超人
スリのオッサンとシンゲンとの単純なスピードを比べると、やはりシンゲンに軍配が上がる。
何せ彼の速力ステータスはD+。普通に短距離走でオリンピック上位入賞を狙えるレベル、らしい。
しかも人を避けながら進むオッサンと違い、ほぼ直進。追い付くのは必然。
ただ、土地勘の分だけ地の利は向こうにある。
そのせいで今一歩のところ、決定打までは届かない。
鬼ごっこ開始より、早一時間。
未だシンゲンは、オッサンを捕まえられずにいた。
「待て待て待て待て待て待て待て待て待てぇぇぇぇいッ!」
「あ、そっち右に逃げましたよぉ」
「おうともさ! 逃がすかぁッ!」
ピヨ丸に乗ってるカルメンは兎も角、体力無限か、あの筋肉オバケ。
あんだけ走り回って、あんだけ叫び倒し続けて、どうして汗ひとつかいてないんだよ。
「ふっ……ふぅっ……まあ、当然だな……ゲホッゲホッ!」
息上がってる時に喋ると辛いぞジャッカル。無理すんな。
さっき見えたスリのオッサンなんか半ば死に顔だった。よく頑張るもんだ、ガッツあるな。
捕まったら牢屋暮らしだから、頑張らざるを得ないんだろうけど。
「各ステータスの評価……アルファベットの間には、隔絶した差が存在する……そしてランクが上がるにつれ、その距離は更に広がって行く……」
突然始まる解説。
ジャッカルの説明好きも、考えてみると厨二病の特徴な気が。ほら、コイツら罹患者って往々に知的キャラを演じたがるじゃん?
しかし、こんな状況でも構わずとは。恐れ入る。
まあ要するに、例えばDとCは表記上だと一段階しか変わらないけど、実際の能力には相当な開きがあるってことか。
つっても半段階上がっただけのD+さえ、地球人類七十億超の中に数千人居るかどうかだもんね。うん納得。
で、そこに加え、もうひとつ上のBとCには、より大きな隔たりが存在すると。
成程。だとしたらシンゲンの体力筋力B+ってのは、俺が思う以上に遥か理外の値なのかも知れない。
「そうだな……ゲホッ……この前、検証のためネットの画像を解析アプリにかけて調べたが……人類史上最高の天才と呼ばれた一人、かのジョン・フォン・ノイマンですら……知力はCだった」
うっそ。デジマ?
いや、ノイマンさんとか殆ど名前くらいしか聞いたことないけどさ。確か六歳かそこらで八桁の割り算を暗算しちゃったような方でしょ?
中学生が授業中の暇潰しに考えた最強キャラ並みの天才じゃん。なのにC?
「つまりCこそ、人の実質的な天井……そこから先は即ち、種の設計限界を超越した者の領域……」
あーうん、前にも言ってたね。半ば異端とか、完全に人間やめてるレベルって。
てっきり比喩かと。
「……すまん、流石に疲れた……少し休む」
走りながらの長文で消耗が嵩んだのか、ふらふらと立ち止まり、呼吸を整えるジャッカル。
良かった。俺、一緒に走ってる奴が止まってくれなきゃ休めないタイプなんだよ。
あーしんど。
「はぁ……はぁ……」
曇った眼鏡を外し、汗ばんだ細い首をハンカチで拭い、服の胸元を緩める。
はぁはぁ言ってるのも合わさって、いつもより女性的だ。ちょっと色っぽい。
「……もう。こんな姿、あんまり見ないで」
恥じらい顔で唐突な女言葉は禁止。
「クハハハハッ」
確信犯かてめぇ。年下をからかうんじゃねぇよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます