第3話 儀式 熱狂へと

アルド、リィカ、青年の三人はティレン湖道の外れにいた。道端を流れる水の音が耳に心地よい。普段は静かなこの場所に、今日は人だかりができていた。


青年

「この先が儀式の会場です!」


アルド

「あれは もしかして……!」


リィカ

「生体認証 一致率95.2%

さきほどの ローブの男デス!」


人の集まるその手前に、さきほどのローブの男が立っている。どうやら奥が儀式会場で、男はその門番ということらしい。


青年

「世話役!

新規の人を連れてきました!

これで今日も無料ですよね!?」


ローブの男

「よかろう。 3人とも通るがいい。

……ほう お前たちも来たのか……。」


アルド

「あんた達 この儀式の関係者なのか。

不老不死ってどういうことだ?」


ローブの男

「フ 体験すればわかることだ。


後ろがつかえている。

参列するなら中へ。」


アルド

「……。」


青年

「行きましょう!」


青年に促され、アルドとリィカはやむなくそのまま儀式会場へと進んでいった。


◆◆◆


一行は人だかりの中へと分け入ってゆく。よく見ると一人で来ている者はほとんどいないようだ。ほぼ全員が新規の紹介者を連れてきたということだろうか。アルドたちは適当な場所に陣取り、儀式が始まるのを待つことにした。


アルド

「ずいぶん人が集まってるな……。」


青年

「そりゃあそうですよ!

だって素晴らしい儀式ですから。


ボク 仕事が嫌で嫌で 

そのストレスで

死にそうだったんですけど


儀式に毎日通うようになってから

めちゃくちゃ体調いいんです!

やっぱり不老不死の体は違いますね〜!」


リィカ

「ソウイエバ今日は

お仕事のほうは よろしいのデスカ?」


青年

「あっ はい!

儀式と時間が被ってるので

ここ最近 仕事はブッチしてます!」


アルド

「ええっ!?」


リィカ

「体調が良くなったのは

単に 仕事を休むように

なったからデハ……。」


青年

「あっ! あそこ! 

来ました! 始まりますよ!」


リィカの指摘を流し、青年が遠くを指差した。女性二人が前後に並んで歩いてくるのが見える。さきほどの母娘だった。


アルド

「さっきの2人だ!」


母親の方は、人の頭ほどの大きさの何かを恭しく運んでいる。布に覆われて中は見えない。

二人は人だかりの正面で足を止めた。母親が高らかに宣言する。


母親

「我らは 『石の民』!

我はその族長なり!」


荷を覆っていた布が取り払われる。中身は石であった。それも、棘の生えたような独特の形状をした赤い石。族長はその石を両手で高く掲げた。


族長

「見よ この赤き石

巨焔石きょえんせき』を!


われら石の民が

この巨焔石の力を用いて

そなたらに不老不死の奇跡を与えよう!」


群衆

「ウオオオオオオオ!!!」


群衆が沸き、会場は熱気に包まれる。アルドとリィカは戸惑いながら辺りを見回した。

族長が横にいる娘に巨焔石を渡す。


族長

「では 祈祷を始めよ。」


「はい……。」


受け取った巨焔石を両手で持った娘は、群衆に背を向け数歩進むと、足を止めた。目を閉じて何かを唱え始める。


「石よ 我は希う

その裡に秘めたる力を示し

我が祈りに 応えんことを……!」


娘の詠唱に呼応するように巨焔石が光を放ち始めた。その光は、儀式の場にいる全員を包み込み、やがて溶けるように消えていった。群衆のほうへ向き直った娘は静かに告げる。


「今日の祈祷はこれで終わりです。

皆様の行く末に幸多からんことを……。」


群衆

「ウオオオオオオオ!!!」


族長

「祈祷の効果は一日。

不老不死を失いたくなければ

明日も来ることだ。」


ふたたび群衆が沸く。気の所為だろうか、先ほどよりもその声が大きく感じられる。母娘は歓声の中を去っていった。


◆◆◆


儀式が終わり、参列していた人々がぱらぱらと帰ってゆく。アルドは怪訝な顔でひとつ伸びをした。


アルド

「うーん…… 

疲れが取れたような気はするけど

不老不死って感じは しないよな……。」


青年

「いやいや何言ってるんですか!

今のでボクたち きょう一日

不老不死になったんですよ!」


リィカ

「ソモソモ 不老不死とは

『きょう一日なる』

ものなのデショウカ……?」


青年

「そうですよ!

だってこんなに気分が良いんですから。


ふう〜! これで今日も

心おきなく帰って寝てられます!

それじゃ!!」


青年は満足げな顔をして街のほうへと駆けて行く。韋駄天というべき速度であった。それほどまでに、早く帰って寝たいのか。


「良い儀式だったわ!」

「明日も必ず出なくちゃな。」


しかし青年だけではない。ほかの参列者たちも口々に儀式への賛辞を述べて会場を後にする。みな一様に、熱に浮かされたような恍惚とした表情を浮かべていた。


アルド

「皆 不老不死になれた って

すんなり信じてるのか……。」


リィカ

「ドウ見ても胡散臭いデス!」


アルド

「そうだよな……。

いったいどういうことなんだろう。

娘さんに話を聞いてみよう!」


リィカ

「奇シクモ 酒場で待ち合わせデシタネ。

行きマショウ!」


アルドとリィカは、石の民の娘に会いにアクトゥールの酒場へと向かった。

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