4-17

 車に乗ってすぐに、木村さんが明日の説明をしてくれた。

「お疲れ様でした。

明日なんですが、朝早いです。

4時半出発で新潟に行きます。

到着時間によりますが、9時頃から海岸で撮影を始める予定です。

今夜は早めに休んで下さい。

マンションに着けば、もう12時ですが」

「ハードだな〜」

と、悠弥が言った。

「行きの車の中で寝て行ってもらって大丈夫なので、とりあえず朝4時半に出られるようにだけ、お願いします」

「了解です!ありがとうございます!」

と、大輝が言った。

大輝は、すごく挨拶やお礼をきちんと言う。

ただのヤンキーじゃなかったな。

本当に、しっかりしたリーダーだ。

今日は、め〜いっぱい働いたな〜!!

疲れた……



ピピピピ ピピピピ ピピピピ ピピピピ

スマホのアラームで、目が覚めた。

1分、目を閉じただけくらいの感覚。

3時間半寝た??

とりあえず、急いで着替えて、ギターを持って部屋を出た。

駐車場には、木村さんの車がもうあった。

俺らより、木村さん寝てね〜だろ。

「おはようございます!」

そう言って開けると、大輝と瞬が乗っていた。

「おはよう!」

「おはよ!」

「超ねみ〜な〜!!悠弥と、龍聖呼びに行こうか?」

と、俺は聞いた。

「いや!あと、10分あるから、それまでには来るだろ!なんだかんだ、時間は守んじゃん!」

と、大輝が言った。

悠弥がマンションのエントランスから大あくびをしながら出てきた。

すぐ後ろから、龍聖も来た。

「おはよー!」

「おはよ!」

「木村さん、お待たせしました。よろしくお願いします」

「はい、皆さんおはようございます。

とりあえず、高速のりまして、すぐなんですが、三芳のパーキングエリアで、撮影スタッフと合流します。

そこで、運転を別の者に代わります。

私も、寝不足なので、もしものことがあってはいけないと上からの指示ですので、すみません」

「いえ、本当に俺らより寝てないですよね!

三芳まで俺運転して行きますか?」

と、大輝が聞いた。

「いえいえ!大丈夫ですよ!皆さんは、まだ早いですし、ゆっくり寝て行って下さい」


寝ていいと言われたけど、寝るのは三芳からにしようと思った。

瞬もそう思ったんだろう。

カバンから楽譜を出して、なぁ〜桂吾これさ〜と話してきた。

悠弥は、大輝に昨日の飛び込み、大輝よりすげー遠くまで飛んだぜ!とかなんとか話している。

龍聖だけは、横に倒れて寝ていた。

“寝る子は育つ!” 

よく寝て、大きく育ったんだな〜って思った。

まだ、朝の5時前だってのに、変なテンションでわいわいがやがやしながらの車中だった。


三芳パーキングエリアに着き、スタッフさんが運転席に座り、木村さんは助手席に移動した。

「皆さん、お気遣いいただいて、すみませんでした。

ここから、3時間半あるので、本当に寝て行って下さい。

私も、寝かせてもらいますんで」

と、木村さんが言った。

はい。

一瞬で、眠りにおちた。


「着きました!」

えっ?

3時間たったのかよ?

3時間って、超一瞬!!


「龍聖!着いたってよ!!」

俺が声をかけると、

う〜〜ん!!と伸びをして手を車の天井にぶつけた。

「いて!!」

「これ何回目だよ?ハハハ!」

「必ずやっちゃうな!」

えへっ!って感じで笑った。

すげーヤバい!俺、別にそっち系じゃないけど、この寝起きのにこっ!は殺傷力まじでハンパね〜!!

抱きしめたくなる。


「それでは、車の中ですみませんが衣装に着替えていただいて、準備お願いします」


着替えて、外へ出た。

 

 スタッフの案内で、撮影場所へ移動した。

あぁ!海!2月の日本海!

いい感じにどんよりとしていた。

波も荒い。


「さすがに、場所は違うな!」

龍聖が笑いながら言った。

「ピンポイントであの場所だったら、逆に怖〜よ!アハハ!」

「俺の中のイメージはこんな感じだけど、桂吾どう?」

と、瞬が聞いてきた。

「うん!いい感じ!」

カラッとした爽やかな風が吹く、青空の海を求めてるんじゃない。

こんな、どんより感がベスト!

ザバーンザッバーン!!って、この波の音も入れたいくらいだな。


「では、準備整いましたので、Realの皆さん、スタンバイお願いします!」

監督さんが声をかけた。

「はい!」


崖っぷちに、グランドピアノが置かれていた。

すげーな!これ、運んだんだ!

ドラムセットも。


「演奏はしていただきますが、昨日と一緒で、映像が必要なだけですので、多少の音のズレは構わずにやって下さい。

瞬さん、ピアノ調律してない状態なのですみませんが、お願いします」

「はい。了解です!」

と、瞬が答えた。


「では、カウント入ります!

