1-12

 今日、夜は龍聖と2人で、カラオケ屋で歌練だった。

ギターを担いで行った。

「おっつー!」

「おつかれ!もう体調はいいの?」

「あっ……あぁ!大丈夫!」

忘れてた!

「やっぱ仮病かよ!」

髪をかきあげ、笑いながら龍聖がそう言った。

「龍聖にはバレるな~!」

苦笑いするしかなかった。

「何ヵ月か前の、“海事件”から、なんとなくだけど桂吾楽しそうだな!」

マジか!

「はぁ~~!アハハハハ!龍聖は、全部お見通しだな~!

その、“海事件”の女に振り回されてる!」

笑いながら言った。

「ふーん。桂吾が振り回すんじゃなくて、振り回されるのって、初めてじゃね?」

真顔で言った。

「だろ?だよな?なんか、自制がきかねー……」

「へぇ~!!意外だな!

桂吾の口からそんな言葉を聞くとは思わなかったな!」

笑顔だった。

「わり~!!龍聖!迷惑かけねーよーにするから、みんなには黙っててくれ!」 

両手を合わせて拝んだ。

「言わねーよ!俺、そもそもあんま喋んねーし。桂吾とは話しやすいけど」

「サンキュー!龍聖!じゃ、早速だけど、10曲作ったから、仮歌聞いてみてくれよ。そんで、やりたいやつ選んで!」

「あぁ。了解!」


俺がUSBに入れてきた仮歌を、龍聖は目を閉じて聴いていた。

横で見てても、マジでかっこいいなぁって思った。

切れ長の目。

まつ毛も長っ!

鼻筋の通った高い鼻。

口はキスしたくなるような唇をしている。

俺もかっこいいって言われるけど、俺とは違ったかっこよさ!

無口で影があって、色気があるんだな、龍聖には。

そんなことを考えながら、龍聖を見つめていた。


全部聴き終わって、龍聖はにこっとした。

「いいんじゃね!全部!全部やりたい!」

「まじで?」

「一応、順位はつけたよ。楽譜、上にあるやつが一番やりたいやつ!」

そう言って、楽譜を俺に返した。

『未来の希望的観測』一番上にあった。

「桂吾は、意識して作ってないかもしれないけど、全体を通して、何だか桂吾の楽しい気持ちが入ってるよ!この10曲でアルバム作りたいな!」

「えっ?マジか?楽しい気持ち?……」

「詞がハードでも、曲のメロディーが優しかったり、逆にやんわりした歌詞なのに、ものすごく難しい曲にしてたり、そのアンバランスな感じが、なんてゆうのか、いい意味で浮き足立ってる感じで。今までになくて、いいよ!」

「そうなのか?」

自分じゃわかんね~な……

「これって、瞬には見せたの?」

「まだ。ほんとは、昨日持ってくつもりだったやつだから」

「ふ~ん。そっか。瞬は、直し入れっかもしんね~な!このアンバランスさをよく思わないかも。

……瞬に渡す時、俺も一緒に行かせて!俺の意見を言わせてもらうわ!」

「龍聖!わり~!サンキュー!」


自分じゃわかんね~な……

俺の曲作りに彼女が影響してんのか?

楽しい気持ちって……

付き合ってるわけじゃねーし……



 俺は、フリーターだから、時間は自由だ。

今は、バイオリンのレッスン、練習と、ギターも練習してる。

曲作りも時間をみつけてやってる。バイト中とかも、いいフレーズが思い浮かんだら、とりあえずスマホに録音しとく。

バンドのライブが近かったりすると、バイトもセーブしたりしてたけど、宣伝活動も兼ねてるから、とりあえずバイトもやらなきゃだし、彼女に会いたいし。

忙しいな……

おまえは、俺をお気楽なフリーターって思ってるんだろうな。

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