Episode 4  消えたネコ親父

 亜麻猫 猫乃を服従させた数日後、色々あった。トイレの仕方を教えたり、ご飯の好き嫌いを調べたり、言語を教えたりした。

 一番苦労したのはマーキング場所を変えることだった。その間、いや思い出すのはやめよう、ムーリーマンとかタイムリーとか考えてしまう程だった。

 苦労を抱えながら迎えた月曜日。疲労感たっぷりのせいか悟の目の下には一目で分かるほどのクマが出来ていた。

 悟は自転車に跨り、学校へ向かおうとするも体が震え、危ないと信号を発した。

 仕方なく悟は最寄りの駅を向かい汽車に乗り込んだ。

 田舎は電車のように上に電線があるわけでもなく、SLでもないため汽車と呼ぶことが多い。

 悟は端の席に座り、軽く目を瞑っていると妙な気配を感じた。


「悟りさん。行って頂きありがとうございます」


 その紳士のような声と丁寧な口調、


「猫又か」


 悟はそう呟いた。周りを見渡し、妖術を心に込め、心で会話をするようにした。


「あなたさまは、どこまでも出来る人なのですね」

「余計なことは聞かないでくれ、疲れてるから」

「それは、大変でしたね」

「……あの猫の女、いや亜麻猫 猫乃はあんたの娘だろ」

「ほう、どうしてそうと」

「根拠はない。あんな短い期間で何も分かるわけないだろ。でも分かったことも、もちろんある。それは猫乃は猫又と人間のハーフの可能性があるということだ」

「なぜ?」

「しっぽだよ、完全に二又に分かれてた。ありゃぁ、立派な猫又だよねぇ」

「未熟のため出てしまったのですか」

「やっぱり何か知っている口調だな」

「ははっ、それはどうですかね」

「だったら何であんたの依頼に猫又関連が出てくるんだよ!」

「それは…私の隠し不足ですね」

「否定するなら隠す努力も怠るなよ」

「いやぁ、これは失敬」

「はぁ、どうする、猫乃を引き取るか?」


 猫又はただ真っすぐ悟を見つめて、


「あなたに任せます…それに亜麻猫 猫乃ですか…良い名前ですね」


 そう言って姿を消していった。

 「あ、おい」と悟の声は虚しく消え、残ったのは羞恥の目線だった。悟は、「ぐぅ」といびきをかき、寝言みたいな感じにした。背中で冷や汗を掻いていたのが分かった。

 駅に着いた悟は足早に汽車を降りた。そしてすぐさま高校へと向かう。周りの同じ高校の同級生たちや上級生、下級生はスマホを急いで電源を落としていた。いつもの光景に変わりない。

 長い坂道を上がり、生徒玄関に入った。結構キツイから毎朝健康習慣がついてしまう。そのせいか、足腰は勝手に鍛えられる。

 靴からシューズに履き替え、教室に入った。猫乃が家で大人しくしているかだけが心配である。

 また掃除の日々を考えるとそれは・・・それでまたあとで考えよう。息が詰まる。

 それに考えることはまだある猫又のことである。あいつは俺に猫乃を頼むと言われた。猫乃があいつの娘であるという事実に変わりないだろう。

 はぁ、娘を簡単に男に渡すなよ。

 はぁ、それに言語とか躾とか教えてやってくれよ。

 はぁ、ここ最近溜め息しか吐いてないな。

 はぁ、帰ったらお掃除が残ってるんだろうな。

 はぁ、幸せ逃しまくっているように感じてしまう。

 悟は黙って教室に入り、席に座り、脳には決断回数がある。もう疲れた休ませないとオーバーヒートしてしまう。

 そして、うつ伏せになり眠る事にしたのだった。

・・・

 「かはっ」と吐血をする姿が真夜中の暗闇が取り込んだ。

 天使のような羽が生え、フォークのような槍を持ち、神々しさがあり、空を飛ぶ者が言う。


「おろかな猫よ。私が神の元でお前を裁いてやろう」


 そう言って、槍を猫に突き刺した。

 猫は断末魔を叫んで黒いもやとなり消えていった。

 猫を殺した者は言う。


「汚らわしき獣に神の導きがあらんことを」

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