時代の鏡

 駄菓子を詰め込んだバンを走らせていると、スラムの近くで浮浪児が倒れているのを見つけたことがある。

 今の子には想像もつかないかもしれないが、私が子供だった頃はこの国は豊かと言ってよく、慈善という言葉が死語ではなかったので、これから行く予定だった救貧団体の孤児院まで連れて行って面倒を見てもらうことにした。

 バンの積み荷の中からうまい棒を一本せしめたその子の笑顔は素敵だったのを覚えている。

 それからスラムはどんどん広がって、孤児院は救貧団体ごと無くなり、こちらも営んでいた問屋が傾き、その子のことなんて頭の中から消えかけたころ、テレビ、つまり一斉送信式の旧メディアでその子の顔を見た。

 暗殺者としての指名手配。

 殺しのプロとなった彼女の瞳には、絶望しか映っていなかった。


《お題:薄汚い瞳 必須要素:うまい棒 制限時間:15分》

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