから、大丈夫だろう。

ティム   それでは、告知事項の質問をしていきますよ。全ての質問に「はい」か「いいえ」で答えてもらいます。一つでも「いいえ」があると、契約することができません。それでは、一つ目の質問です。「あなたは人間ですか」。

アルド   え?何なんだ、この質問は?


      アルド、予想外の質問に面食らってしまう。


ティム   ええっと、その、これは一応の確認をしていまして……

ユイ    例えば、魔獣の人とか、今後は加入者になる可能性もゼロではないし。そうすると、寿命もかかる病気も全く異なるから、一応聞いているんですよ。

ティム   なんでそんなに動揺するんですか。え、まさかアルドさん、魔獣の方だったんですか?

アルド   いやいやいや。人間だよ。

ティム   ですよね。良かったあ。ここで「いいえ」だと終了ですから。ははは。

アルド   (……だ、大丈夫だよな)

ティム   気を取り直して、次の質問です。「あなたはひと月以上安静にする必要がある病気にかかったことはありますか」。

アルド   いいえ、だな。

ティム   「あなたは、ケガにより不自由となった体の部位はありますか」。

アルド   ないぞ。いいえ、だ。

ティム   「あなたは現在、余命を申告されるような病気にかかっていますか」。

アルド   そんな質問があるのか。もちろん、いいえ。

ティム   素晴らしいです。体に関する質問は、次が最後ですよ。「現在、常用している、医者に処方された薬はありますか」。

アルド   これもいいえ、だな。

ティム   おめでとうございます!これでほぼ、ご契約頂ける条件は整いました。

アルド   本当か?良かった、少し緊張したぞ。

ティム   あとは、形式的な質問ばかりなので、ここで引っかかる方はあまりいませんよ。

アルド   意外とあっさりしていたな。じゃあ、残りの質問も答えるよ。

ティム   ええ。えーっと、「あなたは、犯罪行為に加担した事がありますか」。

アルド   そんなことはしないぞ。

ティム   ですよね。次で本当に最後です。「あなたは、自ら、危険な運動や行為をしますか」。

アルド   ……えーっと、うん。しないと思うぞ。

ティム   あっ……。

ユイ    あっ……。


      間。

      過去の映像がフラッシュバックする。

      ユニガンで、ティムが男に絡まれていたシーン。


アルド   「あいつ……凶器を持ってる。助けよう!」


      続いて、港町リンデで、衛兵に武器を構えるシーン。


アルド   「仕方ない、やるしかないか……!」


      そして、バルオキーでの村長とのケンカのシーン。


アルド   「だめだ、フィーネ。こうなったら戦うしかない。じいちゃん……胸を借りるよ!」

   

      村長との戦いの後、膝をついているシーン。


アルド   「はあ……はあ……じいちゃん……いくらなんでも強すぎないか。」


      フラッシュバックが終わり、場面はユニガンの酒場に戻る。


ティム   ……アルドさん、それは……虚偽申告になりますね。

アルド   えっ!


      アルド、驚く。


ユイ    ……あなたのお人好しには何度も助けられたけど……自分から危険に飛び込む人を、保険の制度に入れることはできないわ。

アルド   そんな……ここまできて……。


      アルド、項垂れる。


アルド   でも、仕方ないな。前にティムが言ってたじゃないか。不正な事をしたら、信用を無くすって。保険に入れないのは残念だけど。

ティム   アルドさん。将来、家族を持ったりして、今よりも落ち着いたら、また必ず、ご相談下さい。

アルド   ああ、もちろんだ。そんなの、いつになるか分からないけどな。


      アルド、笑う。


ユイ    そうだ。新しく、パンフレットを作ったんですよ。

アルド   へえ。……あれ、会社の名前が変わってるぞ。

ユイ    王様の厚意にあずかって、会社名を正式に変えたんです。

アルド   このマークはなんだ?浮き輪?

ティム   トレードマークですよ。二人で話し合って、浮き輪をモチーフにしたんです。デザインしたのは、もちろんユイちゃんですけど。

アルド   へえ、そうなのか。

ティム   あの、もしよければ、仲間の方に、このパンフレットを渡して頂けませんか。

アルド   ああ、分かったよ。じゃあ、またな。


      アルド、酒場から出ていく。

      酒場から出た後、もう一度パンフレットを見るアルド。


アルド   結構な量を渡されたぞ。まあ、良いか。……よく見ると浮き輪に何か書いてあるな。T……I……M……。ああ、会社の頭文字かな。それにしても、あれだけ騒いで契約できなかったなんて、じいちゃんに言えないな……。


      アルド、パンフレットを抱えて、歩いていく。

      リンデの港を背景に、パンフレットの内容が語られる。


ユイの挨拶 ロゴマークの浮き輪には、私たちの願いが込められています。創立者の父親が海難事故で亡くなった時、冒険貸借という仕組みに加入していたことで、残された家族の生活が助けられました。私たちには、残念ながら不幸な事故を防ぐことはできません。でも、その後に訪れる経済的な危機は、防げるかもしれない。


      セレナ海岸、静かな海を臨みながら。


ユイの挨拶 大切な人、愛する人がいる全ての人へ、彼らが溺れない為の浮き輪を用意する事。それが、私たちミグランス貿易生命の使命であり、切なる願いです。

代表社員 ユイ・スタティクス


      『Quest Complete』

                                      

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黎明!ミグランス生命 @TonaXman

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