第2話 アルド、契約プランを提示される

      王都ユニガンの酒場、奥の席に受注アイコン。

      酒場には、ティムの他に、黒髪に眼鏡をかけた女性ユイがいる。

      ユイは、一心不乱に帳面に何かを書いていたようだ。


ティム   あ、いらっしゃいましたね。どうぞこちらへ。そういえばお名前を伺っていませんでしたね。僕はユニガン貿易保険のティムと申します。剣士さんは?

アルド   俺はアルドだ。よろしくな。

ティム   アルドさんですか。よろしくお願いします。そうだ、実は紹介したい人がいるんです。彼女、僕の仕事仲間なんです。


      ユイ、アルドを一瞥して挨拶をする。


ユイ    ユイです。どうも。すいません、今ちょっと手が離せなくて。

アルド   ああ。……なんだか帳面にびっしりと書いてるな。

ティム   実は、彼女は僕らの事業の根幹を担っているというか……まあ、順番に説明をしていきますよ。

アルド   ああ。俺がもし、ひどい怪我をしたような場合の話だったよな。

ティム   ええ、そうです。さて、もし先ほどのお話のように、妹さんにお世話してもらう事になった場合です。アルドさんは、この状況を望みますか?

アルド   そんなの、嫌に決まってるじゃないか。

ティム   具体的に、何が嫌なのでしょう。


      アルド、腕を組み考える。


アルド   うーん、まず、自分の体が思い通りに動かないのは、もどかしいよな。

ティム   そうですね。他には、どうですか。

アルド   他にか。やっぱり、フィーネとか、じいちゃんに迷惑をかけたくはないな。じいちゃんだって、もう年だし、俺の世話なんかしたら大変だよ。

ティム   うんうん。フィーネさんはどうですか。

アルド   フィーネも……そうだな。あいつは優しいから、俺の事を一生世話するといったら、本当にそうしそうだな。

ティム   それは、嬉しい事ではないんですか。

アルド   嬉しいわけないだろ。だって……あいつだっていつかは、誰かと結婚をしたりして、幸せになってほしいし……。


      アルド、眼を閉じて想像し始める。


アルド   俺の存在が、あいつの将来を変えてしまうかも知れないな。

ティム   なるほど。では、もしアルドさんが動けなくなってしまったら、ご家族以外の人に、世話をしてほしいと、そういう事ですね。

アルド   うん……まあ、そうなるのかな。

ティム   分かりました。……ところでアルドさん。世の中には、二つの危険があるのをご存じですか。

アルド   二つの危険?

ティム   ええ。即ちそれは、「防げる危険」と「防ぎようのない危険」です。

アルド   ん?防げないっていうのは分かるけど、防げる危険ってどういう事だ?

ティム   例えば、アルドさんが魔物から不意打ちを食らってしまった事、その結果、体が動かせなくなった事。これは、どんなに気を付けていても、防げない時があります。

アルド   ああ。それは分かるぞ。

ティム   でもその後の、ご家族に負担をかけてしまうこと……これも、避けるべき状況という意味で「危険」と呼びますが、これは、然るべき準備をすることで、防ぐことができるのです!

アルド   ちょっと待て。話が良く分からないぞ。


      ティム、深く何度も頷く。


ティム   先ほどのお話では、家族以外の誰かに世話をしてほしいという事でしたよね。おじいさんやフィーネさんの人生に負担をかけないように、と。そうなった場合、家族以外の誰かの助けを借りることになりますが、この時に必要なものは何か、分かりますか?

アルド   なんだろう……人間関係かな。

ティム   人間関係は確かに大切です。でも、もっと根本的な解決策があります。それは、お金です。

アルド   お金……?

ティム   そうです。つまり、体が動かないアルドさんの世話をしてもらえるよう、誰かを雇えれば良いのです。ご家族の負担にもならないし、世話をする人も、その事で生活の糧とすることができる。

アルド   そうか……その発想は無かったぞ。でも、世話をしてもらう為だけに誰かを雇うなんて、今度はその金を用意する為に、家族に迷惑をかけるんじゃ……。

ティム   そう!ですから、そんな状況をですね……

ユイ    はぁ……本当、話が回りくどい……。


      間。


ティム   ユイちゃん、独り言が大きいよ。

ユイ    アルドさんは、冒険貸借という仕組みをご存じですか。

アルド   ぼうけんたいしゃく?

ユイ    東方との貿易で、もし海難事故が発生した場合に、亡くなった船員の家族に保険金として、その後の生活費用がまかなえるくらいのお金が支払われる仕組みです。

アルド   そんな仕組みがあるのか。知らなかったぞ。

ユイ    で、私たちは同じ仕組みを、船員だけではなくて、一般の人たちにも広めようとしているんです。もちろん、タダではないです。賛同者は、保険料という名目で、自分の年齢に応じた金額を定期的に徴収される仕組みです。その見返りに、亡くなったり、契約書に書いてある特定の状態になった場合には、保険金が支払われることになるんです。

アルド   へえ、それはすごいな。

ティム   今の説明で分かりましたか?

