1-10

 瞬から電話がきて、珍しく飲みの誘いだった。

8時に居酒屋で、待ち合わせた。


「桂吾!バイオリンまじめにやってるみたいじゃん!」

ビールを飲みながら瞬が言った。


「あぁ。ゆりえさん、美人だし、教え方優しくて超いい!

リクエスト通りキレイなお姉さんにしてくれてサンキュー!」

「俺が、おまえのリクエストを気にする訳ねーじゃん!

たまたま、頼んだ人が美人だったってだけだから」

「じゃ、当たりじゃん!ラッキー」

「はいはい。そのゆりえさん、おまえのレッスンおりたいって!」


びっくりして、ビールを吹き出しそうになった。

「なんでだよ!!」

「桂吾、ぜってー手だしやがったな!って思って、申し訳ないなぁって、一応理由を教えて?

って聞いたら、自分のレベルじゃ教えられないって!彼女、超誉めてたよ!

1回目こそ、どこ押さえるんだっけ?みたいな感じだったけど、2回目には別人みたいに弾けるようになってて、3回目にはもう私と同レベルに達してたって。

もっと上の先生に教わってほしいってさ。

断る口実かとも思って、この間の3回目ってやつのレッスン録画見せてもらったよ。

彼女の言ってる通りだと思った。

だから、先生変えるわ!」

「なんだよ~!!まだ連絡先も交換してね~よ~辞めんなら、その前に1回やらせろよな~!!」


俺が笑いながら言うと、瞬はグーで頭を軽く叩いた。

「桂吾、ここから真面目な話。おまえ、レッスン以外どのくらい練習した?

もともとできたのを思い出したのか?」

「じゃ、真面目に。1回目やったあと、2回目までの4日間は1日、4、5時間はやったかな。

それで、だいぶ感覚を思い出した。

2回目教わって、あぁそうだ!昔 母親もそう言ってたな!って注意されたことを意識して練習した。3回目までの4日間は6、7時間やったかな」


「桂吾~!!おまえのそうゆうところ好きなんだよ~!」

って言いながら、俺の髪を両手でぐちゃぐちゃにした。

よく、犬好きが犬にするやつ。

「やめろよ!そうゆうとこ好きってなんだよ~?」

瞬の手を振り払いながら聞いた。


「おまえ、ひとことで言えば、天才肌でさ、なんでもすぐにできちゃうじゃん!でも、欲がないってゆうのか、大抵のこと大体できればいいや!ってなっちゃうじゃん!

だけど、いったんやる!って言ったことに対しては、超 努力すんだよな~!そうゆうとこが好きって話」

「アハハハハ!努力ってゆうか、負けず嫌いなだけだよ!まぁ、珍しく瞬が誉めてくれたってことでいいんだな?」

「珍しく?いつも誉めてるよ!ってゆうか、認めてるよ!桂吾のことは」

「サンキュー!」

ウェ~~と乾杯した。

「桂吾はさ、10言わなくても、5くらいでわかってくれんじゃん。

言いたいこと、言ってることの裏の意味とか察して、その先の伝えたいこととかまでわかってくれんじゃん。だから、話してて超楽!」

「それを言うなら、龍聖の方が楽じゃね?

あいつなら、3でわかってくれんだろ?」

「あぁ。まぁな。それに引きかえ!悠弥!あいつ本当に伝わんねーな!イラっとくるよ!」

「アハハハハ!お互い様だな!悠弥もおまえにイラついてるよ!

俺が代わりに殴られといてやったけどな!」

「えっ?マジで?」

ビールを飲む手を止めた。

「ボクシングの話だよ!

だけどよ~、瞬が就職したこと、このバンドに見切りつけて就職したんじゃね~のかよ?って言ってたぜ」

「あぁ。アハハ。まぁ、そう思われても、しょうがね~けど。

理由なんて、誰にも言ってねーし」

「俺らの為。プロになる為の就職だって言っといたけどな!」

「おっ!サンキュー!」

嬉しそうに笑った。

「で、悠弥もベースのレッスン入れてくれってよ!」

「えっ?マジで?」

前のめりになった。

「俺が間に入っても全然いいんだけどよ~!

このメンバーでやってきたいって、マジで思ってんなら、まずもっとコミュニケーションとってけよ!」

「あぁ!そうする!ありがとな桂吾!」

「いや、目的が一緒なら、一緒に頑張っていこうぜ!仲良くな!」

ウェ~~と乾杯した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る