1-11

 「桂吾さん!髪、ありがとうございました。

評判よくて、似合ってるって友達も言ってくれます」

彼女はニッコリと笑った。


「俺もそう思う。うちの店長もいいじゃん!って言ってたよ!大人っぽくなったって!彼氏でもできたかな?ってさ!アハハ」

「彼氏って……」

下を向いた。

「大丈夫!!俺らのことは、2人のヒミツな!」

「あっ、はい。

桂吾さん、今日って食事行かれますか?」

「あ~~今日か~~。 いいよ!」

「ありがとうございます」


ほんとは、今日はバンド練習の日だ。

どうしようかな……

遅れるって言っといて行かれなかったら、超怒られっからな……

彼女が、食事って言ったように、食事だけして帰ってくるなら、普通に練習に行けるだろう。だけど、もし、彼女が俺に抱かれたいと思っているのなら、抱きたいし、朝まで一緒にいたい。

最初から、今日行けそうにないって言っといた方がいいな!そうだな!そうしよう!それで、もし行けたら行けばいいや!


俺は、すべての予定を変更しても、彼女の誘いを第一優先にした。

今日は、ちょっと……って、断ることは出来なかった。

彼女が俺を誘う時、それはきっと寂しい時。

それを、ほうっておくことは出来なかった。

もし断ったら、二度と俺に声をかけてくれないんじゃないか。なんて、気がしていた。

自分でもよくわからない。けど、とにかく彼女から誘いがあったら、絶対に行きたかった。


 バイトが終わり、俺の車を停めてある地下駐車場で待ち合わせた。

彼女を乗せて、彼女が行きたいという、しゃぶしゃぶの店に行くことにした。

車で30分くらい。

ちょっと、たぶん高級な店。

「ずっと行ってみたかったんですけど、ちょっと遠いから車じゃないと行けないなぁって思ってたんですよ!」

「俺、足に使われてんの?」

笑いながら言ってみた。

「そんなんじゃないですよ!桂吾さんと行きたいなぁって思ってて」

俺を見てニコッとした。

なに?今、刺さったな!やべ~。


予想以上に高級な店だった。

個室に通され、中庭が庭園みたいになってて、ライトアップされてた。

 

「俺は運転するから、今日は飲まないけど、ゆきちゃんは飲みなよ」

って、酒をすすめた。

「えっ、いいですよ!桂吾さん飲めないのに、私だけ飲むの悪いですから」

って、2人でノンアルコールビールを頼んだ。


しゃぶしゃぶって言ったけど、コースみたいな感じで出てきた。

とろけるような肉。超旨かった!

「想像してたよりも美味しい!」

そう言って彼女も笑った。

俺はちょっと、イタズラ心がうずいてきた。

彼女が、トイレに行った隙に、普通のビールを頼んで、彼女のグラスを取り替えた。

ノンアルと思ってるからか、本物のビールで旨かったからか、飲むペースが早い。

酒が強い訳でもないから、3杯飲んだ辺りで

「あはははは!ほんとに美味しい!

ね~!けーご!」

って言った。

「今、桂吾って言った?」

「えっ?なに?いけないの?けーごって呼べって言ってたじゃん!けーごって!」

超ウケる!漫画みたいに酔っぱらってんだけど!アハハ!!

「いいよ!桂吾で!これからは、そう呼んでいいから」


店を出て、車に乗った。

軽くキスをして、

「で?ゆきちゃん!どうしたい?」

って聞いてみた。

下を向いていた彼女は、潤んだ瞳で俺を見つめると

「けーごとホテルに行きたい……」

と言った。

かわいい!やべ~。

「よし、正直だな」

車で、ラブホへ行った。


次の朝

「おはよう!けーご!」

と、彼女は言った。

「今、桂吾って言った?」

「昨日からそう言ってたけど?」

って笑った。

酔っぱらってたのに、それはちゃんと覚えてるのか!スゲーな!

「私、昨日、途中から変じゃなかった?

ノンアルコールビール飲んでたんだよね?

ノンアルでも酔っぱらうんだね?」

「アハハハハ!酔っぱらってた自覚あんの?」

「う~ん。なんか、フワッフワッしてた感じ」

「フワッフワッか!アハハハハ!

ってゆうか、昨日のおまえ、超激しかったぜ!

それは覚えてる?」

「もう!!けーごのイジワル!」


結局、昨日のバンド練習へは行けなかった。

行けないって言っといて良かった。


「けーご今日、バイト何時から?」

「俺、午後から。おまえは?」

「私、今日普通に学校!でも、いいや!

もうちょっと、けーごとこうしていたい」


やべー!!!!


初めてだ……こんな気持ち……

なんてゆうんだ……

“いとおしい” って表現で合ってるか?

なんだ これ……

マジで……やられてる……

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