軽自動車でかえろう
「俺たちは4人で来たはずだ」
「ああ。たしかに」
「車、4人乗りだもの」
「うん、間違いない」
「でも、だとしたら……」
そこで俺たち全員は押し黙った。
真由子が再び口を開く。
「なんで5人いるの?」
「つまり誰かは偽物って事だ」
俺が言うと克彦が言った。
「偽物?どういうことだよ?そんなことありえるのか?」
「つまり、ここで起きる怪現象ってこと?」
玲美が尋ねると新一が同意した。
「うん、そうだろうね。この中の誰かはお化けが化けているんだろうね。座敷童の伝承とかによくある、遊んでいたらいつの間にか一人増えていたってパターンだ」
「なに暢気なこと言ってんだ!つまり、俺らの中の一人は化け物って事か!?どうすんだよ」
俺が食ってかかると新一はこともなげに言った。
「落ち着いてください。皆、来たときのことは覚えている?」
「うーん、あんまり。たしか後部座席に乗って……」
「なんか記憶が曖昧なのよね。お酒が入っていたせいもあるけど」
「……記憶が曖昧になるのも、この種の怪現象ではよくあるパターンだからね」
真由子と玲美にそう返す新一。彼も記憶が曖昧になっているようだ。
その時、玲美が言った。
「……うーん、運転していたのは男性だったと思うけど」
「ナイス!」
新一が言う。
「僕は免許を持っていません。そして……」
新一は俺の方を見る。まあ、言わんとすることはわかる。玲美と俺は相当飲んでいた。こんな酒臭い男にハンドルを握らせたわけがない。
「というわけで、運転してきた克彦さんは本物です」
「そういうことになるよな」
ともあれ、ようやく一人確定……というとき、真由子がこう言った。
「思い出した!」
「なにを」
「わたしの隣に玲美さんが乗ってた!」
「たしかか?」
「うん。後部座席に女子二人で乗ったのを覚えてる!」
玲美の方を見る。
「そうね。わたしも隣が女子だったのはたしかよ。眠くてもたれかかった記憶があるから。男子じゃないのはたしか」
「うん、玲美さん、ものすごく飲んでいたもの」
となると……。
「俺か新一のどちらかが化け物って事か」
「そうなりますね。克彦さん、助手席にいたのはどっちか覚えてる?」
「……わからん」
俺は言った。
「少なくとも俺は本物だぞ。この車、俺の車だ!」
そう。ここまで乗ってきた軽自動車は俺の持ち物だ。そもそも飲んでいたのも俺のアパートで、みんなを呼び集めたのも俺だ。この集まりが俺抜きで成立しない以上……
「偽物なのは新一の方だ」
「でも、それっておかしくない?」
そう言ったのは玲美だった。
「もしさぁ、新一が偽物なら「この中に偽物がいる~」なんて言わないんじゃない?」
「それはそうだが……。だけど、俺がいなかったらこの集まりは成り立たないんだぞ?みんな克彦と初対面だろ?」
真由子、新一は同じサークルの後輩、玲美は俺のゼミ仲間。そして克彦はバイト先で知り合った友人だ。他の三人だけなら同じ大学の学生である以上、どこかで知り合っていてもおかしくないが、彼らと接点のない克彦が本物である以上、俺がいないとこのメンツはそろわないはずだ。
そのとき真由子が言った。
「たぶん、こういうことだと思います。最初、わたしたちは本物の先輩の家で飲んでいたんです。そして、ここに肝試しに来ることを思いついた。
そのとき、本物の先輩は車の鍵を貸してくれて、自分はアパートで帰りを待つことにしたんです!」
こうして俺は心霊スポットに放置されることが決定した。
朝日が廃墟を照らしていく。
朝が来るのを待っていれば良かったのだ。この清浄な光に照らされれば、怪異なんて消え失せたであろうに。
朝日は酒で鈍った俺の記憶をも蘇らせた。――俺、ここまでガッツリ飲酒運転してきていたのである。
眼下に見えるつづら折りの坂。壊れたガードレールの下から、運転手を失って転落して炎上した俺の軽自動車が上げる煙が天へ昇っていった。
《制限時間:1時間・お題:嘘の誰か》
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