1-3

 バイト先で会っても、彼女とは何事もなかったかのように振る舞わなきゃいけないんだろうなって思った。

それなのに、彼女の顔を見た途端、ダッシュで駆け寄って、

「ゆきちゃん!おつかれ~!」

って言ってしまった。

彼女は、大きな目を更に見開いて、たじろいでいた。

「おっ、おつかれ様です……」

彼女のシールドを突破できた気がした。


それからは、毎日毎日近づいては、話しかけた。その度に彼女は、困ったような顔をしていた。

けど、どんどんしゃべりまくった。


 そんな日が続き、1ヶ月が経った頃、初めて彼女の方から俺に話しかけてきてくれた。


「あの、須藤さん。お酒……カクテルとか美味しいお店ってご存知ですか?」


普段、誰からも『須藤さん』なんて呼ばれてないから、ドキッとした。


「あぁ、バーテンダーが目の前で作ってくれるみたいなとこ?」

「あっ、そんな感じ」

「それなら、いい店知ってるよ!」

「本当ですか?須藤さん、お暇な時に連れて行ってくれませんか?」

「いいよ。じゃ、今夜行こうぜ!バイト終わりで」

「えっ、あっ、はい。よろしくお願いします」


ちょっと離れたコンビニで待ち合わせして、歩いて馴染みのバーに行った。


「チース!」

「いらっしゃいませ。桂吾さん今夜はお一人ですか?」

「えっ?」

マスターにそう言われて振り返ったら彼女は居なかった。

はっ?

慌てて外に出ると、店の前で彼女は立っていた。

「何してんの?」

「ちょっと緊張して……このかっこで大丈夫ですか?」

と下を向いた。

「なんの緊張だよ!別にそんな敷居たけーとこじゃねーよ!俺だって見てみろよ。こんな普段着だろ?」

彼女の手を掴んで、もう一度ドアをあけた。


「いらっしゃいませ。こちらにどうぞ」

マスターが笑顔で迎えてくれた。

「マスター、俺ギムレット。彼女にはテキーラサンライズを薄めに作ってくれる?」

「はい。かしこまりました」


彼女は、店内を見回して、やっと椅子に腰掛けた。カウンターの高い椅子は、ロングスカートだからか、座りずらそうだった。


「須藤さんはいつもこうゆうところで飲んでるんですか?」

と聞いた。

「ゆきちゃん!須藤さんって堅すぎ!アハハ。桂吾でいいから」

「あっ、じゃ、桂吾さんって呼ばせてもらいますね」

「まぁいいや。そのうちに、桂吾って呼んでくれりゃ~」


「お待たせいたしました。テキーラサンライズでございます。ギムレットでございます」

「わ~キレイなカクテル!!」

パッと明るい顔になった。

「じゃ、ゆきちゃんのバーデビューに乾杯」

そう言ってグラスを軽く持ち上げた。

「乾杯」

彼女は、一口飲むと

「美味しい!」

と、俺の方を向いてニッコリ微笑んだ。

俺に対して見せた初めての笑顔だった。


「この店はさ、ねーちゃんとよく来るんだ」

「お姉さんいるんですね!」

「あっ、違う!俺、一人っ子。ねーちゃんは~、じいちゃんの兄ちゃんの孫だから、なんだろ?

ハトコってゆうのかな?

