1-28

 今日の彼女は、久々に落ちてる日。

土曜日で、朝からバイトに入っていたけど、いつもの元気な声は聞こえてこない。


「おつかれ~!元気ね~な」

「お疲れさま。元気だよ!」

「よく言うわ!なんか、食いにいく?」

「あぁ。そうだね!おいしいもの食べたいな~」

「ふぐ食ったことある?」

「あ!ない!食べに行きたい!」

「了解、じゃ、駐車場で待ち合わせな」


この前、ねぇちゃんに連れて行ってもらった店、雰囲気も良かったから、そこにした。


「初めて食うなら、コースで食った方がいいんじゃね?」

「うん!そうしよ!今さらだけど、大丈夫かな?」

「何が?」

「毒!猛毒なんだよね?死なない?」

店の人に聞こえないように小さな声で言った。

「アハハ!死なね~だろ!俺、何回も食ってるけど、腹痛くなったこともね~よ!心配なら、毒見してやろうか?」

「いいよ!そんなに未練ない!」

なんか、覚悟を決めたようにキッパリ言うから可笑しかった。

「刹那的な発言だな~!」

「刹那的!アハハハハ!そんなことないよ!」


紅葉おろしのふぐかわ、てっさ、唐揚げ、てっちり、ふぐ雑炊に、デザート。

おいしい!そう言って笑った。

うまいもの食った時、本当に幸せそうな顔をする。

今日は、気持ちが落ちてる日。

でも、旨い物食って、気が紛れるなら、それでいいだろう。


「おいしかった!!ふぐ刺しまた食べたいな!」

「お代わりすれば?」

「ううん、またにする」

「そっか。で?この後どうする?」

「帰る」

「またまた!落ちてんだろ?」

「あぁ。うん。落ちてる……

でも、体調も悪かったからかな。

さっき、生理始まっちゃった……

ホテル行っても何も出来ないから、今日は帰るよ」

と、下を向いた。

「何もしなくても、一緒にいてやるよ。俺に一緒にいて欲しいんじゃね~のかよ?」

「そうだけど、ホテルに行って、何もしないでね!なんて、蛇の生殺しみたいもんじゃん!だから、いいよ!帰る」

「アハハハハ!蛇の生殺し!したことね~けど、いいんじゃね?甘えろよ」

「本当にバカだね!桂吾って!

じゃ、ホテルに行きたい。一緒にいて欲しい」

笑いながら言った。

「よっしゃ!了解。生殺しされに行くとするか!アハハ!!」


今日は、2人とも酒飲んでなかったから、コンビニで酒を買って、車でラブホへ行った。

缶ビールを1本飲んで、俺は風呂に入った。

風呂から上がると彼女は2本目のビールを飲んでいた。

「髪乾かしてあげようか?」

「いいよ!俺、大体いつも、タオルドライで半乾きで寝ちゃってるよ」

「そうゆうの髪傷むよ~!ドライヤーで乾かす方が傷まないんだから!」

そう言いながら、ドライヤーを持ってくると、俺の髪を後ろから乾かし始めた。

美容師さん以外にやってもらったこと初めてだな。

なんか、くすぐったい。

乾かし終わったのか、ドライヤーのスイッチを切ると、彼女は俺の背中にピッタリと抱きついてきた。

クルッと向きを変えて、彼女を押し倒し2センチのところまで唇を近づけた。

「おまえ、生殺しを煽ってくんなよ!これ、キスしちまったら止まんなくなりそうだから、やめとくわ」

そう言って、彼女の横に寝転び、腕を伸ばした。

彼女は、俺の腕に頭をのせ、俺の方を向いた。

「口でする?」

「いいよ。気つかうなよ。そんなに、飢えちゃいね~から。こうやって、のんびりするのも悪くね~よ!」

「ごめんね桂吾」

「だから、謝んなって!蛇の生殺し!今んとこ耐えられるわ。アハハ」

「……気持ちって、……想いって、目に見えないから、自分自身でもわからなくて……元彼のこと、もう諦めたし、忘れようとしてきたし……

でも、何個もあったいろんな記念日、忘れてなくて、その日になると、ブア~~~ってその日に巻き戻されるみたいになっちゃうの……

そこに確かに愛はあったよね?なんて、今となっては確かめようもないのに……

しかも、彼の方は、もうそんなこと思い出したりもしないで、今の彼女と愛し合ってんだな……って思うと、はぁ~~……

胸がギュッとなって、苦しくて……

もう、2度と恋愛はしたくないなって……

死ぬのは怖いから、出家でもしようかなって思っちゃったり、あはは。尼さん?」


ゆっくり、静かに話して 最後のところだけは、冗談ぽく言った。


「尼さんね~!ぜって~やめとけよ!禁欲生活なんて、何が楽しくて生きてんだよ!欲があるから頑張れんだろ!

すべてを諦めて生きて、なんの意味があんだよ!まだはたちだぜ!これから、もっともっと楽しいことあんだろ!

逃がした魚は大きいって?それよりもっとデカイの釣り上げて、あんな雑魚いらなかったわ!って笑ってやれよ!」

だいぶ、興奮してマシンガンみたいに喋っちゃった。

「アハハハハ!けーごの例え方、独特の世界観だね!ありがとう!桂吾!」

「だから、そこは大好き!桂吾!だろ?」

「アハハ!大好き!桂吾!」

「アハハハハ!完全に言わされてる感じだな~。俺も、おまえのこと、愛してるよ!」

「アハハハハ!はいはい!ありがと!優しいね!桂吾は」


マジな話なんだけどな……

伝わらないか……

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