ガラス越しの視線(正確に言うと違う)

 M-8号はスネイルの方を見た。より正確に言うなら頭部カメラをスネイルの方へ向け、スネイルに焦点を合わせた。

 スネイルは人工生命体で、軟体動物を参考に作られている。液体のように隙間に潜り込み、様々な作業をするために作られたものだ。

 スネイルもM-8号の方を見た。より正確に言うなら全身の感覚器をM-8号の方へ向け、M-8号の動向を知ろうとした。

 M-8号はロボットだ。人間と生活も一応可能なタイプだが、その中でもハイパワーで、どちらかと言えば工場や工事現場で人間と混じって力仕事をするタイプの武骨な機械。

 どちらも数世代前のタイプだ。人類の発展は著しく、10年とたたずに機械は更新され、彼らは誰も訪ねてこない博物館の中で動態保存されている。

 たぶん、バグが出たのだろう。スネイルはM-8号を交尾対象と認識していた。人工生命体は交尾などしないが、そういう認識だけは持っている。

 展示ケースに入れられる前は警備の仕事についていたM-8号は、スネイルのことを警護対象だと認識した。自分も展示品だと気づいていない。

 誰一人、この2体のすれ違いラブロマンスに気付いていない。


《お題:フニャフニャの想い 必須要素:人間使用不可 制限時間:15分》

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る