刀を求めて
日本刀の捜索は、正直なところ俺の中では全くの無謀ってワケでもなかった。
根拠はハガネの着物モドキ。
和服に近い物が存在するのなら、日本刀だって無いとは言い切れない。
そんな細い理だけれども……まあ、足を使って確かめるくらいの価値は、あるだろう。
「カタナ? あぁ、東方のサーベルか」
俺達がまず向かったのは、アルレシャで最も大きな店構えの武器屋。
差し当たり、日本刀に近い刀剣の実在だけでも確かめられれば御の字くらいに考えていたが……いきなりヒットとは幸先良い。
「剣身に波打った模様の入ってるアレだろ。若い頃、北の方で行商やってた時に何度か実物を拝ませて貰ったが、飾りモンみてぇな外見だってのに、大層な斬れ味の代物だったな」
まさしくまさしく。
日本刀の真骨頂は、その切断力。
一刀が潰れるリスクを度外視すれば、使い手次第で自動車のフロントドアだろうと両断できる埒外な鋭利さ。
思わぬ好感触。ハガネも心なしか赤い瞳に光を灯してる。
が、店主の口ぶりから察すると、この店舗には置いていない模様。
――取り扱ってるとことか、知りません?
「買うどころか、ここらじゃ見るのも難しいと思うぞ。ありゃワコク独自の技術で造られたもんだからな」
ワコク。確か、東方七国のひとつ。
浮遊大陸の東部は、かれこれ五十年以上、絶えず戦争の中にあるとジャッカルが言っていた。
そこに地理上の問題も合わさって、長く治安の落ち着いている南部や、巨大国家によって統一と平定が成された北部とは異なり、西方連合との国交を持たない国も多い。
大陸東端に位置するワコクは最たる例。西方どころか、あらゆる国との繋がりを絶った鎖国状態。国内の情勢すら不明だとか。
唯一明らかなのは、戦場に姿を見せる兵士一人一人の異様な強さ。
故にこそ、領土も資源も乏しい筈のワコクは、他の国々と渡り合えているらしい。
「死体から剥ぎ取ったっつうカタナが稀に西まで流れてくる。その度、鍛治職人ギルドの連中が再現しようと腐心するんだが、どうしても斬れ味と強度を両立できんそうだ」
だろうね。鋼から徹底的に不純物を取り除くための折り返し鍛錬を始め、あらゆる刀剣類の中でも極めて特殊且つ七面倒な手順を踏んだ工程。俺も詳しいワケじゃないが、現品を調べたくらいの見様見真似で複製が可能とは考え難い。
第一、この町の傭兵や警備隊なんかが腰に吊るしてる西洋剣は、素人目で偉そうなこと言うのも悪いけど大雑把。地球人類史に於いて最強最美の刃物である日本刀とは、完成度が雲泥の差。
要するに此方の職人が刀を鍛つとか、そもそも無理。
……しかし、参ったな。
そんな貴重品ともなると、鍛治職人ギルドの門を叩いたところで簡単には売ってくれないだろう。
第一、戦場跡からの拾い物では品質も期待薄。
重ねて、先も述べた地理上の問題。大陸中心部は魔物の巣窟となっている険しい山脈に隔たれており、東西南北の行き来には外周部を経由するのが定石。
そういう諸々の条件込みで考えたら、西まで回ってくるのは精々、折れてたり曲がってたりの粗悪品が関の山。鍛ち直せる刀匠も居ないときた。
――結構な難題だな、こりゃ。どうする?
「…………探す、わ」
実在を知ってしまっては簡単に諦めきれないのか、眉間に皺を寄せつつも小さく零すハガネ。
その返答は予想済みだったため、俺も軽く肩をすくめただけで、特に何も言わなかった。
尚、せっかく武器屋を訪ねたのだから、ついでに浮遊大陸で一般的な武器がどんなもんか見て行くことに。
マスケット銃とか飾ってあった。店主の話を聞くに現行銃火器の殆どはフリントロック式で、実験程度パーカッションロック式の開発が進んでいる段階らしい。
まあ当然か。均一規格で作らなければならない実包の大量生産なんて、完全に機械工業の世界。手工業じゃ、どう頑張ったところで不可能だろうし。
先日ジャッカルが拳銃を欲しがってたけど、実用に足るレベルの品が出回るのは、最低でも数十年先の話になりそうだ。
……まさか、自分で作ったりしないよな?
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