カティア王女のミニチュアピアノ

 アルゴン=テラスティラ連合王国の王女・カティアの身長は30㎝しかなかったといわれている。彼女の生活の場は特注のテーブルの上であった。

 さて、カティア王女が物心つくと王族としての教育が始まり、楽器の演奏を身につけるためにカティア王女が引ける大きさの楽器が必要となった。アルゴンの7州とテラスティラの全土から選りすぐられた職人たちがミニチュアサイズの楽器を作りあげた。ヴィオラ、フルート、ハープ……中でもカティア王女が得意とされたのはピアノであった。カティア王女のピアノはまさしく天上の音色であった。

 さて、カティア王女が王女のまま、特注テーブルの上で老衰で亡くなると、カティア王女のピアノはテーブルごと宝物殿に仕舞われることとなった。それからしばらく経ったある夜、警備の衛兵がカティア王女のピアノが物悲しい曲を奏でるのを聞いた。

 これはカティア王女の亡霊なのだろうか?

 否、当時の大臣・マルクールの残した日誌によれば、真実は異なる。マルクールが調べさせたところ、ミニチュアサイズのピアノ自体に自動演奏機能が付いており、それが何かの拍子に動き出したとのことだった。

 カティア王女のピアノの腕が偽りのものだったということは伏せられ、噂は尾ひれの付いた、そして物悲しくも美しい幽霊譚としてのちの世に残った。

 幽霊以上に驚異の存在であるミニチュア自動演奏ピアノは戦災で宝物殿ごと焼け落ちてしまったと伝えられている。


《制限時間:30分・お題:ちっちゃな姫君・必須要素:ピアノ》

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