4-19

 「おはようごさいます!」

「桂吾ギリギリじゃん!って、メガネ男子かよ?また、徹夜したのか〜?」

と、悠弥が笑った。

「いや、ちょっと、泣きすぎた。アハハ。

本番前にはコンタクトにするよ!」

車に乗り込み、龍聖の隣りに座った。


「どうした?大丈夫?」

と、龍聖が聞いてきた。

「あぁ、自分に自信をもって、晴れやかな気持ちでデビューしたいから、気持ちの整理をしたよ」

「そっか」

狭い車の中だから、みんなに聞こえたと思うけど、誰もそれ以上は何も言わなかった。


 都内の一流ホテルでのお披露目パーティー。

テレビ局、新聞社、雑誌社などマスコミ関係者が大勢来るという。

大型新人という扱いだと木村さんは言っていた。

俺たちは、今まで一生懸命にバンドをやってきた。

いろんなバンドと一緒にライブハウスで演奏したりもしてきた。

だけど、学校のテストとかスポーツと違って、点数が出たり、勝ち負けがあるわけじゃないから、自分たちの中で、今日は良かったとか、あそこが良くなかったとかの反省をするくらい。

客観的な目で、誰かに評価されたことってなかった。

それを初めて試してみたのが、このコンテストだった。

初めて出たコンテストで、こんなにも高く評価されて嬉しい気持ちと、本当にそこまでの力が自分たちにあるのか?という疑問も感じたりしている。

この大型新人という扱いもなんだかいまいちピンとこない。

それほどに、売れる要素を持っているのか?

一生懸命やってきた。

でも、ここからが、本当の意味でスタートだな!!


 リハーサルの前に、スタッフさんから説明を受けた。

司会者が挨拶、Realを紹介したら、幕が上がる。大輝がカウントをとって、1曲目のveryfarawayを演奏、続けて2曲目BRAVE

2曲終わったところでMC。

MCを俺がやれと言われた。

3曲目、陽炎の如く

4曲目、未来の希望的観測

5曲目、realtime:rock

ここでMC。

メンバーの自己紹介。

MC、YO.I.Nの曲紹介。

ラスト6曲目、YO.I.N

演奏後、ありがとうございました、と大輝が言い、みんなでありがとうございました

で、幕がおりる。


MCの台本を渡された。

たいした内容じゃなかったから、1回読んで暗記した。

「一言一句これってことじゃなくて、こんな感じでってことですから、桂吾さんらしくでいいですよ!」

「はい!わかりました!」

「では、リハーサル 実際に通しでお願いします!」

「はい!お願いします!」


 6曲通してやって、30分ちょっと。

瞬が何ヶ所か気になるところを指摘して、そこをやり直してみたり。

演奏だけじゃなくて、照明さんが照明をあててくれるから、動きの確認もした。

なんだかんだで2時間。

 

リハーサルが終わったところへ副社長が来た。

「あら!桂吾、今日はメガネなの?秀才に見えるわね!」

英語で、からかう口調で言った。

「アハハハハハ!あとで、コンタクトにします!それより今の言い方、すげー母さんぽくてドキッとしたよ!

やっぱ同じマリアだけあって、感じが似てんなぁ!」

と、俺も英語で答えた。

「アハハ!お母さんアメリカ人だっけ?いくつよ?」

「今、いくつかな?俺を生んだのが24だから、今49かな」

「へぇ〜!同い年じゃない!」

「マジか!マリア!歳バレたよ!」

「アハハ!内緒よ!40くらいって言ってんだから!」

「アハハハハハ!9こもサバよんでんのかよ〜!うちの母さんもそんな感じだけどな。

まだ、30代とか平気で言ってっかも。

見た目若く見えるからな。

副社長も若く見えるよ!」

「アハハハハハ!どうも、ありがと!

ね〜、桂吾の英語は、すごく綺麗な発音!

アメリカにいたのは、8歳までだっけ?

それ以降は、日本で日本語よね?」

「あぁ、そうだよ!」

「その割には、きちんと話せるのね!」

「きちんとかどうかはわからないけど、普通に会話するくらいならできるよ!

なんなら、フランス語も話せるよ!」

「フランス語?」

「ばあちゃんは、フランス人だから、ばあちゃんと話す時は、母さんもフランス語だったし、俺もカタコトのフランス語で話してたよ。ハハハ」

「…………マリア って

……マリア・ステファニー!?」

「は??なんで??」

「桂吾!お母さんて、マリア・ステファニーなの?」

大きな目を見開いた。

「そうだけど、なんでわかった?」

「嘘でしょう!信じられない……そんなことってある?

じゃ、バイオリンって、マリアに教わったってことなの!?

早くそれを言いなさいよ!!」

「俺、母さんのコネとか使いたくないから、母さんの名前とか出したこと1回もないよ。

母さんを知ってんの?」

「アメリカに留学してた時に知り合って、同じマリアだって意気投合して仲良くなったわ!

フランスのお家に一度連れて行ってもらって、

1週間過ごさせてもらったわ!

おば様お元気かしら?」

「マジかよ~!あの家に行ったことあるのかよ!びっくりすぎだわ!ばあちゃんは元気だよ!!」

「ちょっと!桂吾!こんなの立ち話で話し終わる話じゃないわね!

今度時間作るから、ゆっくり話しましょう!

マリアにも随分会ってないけど。

大学時代も友人たちから、同じマリアだけあって雰囲気が似てるって言われてたわ〜。

あなたが、うちの事務所に入ってくれたことは、運命ね!!

桂吾、今度あなたのバイオリンも聴かせて!」

「了解!」

「はぁ!なんかびっくりすぎて疲れたわ!

とにかく、今日のお披露目パーティーが成功するように、頑張ってね!!」

「はい!ありがとうございます!マリア!」


長い立ち話をしちまったな。

木村さんが待っていてくれた。

「桂吾さん、皆さん控え室に行きましたので、桂吾さんも時間までゆっくりしていてください」

と、言ってくれた。

「木村さんありがとうございます。長話ですみません」

「いえいえ、英語堪能なんですね~。

私はちょっと準備の方へ参りますので、もし何かあれば携帯鳴らしてください」

「はい、ありがとうございます」


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