1-20

 1月

 成人式の次の日。

朝から、普通にバイトだった。

ラッキーだったのは、彼女も朝からだったこと。

「おはよう!」

「おはようございます!」

いつも通りの挨拶を交わした。

10時の開店と同時に、館内にBGMがかかり、客が歩き始めた。


店の前を通った女に、思わず目がいった。

紫のニットのロングコート。

レースアップのブーツに、黒の短いフレアスカート。

トップスは、ボートネックで開きが広い。

デカイ胸を露骨に強調するような服だった。

ブランド物のバッグ。

ロングの茶髪を巻いている。

派手な女!!趣味悪!!

そう思って見ていたら、花屋に直行した。

女の後ろには、男が立っていた。

派手なカップル!都会から来たんだろな!

女がその場を離れ、トイレへ行った。

男は、そのまま立っていた。


ん??変だな?

いつもなら、お客さんの方を向いて花束を作っているのに、完全に背を向けて、作業台で花束を作っている。

その背中が泣いているように見えた。

俺は、花屋の方へ近寄った。

その時

「ゆき!」

って呼ぶ男の声が耳に飛び込んできた。

背を向けたまま、彼女は何か話しているようだった。

「ゆき!!」

さっきよりも強めな声で男が言った。

「くそ!!」

男に掴みかかろうかって、一歩前へ出た時、コツコツとヒールの音を響かせながら女が戻って来るのが目線に入った。

とりあえず、俺は止まった。

「弘人!お待たせ!!」

その声を聞いて、彼女は振り向いた。

なんだよ!……その顔……

痛々しい笑顔だった……


芸能人が貰うような、豪華な真っ赤な薔薇のデカイ花束を抱えて、2人は俺の前を通り過ぎた。

男の顔をじっくり見た。

いい男じゃねーか!くそ野郎が!


彼女は、店の奥の丸椅子に壁の方を向いて座って、うつむいていた。

普段、そこまで俺が入って行くことはなかったけど、ガッツリ店の奥まで入って行った。

「ウィ~ス!」

彼女の耳元で声をかけた。

彼女は、ビクッとして、

「なに?」

って振り返ろうとした。

俺は、後ろから抱きしめ、キスをした。

俺の手を強引に振りほどくと

「やめてよ!誰かに見られたらどうすんの!!」と、大きな声を出した。

「ここ、ちょうど死角!誰にも見られねーよ!

ハハハ!」

珍しく、彼女は怒ったように、俺をにらんでいた。

「さっきの客、元彼だろ?」

まっすぐ、彼女の目を見て言った。

ほんの一瞬、悲しげな顔をして

「はぁ?何言ってんの?」

と彼女は言った。

「ビンゴ!だな!

俺ね~そういう直感だけは鋭いんだよね~!!

あいつ、おまえのこと “ゆき!” って呼んでたし」

観念したように、はぁ……と下を向いた。

「喋ったの1年半ぶりくらい……」

「いい女連れてたな~!」

わざと意地悪な言い方をした。

はぁ……と更に下を向いた。

「……そうだね……今日、飲みに行ける?」

消え入りそうな声でそう言った。

「どうしよっかな~!愚痴を聞くのはあんま好きじゃね~んだよな~!

まっ!いいわ!暇だしな!付き合ってやっか」

嫌な言い方だと自分でも思った。

元彼との再会に落ち込んでいる彼女の姿に、なんだか腹がたっていた。

「ありがと」

「ほい!じゃ、立って!!」

両手を彼女に差し出した。

その手を掴んで、彼女は立ち上がった。

「Are you ok?」

「えっ!あっ、大丈夫」

「バ~カ!全然大丈夫じゃね~じゃん!そこは、なんで英語だよ!って突っ込むところだろ!」

そう言って抱きしめた。

今ここで押し倒して、めちゃくちゃに抱きたいって衝動にかられた。

が、

「じゃ、仕事終わりで、いつものところな!」

にこっと笑って、手を離した。


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