Episode 2 猫のすゝめ
猫又の依頼で三つ巴橋へ向かった悟。そこに現れたのは猫耳やしっぽを生やした女だった。危険なため止む無く動きを封じ、家に連れ帰ったのだが、これは傍から見たら完全に犯罪でしかないのだ。
動きを封じた今こそ分かるのだが、猫の女はまともな服を着て無く、例えるなら童貞を殺すセーターだ。ボロボロのTシャツが地上波放送ギリギリで成り立っている。
服は…また後日として、とりあえず、猫の女をソファに寝かせる。
結束バンドを外す前に悟は墨汁を使ってあることをやった。それは妖術封じである。大層なことはしないが、術をかける対象の腹部に『封』と妖力を込めて書くだけである。
なぜ、悟はそんなことができたのか。その原因は悟の育て親である悟の両親にあり、妖怪である母親が主な原因である。父親は父親で一癖あるのだが、それはまた後日。母親は三大妖怪とも言われている玉藻の前、簡単に言えば九尾の狐である。
どういった経緯で結婚まで至ったのかは知らないが、母親に妖怪のことについて叩きこまれた。妖怪の母親は、妖怪などのオカルトな勉強を主にしていて、数学や国語は最低限出来ればいいという教育方針だった。そして、いつも「楽しい?」って聞いてきた。
妖怪とか好きだった悟は「うん」と答えていた。「良かった」と母親は笑顔でいう。これがいつもの光景だった。ある日、母親がポツリと語った。
「こんな変わった勉強をしてるとね、人間言うのは、『あいつ人生は終わっている』とか『なんの意味があるの?』とか心無いことを言ってくる人が必ずいる。勉強の意味とかも求めてくる人間もいる。いいかい悟、これに答えは無いの。そもそも答えを求めること自体が間違っているのよ。答えを求める人間は型にはまった生き方しかできない。型にはまることが出来ない人間を貶めることで自分を保ってる人間なのよ。悟、いつか私が言っている意味が分かった時、あなたが主人公の物語が始まると思うわ」
と。悟は黙って聞いていた。自分が主人公の物語というのにあまりピンっと来ていなかったのだが、つい最近、妖怪どもの依頼をこなすようになってから母親の話がなんとなく分かる気がしている。
「いや、そんなことを考えている暇ではなかった」
悟は改めて今後どうするか考えることにした。数分経ったあとで眠気が湧いて来た。今日は土曜日。部活にも入ってないので実質休みである。悟は、疲れがたまっていたのか、そのまま床で崩れ落ちるように眠った。
・・・
「何があった」
朝。午前九時を回った時、悟は目を覚ますと同時に落胆していた。原因は、タンスの角にあった黄色の水溜まりである。
悟の家には、悟しかおらず、猫も犬も飼っていない。犯人は誰かすぐ分かってしまう。それは猫の女だ。
黄色の水溜まり以外にもティッシュをバラまいたり、冷蔵庫を荒らしたり、皿が何枚も割れていたりと、一晩にしてゴミ屋敷と化していた。
取り敢えず、右手でチョキをつくり、人差し指と中指の間を閉じ、妖力を集中させる。すると、暴れまわっていた猫の女の動きが停止した。
もっと早くしておけばよかったと悟は後悔した。たちまち、猫の女は、空き部屋に放り込み、カギを閉めた。動けないようにした上で扉には鍵を閉めた。
酷いと思うなら好きにしろ。こっちの命が危険だからやっているのだ。
悟は黄色の水溜まりから掃除を始めた。
これを聖水とかほざいている奴らに飲ませてやろうか。なんて考えながら、トイレットペーパーなどを率いて綺麗にしていく。それから、割れた皿へ、ティッシュへと掃除を続けた。
二時間かけて、掃除し終えた悟はソファーで寝転び一休みした。起きて早々、妖力を使い、掃除をこなした。今日の深夜よりも疲れた。
悟はぐっと伸びをして、猫の女の様子を見に行くため、空き部屋へと向かった。カギを開け、扉を開けるそこには、涙になった猫の女の姿があった。
悟は酷いことをしている気分になった。これがペットを飼っている人たちの気持ちなのか。よく知らないけど。
様子を見ながら、妖術を解いていた。野生というのは恐ろしく、ほんのちょっと開放しただけで、一瞬で間合いまで入ってきた。
悟は咄嗟に猫の女の動きを封じた。
猫の女の爪が、あと数ミリで悟の喉というところまで来ていた。
どうすれば言う事を聞いてくれるのだろうかと少し考えたところで悟は一つの案を出した。だが、見る限り一般言語は通用しないだろう。
そして、言葉に妖力を込め、猫の女に話しかける。
「今から、タイマンしようよ。それで負けた方は勝った方の言うことを訊く。おけ?」
猫の女は驚いた顔をしながらも、頷いた。言葉の意味が分かる事に驚いているのだろう。こうやって言葉の通じないものとの話し方を教わったのも母親だ。妖力を込めて話すことで一般言語が話せない妖怪とも話せるのだ。
悟は、手首と足首を解し猫の女と間合いを取る、二メートルくらい離れ、そして、
「いいか、行くぞ」
「にゃぁっ!」
そして、スマホを手に持ち、
「これが地面に落ちた瞬間にタイマン開始な、おけ?」
「にゃん!」
悟は、スマホを高く上に投げる。スマホは重力を受け、下に落ちていく。
スマホが地面に落ちた瞬間、戦いの火蓋は切って落とされた。
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