そう言えば、ねーちゃん以外とは来たことねーな!普段は、居酒屋だよ!貧乏なフリーターだからね!」

「そうなんですね。

バンドやってるって聞きましたけど?」

「そう。どっちかってゆうと、そっちが本業ってゆうかだけど、アマチュアバンドだからね!金も稼がなきゃ!って感じでさ」

「そうなんですね。

お店にもよく桂吾さんのファンの子来てますもんね!なんか、最近私わかってきちゃいました。

この子、桂吾さんのファンの子だろうなぁって思って声かけると、みんな桂吾さんへのプレゼントの花束買ってくれるし」

「あはははは!売り方が上手いよね~!参考になるわ!バンバン売ってんじゃん!」

「バンバンってことはないですけど。

花が大好きなので楽しいです」

「へぇ~そうなんだ。ゆきちゃん、もう一杯飲む?」

「あっはい」

「マスター、彼女にシンガポールスリングを薄めで。俺は、ホワイトルシアンで」

「はい。かしこまりました」


俺はタバコに火を着けた。

おとなしい子だな。酒飲んでもあんまり変わらないか。

いや、これでも、割としゃべってる方か。


「シンガポールスリングでございます」

「わぁ!可愛いピンク!」

そうゆう反応するんだ。

「ホワイトルシアンでございます」

「ゆきちゃんは大学生だっけ?」

「短大生です」

「そうなんだ。彼氏はいないの?」

ズバリ直球で聞いてみた。


「いないです……高校の頃はいたんですけど……

遠距離になった途端にフラれました」

「それって、どのくらい付き合ってたの?」

「中学からなんで、4年半くらいです」


ふ~ん。なるほどね~。今までに付き合った男は1人だけか。

だから、その彼としか経験がなかったんだな。


「すごく好きだったんですけど……恋愛って難しいですね……」

そう言って、うつむいた。

「その様子だと、まだ立ち直ってないって感じ?」

「あぁ……そうですね……普段は平気なんですけど、突然思い出して、どうしようもないくらい落ちちゃう時がまだありますね……」

「そうゆう時、俺つきあってやるから誘ってこいよ!」

「えっ……はい……すみません。この間は……」更にうつむいた。


「このあいだ~って!海な!!アハハ!」

「あの日、だいぶ気持ちが沈んでて……あんなことになるとは思ってなかったんですけど……」

「あんなことってゆうのは、俺とやっちゃったこと?」

「えっ?」

一瞬で耳まで真っ赤になった。

「……いえ、じゃなくて、桂吾さんが海に落ちたこと……」

「アハハハハ!そっちね!でも、沈んでた気持ち少しは楽になったのかな?」

「はい。ありがとうございます」


良かった。


「はぁ~……なんか私、酔っちゃったかも……」独り言の様に言った。

「じゃ、そろそろ出るか。マスター、チェックお願いします」

「あっ!私、払います!今日は連れて来ていただいてありがとうございました」

「う~ん。じゃ、お言葉に甘えておごってもらっちゃおうかな?ご馳走さま」


店の外に出てびっくりした。

「マジか!」

雪がガンガン降っていて、すでに道にも20センチくらい積もっていた。

「初雪……」


空を見上げる彼女にキスをした。


「酔いを醒ましてく?」

俺がそう言うと、彼女は頷いた。


雪が降る中を、傘もささずに歩いた。

酔っぱらってるのと、雪で歩きずらいのとで彼女はふらついてる。

肩に手を添えて歩いて、近くのラブホに入った。


なんてゆうか、この子とのセックスは、なぜだか本当に興奮する。

例えるなら、まだ誰にも踏みつけられてない、一面の銀世界を前にした感じ。

やっぱり酒が入ってる方が、エッチな気分になるんだろうな。

今日は、この間と違って、彼女も感じてるみたいだ。

休憩のつもりだったが、離れられなくなって泊まってしまった。


 朝、目を覚ますと、俺に抱きつくように身を寄せて、彼女は寝ていた。

だから、無防備かよ!


「おはよ」

俺が声をかけると、彼女はパッと目をあけて、ハッとしたように俺から離れた。


「おはようございます」


「雪どんくらい積もったかな~!

この部屋窓ねーな」

ベッドから出て換気扇の下でタバコに火を着けた。

「そう言えば、ゆきちゃんは冬生まれなの?」

タバコの煙を吹き出しながら、彼女の方を向いた。

「あ~、よく言われます!私のゆきは、植物の柚って字に、希望の希で、柚希です。夏生まれです」

「ふーん。そうなんだ。すげー肌白いし、雪っぽい感じがしたけど。ってゆうか、泊まっちゃったけど大丈夫だった?」

「はい。桂吾さんに今夜飲みにって言われた後に、家に電話しときましたから。

友達の家に泊まるって」

「友達ね~~ハハハ!じゃ、最初から俺とホテル行くつもりだったってことか!?アハハ!」

「えっ!違いますよ!一応まだ未成年なんで、お酒飲んで帰ったら怒られそうなんで、友達の家に泊めてもらおうと思ってただけです!!

近くに1人暮らししてる子いるんで!!本当に!!」

彼女は顔を赤らめて早口でそう言った。

すげーかわいいな。

「アハハハハハまぁいいや!そうゆうことにしとくよ!アハハ。

で!ゆきちゃん、一緒に風呂入ろうぜ」

「えっ?えっと……ちょっと無理です。恥ずかしい……」

「いいね~!恥ずかしがってると余計にしたくなるってもんだろ」

そう言って立ち上がり、ベッドに横になっている彼女をお姫様抱っこすると風呂に連れて行った。


風呂に入ろうと言ったが気が変わった。

風呂の床に優しく降ろすと、内ももを掴んで股を広げ舌をはわせた。

「あぁ!!」

彼女は、今までで一番大きな声をあげた。

「イヤ!あぁ!やめて!」

「やめない。ここは、もっと舐めてって言ってるぜ」

風呂場だからか、声が反響してすごくエロい。

「ぁあ~!や!あん!!あー!!あっ!」

腰を浮かせ のけ反った。

「イっちゃったね~!ゆきちゃん!」

彼女は両手で顔を覆うと

「もう!!イジワル!」

と言った。

「アハハ。イジワルじゃないよ!気持ち良くさせてあげてんだからさ!イッた顔見せて!」

顔を隠してる手の、両手首を掴んで顔が見えるようにした。

「すげーエロい顔してんな」

キスをして、そのまま挿入した。

彼女の中は、まだ小刻みに震えている。

俺にギュッと食いついて離さないって感じ。

マジで気持ち良すぎだろ!

「おまえが一番感じる場所もわかったから、これからもっと開拓してやるよ!アハハ」

「もう!バカ!」

「アハハハハハハ!」


「あっ!今日って日曜日!!私、通しだ!

桂吾さんは?」

「俺、午後からだわ~」

「そうなんですね!私、もう行かなきゃ!先に出ますね」

「了解」


長い髪を濡らさないように急いでシャワーを浴びて、彼女は行ってしまった。

「あ~~~あ」

一緒に風呂入れなかったなぁ。

やりたくなっちゃった俺が悪いんだけどね。

1人でゆっくり湯船に浸かり、風呂をあがると、『桂吾さんへ ホテル代』って書いた紙に包まれて2万円が置かれていた。

はっ?こんなラブホに泊まって、2万もかかんねーよ!

ここ、8か9くらいじゃね?

世間知らずのお嬢さんかな?

悪い男に騙されそうだな!って、俺か?

アハハハハ。



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