スタルギアの大黒板

 私はついに世界三大驚異の一つであるスタルギアの大黒板にやってきた。霧の向こうにうっすら見える谷の対岸は観光客で込み入っているが、谷のこちら側、大黒板の真下にいるのは私とシェルパ、そして案内人だけだ。

 私の頭のすぐ上には、錆び付いた金属の腕がある。この腕こそ大黒板が世界三大驚異と呼ばれる理由、三百年間毎晩動き続け、夜ごと山の山頂部丸々使って作られた大黒板にチョークで絵を描く自動機械だ。

 時刻は既に夕方。ほどなく機械が動き始める。最初に動き出すのは巨大な黒板消し。悲鳴のような声を上げ、大量のチョークの粉を私たちの頭の上に降らせる。三百年の間に布地とスポンジは失われ、苔とカビがその代替物となっている。私は来ていたパーカーのフードを被る。フードの上にチョークの粉にカビと苔が混ざったものが降り注ぐ。

 案内人が祠にチョークを捧げる。祠は機械とつながっており、機械は何百本ものチョークを使って絵を描き始める。

 世間ではスタルギアの大黒板は一晩中かけて絵を描いていると思われているようだが、実際には真夜中ごろには描きあがる。それまではチョークが黒板をひっかく音で耳がもげそうだが。案内人の一族は慣れたものらしいが。

 明け方、朝日に照らされた大黒板を見る。描かれているのは太古の王様らしいが、不完全に消された絵の上に描かれたためぼやけた印象を受ける。

 だが、そのせいだろうか、彼はこちらを覗き込んでいるように見える。目が四つある怪物のようにも見える。

 いつか、この汚れの集積の上に完全な姿で描かれ、その時こそこの古代の王としてふるまっていた何か、スタルギアの大黒板を作らせた怪物がよみがえるのではないか。私は最近そんな夢をよく見る。


《制限時間:1時間・お題:汚い黒板・必須要素:パーカー》

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