5、4、3、…、…、…」


瞬がピアノを、弾き始めた。

ところどころズレている。

調律って大切なんだな。

瞬は、嫌だろうな。

そうゆうの許せないだろうけど、そのまま弾き続けてる。

立派だなと思った。

大輝のドラムも、下が平らじゃないからか、かなりやりずらそうだ。

俺と悠弥は、いつも通りに弾けてる。

龍聖の歌も大丈夫な感じだった。


「続けて、テイク2いきます!

ドローン飛ばして空中から広範囲で撮影します。スタッフ離れますので、瞬さんのタイミングで始めて結構です。」

「了解です!」


ドローンに映らない範囲まで、スタッフが離れた。

崖っぷちに俺ら5人だけ。

「アハハハハハ!これ、シュールだな〜」

珍しく瞬が冗談ぽく言った。

「俺もさっきから笑いこらえてんのに、笑わせんなよ!」

悠弥も言った。

「ドローンで上から撮るだけなら、喋ってたって、歌ってたって一緒じゃね?」

龍聖もそう言って笑った。

「お喋りしてねぇで、やるぞ!瞬!早く始めろよ!」

大輝が怒った。

「ごめん、ごめん!了解!」

そう言って、瞬がピアノを弾き始めた。


演奏終わって、大輝が離れてるスタッフ達に大きく手を振った。

スタッフ達が、また近くに戻ってきて、テイク1の映像を確認しましたが、もう1回撮らせて下さい。すみません!

そう言われて、また瞬が弾き始めた。


「はい!OKです!演奏部分は終了です。

続けて、1人ずつ撮影します。

楽器は撤収して下さい。

では、大輝さんからで!」

「はい!お願いします!」


崖っぷちに立ち、真っ直ぐに海を見ている。

仁王立ちって感じ。

それを、後ろから横から撮られている。


「OKです!次、桂吾さんお願いします!」

「えっ?俺?」

なんの脈略もないんだろうけど、2番目に呼ばれてビックリした。

大輝と同じように、崖っぷちに立ち真っ直ぐ前を見た。

髪をかきあげて下さい!

コートのポケットに左手入れて、空を見上げて!

うつむいて!目を閉じて!

横を向いて!上見て!目を閉じて!

めっちゃ指示出されてんだけど!

言われたままの動きをした。

「はい!OKです!次、瞬さんお願いします」


その場を離れると、波の音にかき消されて、スタッフの指示は聞こえなくて、本人しか聞こえてない感じ。


瞬は、手のひらをジッと見つめている。

その手を上に挙げて、何かをつかみ取るような動きをした。

「はい、OKです!次、悠弥さんお願いします!」


悠弥は、どんなポーズかな?って見ていたら、

石を拾って、海に投げた。


は?アハハハハハ!


もう1回石を拾って、更に遠くへ投げた!


何それ!アハハ!

「はい、OKです!では、龍聖さんお願いします!」


龍聖も海の方を向いて立った。

そしたら、こちらに向き直して、海を背にしてひざまづいた。

えっ?えっ?って感じで、スタッフに何度も確認している。

目を閉じて、上を向き、

「ウォーーーー!!」と叫んだ。


「はい!OKです!

チェックします!OKです!

Realの皆さん!オールOKです!

YO.I.Nのプロモーションビデオ撮影はこれで終了です。

あとは、編集作業に移ります。

かっこよく仕上げますので、楽しみにしていて下さい!」

監督さんがそう言ってくれた。

「ありがとうございます!

よろしくお願いします!

お疲れ様でした!」

俺たちは、口々にお礼を言って、車に戻った。

 

 「お疲れ様でした!」

木村さんが、車の中で、俺らを迎えてくれた。

「お疲れ様でした〜!」

「ちょうど、お昼なので、お弁当も用意できますが、どこかで食べて行くことも時間的には可能ですが、どうしますか?」

「あっ!じゃ〜行きたい店があるんだけど!」

と、俺が言うと

「海鮮御膳な!!」

と、龍聖が笑った。

「では、そちらのお店に参りましょう。桂吾さん、道案内お願いしていいですか?」

「了解!」


 久々の海鮮御膳は、やっぱり旨かった!

「ここに来て、正解だったな!」

「2人でいつ来たんだよ?俺も誘えよ!」

と、悠弥が言った。

「わり〜わり〜」

と、龍聖と笑った。

「夏だったな!なんか、桂吾と夕飯食いたいなぁって、突然思い立って、連れてきてもらった」

「龍聖、俺のバイト先の店に来たら、すっげー!一気に女の子たちに取り囲まれちゃってさ!

デビュー前の一般市民なのに、すごかったよ!

ハリウッドスターっぽかったわ!!」

「アハハハハハ!大袈裟に言うな〜!!」

「マジで!マジで!アハハ!」

「デビューしたら、こんなにのんびりと海鮮御膳なんて食ってらんね〜んじゃね?」

と、瞬が言った。

「そうかもな!」

「俺らの生活が、どう変わってくのか楽しみだけどな。

まっ!仲良く笑ってようぜ!」

大輝の言葉に

「了解!!!!」

と、みんなで答えた。


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