坊ちゃまと姫様

「申し訳ございません!」

 昔のことでございます。あるお貴族様の坊ちゃんが遠乗りに出かけられた際、御馬の前に一人の男が飛び出してまいりまして、それを御馬が踏みつけてしまったばっかりに坊ちゃまは落馬してしまわれました。

「ええい、許さぬ。償う気があるのなら、この僕の奴隷として働くのだ」

 こうして男は家族の元から引き離され、貴族の坊ちゃんに扱き使われるようになったのです。

 それから何年も経ちまして、坊ちゃまは一人の姫君に恋をいたしました。しかし、姫君には既に婚約者がいました。それも坊ちゃまよりお金持ちで、坊ちゃまより位の高い、大公が婚約者なのです。勝ち目のない坊ちゃまは涙で枕を濡らします。

「坊ちゃま。もしもわたくしを奴隷の縛めより解いてくださるなら、坊ちゃまが姫君と結ばれるように取り計らいましょう」

 男が言いました。

「たわけ。おまえに何が出来る」

「わたくしには出来ません。しかし、わたくしの父にはその力があるのです。

 わたくしを祝いの品として姫君にお贈りください。坊ちゃまの願いを叶えてさしあげましょう」

 坊ちゃまは藁にもすがる思いで、男のいうとおりにしました。

 さて、姫君と大公の初夜。姫君の召使いとなった男はそっと戸口を開けました。

「でかした。我が息子よ」

 男の父、大盗賊団の大親分は言いました。

 男の開けた戸口から、盗賊達が押し入って、召使い達と大公を殺し、金品を奪っていきます。

「父上、姫君は坊ちゃんに差し上げなくては」

「良いとも。おまえが大公の屋敷に潜り込めたのも坊ちゃんの紹介あってのことだ。分け前は与えないといけない」

 翌朝、坊ちゃまのお屋敷に縛られた姫君が届けられました。

 その次の日には、怒り狂った姫君と大公の親が率いる軍隊によって、坊ちゃまは八つ裂きにされてしまいました。

 それでも、その前に坊ちゃまは姫君と結ばれたようです。なぜなら姫君はその後すぐに「賊に犯されたことを恥じて」毒を飲んで死んでしまわれたのですから。


《制限時間15分・失敗・お題:薄汚い償い》

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