三大最強種






 魔物。或いは魔獣。或いはクリーチャー。或いはマガツヒ。


 国、地域、言語圏によって他様々な呼称を有す、悪意の具象たる穢気より産まれし異形。

 生殖器は備わらず、血肉は猛毒を孕み、際限皆無の凶暴性で以て遍くを喰らい貪り奪い尽くさんとする、浮遊大陸に於ける全生命の天敵。


 ……が、一概に魔物と言っても玉石混交。

 故、各種の脅威度は、能力や性質などを総合した上、大きく四段階に振り分けられる。


 穢気を自ら生成できず、才覚と鍛錬次第によっては個人でも対抗可能な『低位』。

 対峙には最低十人以上が推奨され、小規模な穢気源泉の主に収まる場合も多い『中位』。

 百人未満での討伐例は極めて少なく、町ひとつ滅ぼし得る力を持つ『高位』。


 そして――『王位』。


 千姿万態を体現せし魔物の中でも、この局地的な天災に喩う位階の当該は、僅か三種。


 五つの姿を持つ『巨獣』。

 七色に分かれた『竜』。

 十罪を象徴する『悪魔』。


 牙剥けば山河砕き、地図すら書き換えてしまう、正真正銘の怪物達。

 是即ち、三大最強種也。


 ……以上、お菓子のオマケのカードより抜粋。






 慚愧の森を形作る、悉くが樹齢千年級の巨木群。

 力増すに連れ大柄となる傾向の強い魔物を塞き止める、謂わば消波ブロック。


 それが、纏めて十数本。

 爪楊枝みたいにへし折られ、吹き飛んだ。


「俺様の後ろを離れるなぁっ!!」


 土砂と共に降り注ぐ、埒外な質量の雨。

 俺達三人、加えて動けぬランパード氏を背、立ちはだかるシンゲン。


「すうぅぅ――ブロォォオオオオオオオオッ!!」


 裂帛。掠めただけでも五体四散は免れぬだろう、馬鹿げた威力のロングアッパー。

 夥しい風圧が竜巻も同然に落下物を噛み、平野から森へと


 コイツやっぱサイボーグだ。


「人体って不思議……」


 物理法則ガン無視。流石のジャッカルも思考放棄気味。

 凄いよね。異能や旧時代の遺産はおろか、魔具ひとつ使ってないのにね。


「がははははっ、軽いもんだぜ! 朝飯前の茶漬け七杯、てな!」


 朝飯入らねぇよ。

 腹八分目どころか、腹はち切れちまうわ。


 と。


「……ま。向こうにしたって今のは、ほんの挨拶代わりだろうけどよ」


 シンゲンを起点に渦巻く空気が、変わった。


 燃え盛る闘志。眦と口角の吊り上がった獰猛な笑み。

 理由など、改めて尋ねるまでもない。


 ――か、はっ。


 重く強烈な圧迫感。肺の中身が全て押し出される。

 鉄塊でも抱え込んだかの如き錯覚。堪らず膝をつく。


「こいつは穢気……禍々しいな。そこらの源泉を凌ぐ濃度だぞ」


 独り言つジャッカル。

 程なく、その元凶は、いっそ悠然と現れた。


 ――ま……じ、かよ。


 巨躯、なんて表現には到底収まりきらぬ、ピヨ丸が可愛く思える、あまりにも外れたサイズの輪郭。

 視界に捉えただけで頭よりも深い部分が全霊の警鐘を鳴らす、本能で理解させられる、生物としての絶対的な格差。


「大きいですねぇ」


 五獣の一。六眼三尾の狼。

 真偽は分からねど、嘗て万の軍隊を蹴散らした逸話すら持つ、浮遊大陸の頂点捕食者。


 ――フェンリル。





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