ハガネの依頼






「…………刀が欲しい、わ」


 ギルド加入の妙案が浮かぶことも無く、されど時間は粛々と過ぎ去り、進展ゼロで迎えた翌日。

 早朝、腹に圧迫感を覚え目覚めると、ハガネが馬乗りになって俺を見下ろしていた。


 なにこの状況。


「…………昨日。傭兵ギルドに行った、の」


 突然の出来事に硬直する俺を他所、構わず話を進めるハガネ。

 せめてシンキングタイム貰えませんか。


「…………登録したいと言ったら……笑われた、わ」


 でしょうね。中身は兎も角、見た目はロリだもんね。

 実は俺達一党の女性陣だと一番胸が大きいけど、それを加味してもロリ巨乳だもんね。小柄のくせ、なんでそこだけ酔っ払ってんだ。

 しかもセーラー服の時はぶかぶかで目立たなかったが、今は肩を晒すように崩した着物モドキの所為で、より一層強調される形になってる。

 ちゃんと着ろ。零れそうだぞ。つか下着は?


「…………むかついた、から。十人くらい、半殺しにした、わ」


 バイオレンス過ぎるだろ、この猛獣ロリ。実は日本で何か事件とか起こしてないか本気で心配になってきた。ジャッカルが解析したステータスの思想欄も、コイツだけ明確に『悪』だったし。

 ……まあ、こんなピンク髪がニュースに出てたら嫌でも覚えてる筈。大丈夫か。多分。未成年者保護法? 知らないね、そんなスワヒリ語。

 都合の悪いものは見ざる聞かざる言わざる考えざるがモットーなんだ。


「…………そうしたら、ギルドの代表が出て来て……ついでに、シンゲンも」


 シンゲン。きっと加入試験で大層やらかしたに違いない。

 試験官を壁にめり込ませたとか。


「…………ん……なんやかんや……登録に至った、わ」


 コイツ説明が面倒になって端折りやがった。

 大体の顛末は想像できるから、別にいいけど。


 ――で? それと今とに何の関係が?


「…………傭兵が手ぶらじゃ、格好つかない、わ」


 首に下げた、傭兵ギルドの紋章が刻まれた真新しい認識票タグを見せながら、ハガネが述べる。

 一理ある言い分。しかし、この状況の説明にはなってない。


「…………どうせ使うなら……刀が欲しい、わ。探すの、手伝って」


 刀。日本人がこう呼ぶなら、十中八九、日本刀のことだわな。

 でも浮遊大陸に存在するのか、アレ。


 第一なんで俺。


 ――カルメンかジャッカルに頼めよ。交渉とか情報収集ならアイツらの方が得意だろ。


「…………あなたが、一番……いい匂い」


 選定基準、意味不明。


「…………それに、一番……暇そう」


 喧嘩売ってんのかチビ。でも買わないぞ、死ぬ。

 心外な、誰が暇人だ。こちとら前途洋々な貴女達と違って、ギルドに入れるかどうかも怪しいの。困り果ててるの。

 よって、バケモノの道楽に付き合ってる時間ナッシング。刀が御所望ならサーベルかタルワールでも振り回してろ。シルエットは似てるぞ。


「…………見付かったら……礼金……弾む、わ」


 ――オーケー、ボス。朝飯食ったら出発しようぜ。





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