アルド   ああ。すごく分かりやすかったよ。

ユイ    で、どうしますか?

アルド   うーん、そうだな。その保険料だっけ?それが、いくらくらい掛かるのか気になるな。

ティム   おお!具体的に検討してくれるんですね!これが、契約内容の例と、料金の一覧です。


      アルド、手渡された書類を眺める。


アルド   うーん。高いんだか安いんだか、よく分からないな。

ユイ    実は、そこはちょっと検討中のことがあって……

???   おい、ティムはいるか!


      と、店外からガラの悪い男の声が響く。

      男、店内に入ると、ティムへ恫喝を始める。


男     てめえ、この手紙はどういう事だよ。「ご請求頂いた内容では、保険金がお支払いできません」だと?

ティム   ええっと……あなたは、先日ご請求頂いた方ですよね?

男     そうだよ。この前魔物にやられて、右腕が上がらねえんだよ。これじゃあ働けねえから、保険金をもらおうと思ったら……出ねえってどういうことだよ!

ティム   まあまあ、落ち着いてください。一緒に契約書を確認しましょう。……ほら、ここに書いてあるんです。


      ティム、契約書を男に見せる。

      男、ティムに近寄って契約書を眺める。


ティム   読み上げますよ。「なお、怪我により働けない状態とは、以下の通りとする。一つ、両腕または両脚のいずれかが全く動かない事」……ほらこの通り、残念ですが、片腕が動く場合は、支払の対象にならないんですよ。

男     はあ?こんな細かい字で書いてあって、誰が読むかってんだ!詐欺だろう!

ティム   いや、ちゃんと契約書には書いてありますから、騙しているわけではないので……。

男     ごちゃごちゃ言ってるんじゃねえ!

ユイ    あの。お店に迷惑なので、続きは外で話してくれますか。

男     ちっ……。おう、ちょっと面貸せよ!


      男、店の外に出る。


ティム   ちゃんと説明をしたんだけどなあ……。


      ティム、溜め息を吐いて、後を追う。


アルド   なあ、あいつ、大丈夫か?

ユイ    大丈夫でしょう。彼、逃げ足は速いから。

アルド   ああいうトラブルは、よくあるのか?

ユイ    相手は選べって、いつも言ってるんだけど。誰かれ構わず声をかけるから、ああいう事になる。

アルド   うーん。ちょっと心配だな。様子を見てくるか。


      イベントシーン終了。

      王都ユニガンの酒場のすぐ近くにイベントアイコン。

      ティムが、男に詰め寄られている。


男     金を払えねえって言うんならよう、今までに支払った分の金と、迷惑料も払ってもらおうか?


      男、右手に凶器を持ってティムを脅している。


ティム   あれ、あなたもしかして右腕も動くんじゃないですか?それは虚偽申告ですから、ダメですよ!あなたに保険金は絶対にお支払いできません!

男     そういう話をしてるんじゃねえよ。お前も、俺みたいに怪我したくないだろう?


      そこへアルドがやってくる。


アルド   あいつ……凶器を持ってるぞ。助けよう!


      男との戦闘。ただのチンピラなので、アルドに敵う理由が無い。

      戦闘終了後、男は地に伏せている。


男     くそっ……無茶苦茶な強さだ……。

ティム   あの!納得がいっていないのでしたら、解約はもちろん受け付けます。でも、保険金は、本当に困った人たちに届けたいんです!だから、本当に心配になった時は、もう一度考えて下さい。

男     ……誰がそんなもんに金を出すかよ!


      男、立ち上がり、そそくさと立ち去っていく。


ティム   アルドさん、助けてくれてありがとうございます。

アルド   いや、怪我が無くて良かったな。それにしても、ティムは勇気があるな。脅されても、最後まで自分の考え方を曲げなかったじゃないか。

ティム   それは……そうですね。僕は、この……保険という仕組みを、もっと多くの人に知ってほしいんです。その為には、脅されたからって不正な保険金を支払ってはいけないんです。信用を無くしてしまうから。


      ティム、俯きながら答える。


ティム   あの、今日は先程の書類を持ち帰って頂いて、じっくり考えてもらえませんか。それでまた後日、お返事を聞かせてください。

アルド   ああ、そうだな。バルオキーに帰った時、家族とも相談してみるよ。


      ユイ、離れた場所で事の顛末を見ており、胸をなでおろす。


ユイ    本当、世話が焼ける……。


      『Quest Complete』

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