妖怪どもの依頼処

ぐち/WereHouse

Chapter1 猫と人と妖怪と

Episode1 ミイラ化する人間と猫の女

 高校のとある教室。部屋の片隅で本を読む青年がいた。教室内は色々な話題でざわつく中、その青年、十四代 悟(じゅうよんだい さとり)には、もう一つの声が聞こえていた。……それはクラスメイトの心の声である。

 心の声は本心で、他人に知られれば困るものである。だから、決して自分は心の声が読めるとは言わない。

 そもそもなぜ、悟は人の心の声を読めるのか。それは、生まれついた個性というものだ。空気を読むのが上手い人がいるだろう。あれの上位互換と思ってくれればいい。

 悟の顔には寝不足のせいか、クマがいつもあり、やる気のなさが滲み出ている。中肉中背の陰キャラ男子という言葉が似合う。

 そんな悟にも相談相手くらいはいる。それは、妖怪である。

 悟には、心を読む個性の他に、まだいくつかの個性が所持している。異界な者の存在が見えるのも個性の一つである。

 妖怪どもは、妖怪と話せる人間という事で、よく悟に人の事について相談を受ける。

 妖怪どもには「人は本当に欲深い生き物なのか?」と聞かれることが多く、悟の答えは決まって「欲深いよ。人を救おうだの、ヒーローになりたいだの多くの欲で溺れそうになるくらいだ」と答える。

 それを聞いた妖怪も決まって「ヒーローになりたいか、可笑しなものだ」と首を傾げて帰って行く。

 確かに十分可笑しいと思う。好きなあの子に振り向いてもらうためにわざといじられキャラを演じるやつ。あの子は自分のことが好きなのかもしれないと勘違いするやつ。はたまた、ここで事故が起こってそれをクールに解決する俺というの妄想するなどクラスの男子はよく似たことを考える。

 例え高校二年生になったとしても男子は年中腐二病。その言葉に尽きる。

 今日も相談相手が、悟の傍に近くに寄ってくる。いつもは形もなく影しかいない妖怪が相談に来るのだが、今日、影、姿がある妖怪、猫又だった。

 猫又は、紳士を思わせるような大人びた声で、

「悟さんですか?」

「そうだけど、何?どんな相談?」

「相談ではなく、依頼をしたいと思い、声を掛けさせて頂きました」

「依頼?」

「はい。まだニュースになっておりませんが、先日夜遅く、近くの土手道で人がミイラ化するという事件がありました。それを解決して頂きたいのです」

「人がミイラ化…もしかして妖怪が関与しているってことですか?」

「それはわかりません。ですが、人をすぐミイラ化するのは人には不可能でしょう。もしやと思い、依頼をしに来ました」

「あの、僕って相談しかのらないというか、依頼と言うのは受け付けてないですよ」

「え?でも、妖怪たちの間では依頼も請け負ってくれて、大抵のことは解決してくれると」

「ちょっと待って、それ誰から聞いた」

「……それはお答えできません」

「え、何で」

「それではお願いします」

「え、ちょっと待って」


 ピューと風が吹くと同時に妖怪の気配は消えた。普段は相談にしか乗らないようにしているのだが、極まれに厄介な妖怪が依頼をしに来るのだ。厄介な妖怪、それに依頼を請け負ってくれるというのなら、大体予測はつくのだが、取り敢えず、それは後回しにしよう。押し付けられた感があるが依頼は依頼だ。

 残された紙切れには住所と時間帯が書いてあった。時間は丑三つ時で午前三時であった。


「この時間帯にメモの場所へ行けということか…仕方ない行ってみるか」


 早めに風呂と晩御飯を済ませ、19時には寝た。そして、深夜1時に目を覚ました。

 某スポーツメーカーのジャージを着て、軽く柔軟体操をする。そして、コーヒーに牛乳と練乳を合わせた激アマコーヒーを一気に飲み、やる気を注入する。

 外に出て愛車の黒をメインのクロスバイクに跨り、目的地に向かった。

 薄っすら白いモヤが見えていた。ぐんぐんとスピードが上げるクロスバイク。心地の良い少し寒い空気が悟の体を駆け巡る。

 気が付けば、目的地に到着しており、路肩にクロスバイクを駐車して、辺りを捜索する。

 目的地は町では有名な橋がある場所で、巴橋と言う。町と町を繋ぐ大切な橋だ。架け橋をイメージし半月のような形をしている鉄部分は赤色でコーティングされている。半月の中は所々、支える為の柱があり、それも赤色で統一されている。

 一回り探したが、見つかる気配がなかった。悟は自動販売機で温かいココアを購入して、橋の中心にある風景をみるスポットのようなところにあるベンチに座り、ココアを飲んでいた。

 その時、ネクタイを頭に結び、顔が明らかに赤く、千鳥足で右へ左へと歩いているベラベラに酔った中年が巴橋を渡って来た。

 ゆっくりながらも酔っぱらいの中年は、悟に向かってくる。そして、酒臭い口を悟に向け、


「子どもが何深夜をであるいてんだぁ。なんだ、自分探しか?いいよな子どもは暇で!!わしなんかksjdifrhhcikjdhikjnhiwssfhuf」


 と後半らへんは言葉になっていなかった。悟の心の中で、『早くどっか行ってくれないかな』と何度も言っていた。

 ……一瞬の出来事だった。酒臭い中年が一瞬にして赤から焦げ茶色になった。

 次の瞬間、背後から途轍もない殺気を感じた。悟は咄嗟に前宙をして攻撃を避けた。だが、太ももが熱くなり、目をやると切り傷が出来ていた。

 殺気を出しているやつはかなりの素早さで目で追うことが出来ず、悟には攻撃を避ける事がやっとだった。

 すーっと息を吐き、


「どうして依頼はいつも厄介事だらけなんだ」


 と呟いた。

 悟は目を瞑り足を肩幅に開き息を止めた。そして、殺気を出しているやつが背後を攻めてきた。一閃、悟は殺気を出していたものの鳩尾にグーを喰らわせた。

 悟はバタッと崩れ落ちるのを見て、すぐさま両腕を結束バンドで拘束する。

 これで一安心だと思っていると、あるものが目に見えた。……それは二つに分かれたしっぽだった。

 それにぷりっとしたおしりにやけに体つきが細い。これはもしかして、と悟は顔を確認する。

 そこには、綺麗に整った顔があった。ロングヘア―で猫耳が付いている。

 それを見た悟は大きなため息を吐く。


「あの猫又、僕を何に巻き込もうとしてんだよ」


 人の形をして猫又のような姿をした猫の女。

 もし半人半妖ならばと思うと、この先が滅入ってしまう。

 その時、


「どうやら、お困りみたいですね」


 と声を掛けてきた。悟は直ぐに誰か分かり、


「お前、妖怪どもに依頼も解決してくれるって話をバラまいたようだな」

「私は別に悪気が合ってやったわけでは」

「一度だけだと言ったはずだぞ」

「そうでしたっけ」

「この鳥頭が……」

「それはお褒めの言葉ですか?」

「違うわ!あぁもうなんでもいいや」

「大丈夫ですか?」

「誰のせいか教えてやろうか」


 そう言って悟が睨んだ瞬間、「私はそろそろ予定がありますので」と言って、羽を広げて空を飛びながら、


「どうやら、あなたは不運体質なようですね、実に面白いですよ悟さん」


 そう言い残し、去って行った。悟は、


「まったく、迷惑でしかない」


 と、悟は言った。

 そして悟は、猫の女を抱えながら、自宅へと向かうのだった。

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