2章:正義の使者
Prologue:負債を背負ったリスタート
「ほい、確認したよっと」
魔狩証明書を返してもらった俺は、それを小袋に仕舞った。
無くさないように袋の口をキュッと閉じてしまったのを確認したら、俺は改めて門兵の彼に向かって頭を下げた。
「ありがとうございます」
「いや、これが職務だからな」
彼はそう言うと優雅に礼をして見せた。
「貴方の仕事と命に主神様方の御加護があらんことを、信徒テリの名の下に願います」
彼の口から出てきた言葉は、今までのものとは一風変わった丁寧語。
これが御者サンドの言っていたユスタヤ式の礼法か……と軽く感動する。何せラピスに来た時はこの儀礼を受けなかった……と言うよりもラード達についていただけなので聞いていなかったからな。
信徒テリ……と言うのはおそらくこの人の名前だろう。
俺は顔を上げた門兵の人にもう一度礼をすると、門の中へと入っていった。
「お、終わったか」
「ええ、お待たせしましたサンドさん。いきましょう」
サンドというのはラピスからここまで俺を運んでくれた人の名前だ。
20年以上乗合馬車をしているベテラン馬使いだ。妻は王都にいるらしく、今日の俺を乗せた便が終わったら 会いに行くと言っていた。
その途中で教わったのが今の礼法というわけだ。
旅人に対するユスタヤ流の歓迎ということらしい。大仰だが、まあ悪い気はしない。
しかし……どこの世界にも宗教はあるんだな、としみじみ思う。
実際に現代社会においても宗教を本気で信じている人はいたし(その人々の言っていることが間違っているとも言えないのだが)、魔法なんて不思議な法則がある分地球よりもその存在を信じる文化は顕著だろう。
というか……本当にいるかもわからんしな。実際に俺の体に起っている事は、神の御技と言っても過言ではないし、ガレルの持っているという偽神の加護。この存在もその説を強く後押しするだろう。
てか、加護ってなんだよ。って思わなくもないけど。ゲームみたいにステータスがあるわけでも、ラノベみたいにステータスプレートだのスキルだのがあるわけでもない。
どうやって気付くのかもどうやって手に入れるのかも不明だし、神がどれだけ居るのかもわからない。
……日本みたいに
思考がめちゃくちゃ横に逸れたが、まあこの世界の宗教っていうのはなかなか根深いものらしいってことだ。
良い意味でも悪い意味でも、と注釈がつくが。
「おい、ボーッとしてるな」
「ああ、すいません」
サンドさんに軽く注意を入れられて、俺はやっと現実に意識を引き上げた。
目の前には見慣れた馬の顔。名はピロルク。馬の神の名前を
「みろ、ほら。コレが王都だぞ」
「え?」
馬と熱く視線を交わしていると、横からぐいっと引っ張られる。
門を通るときはその大きさに目をとられていたが、中を見るとまた驚いてしまった。
「おお、まさに異世界ファンタジー!
「異世界ファンタジー……?レンガ……?どこの言葉だ?」
地球語にしっかりツッコミを入れてくるサンドだが、そんなことはどうでも良くて。
馬車が数台通れるような広い大通りには、幾つもの色とりどりの屋台が出ており、そのどれもが鼻腔をくすぐる良い匂いを漂わせている。
赤い煉瓦で構成された建物群は、石造りと水。白と青基調の素朴な綺麗さを誇るラピスとはまた違った趣があった。
赤々しく派手で、人工的な街並みには並木一本立っておらず、草花が生える余地を残していない。
一つ一つ個性がある煉瓦の焼き色にもこの街を作るに至った努力を思わせるし、この道が途絶えることなく先の先まで続いているという事実もまた、凄まじいと思わせるに至った。
そして、壁、城。
道の先にある、一際大きい門の奥には、大きい城の頭がのぞいている。空に溶け込むような水色の三角形が城下を威圧的に見下ろしており、城の上にはためくシンボルには、白と緑色の葉っぱがいくつか描かれていた。
おそらくこの国の国旗だろう。
そして城を取り囲む白く美しい壁は、一般市民から貴、王族を隔絶させる意識的な意味もあるのだろう。
大通りの楽しげな喧しさとは距離を置いた様な、そんな距離があった。
「どうだ、カレダ公国の王都は」
「公国で王都ですか……?公国って王様はいないんじゃ?」
「まあ、それはそうだな。古くからの名残ってやつだよ。王様も貴族の一つとして数えるのさ」
「へえ、面白い伝統なんですね」
フィールの言っていた"6爵1王"の意味がようやく分かった。
要は王様も名目上は貴族の一人だから、他の爵位と同じように様に扱う……という感じだろう。
しかし、同じ国の近くの都市でもここまで雰囲気が違うのだろうか。
いや、違う、違うぞ俺。よくよく考えたらラピスがおかしいんじゃないか?世界最大の湖から流れる川の途中に存在する大都市、竜の住まう地のすぐ南。
そんな都市の方がおかしいのだ、ゲームでいうところの中盤戦。登場人物たちも強すぎる。
どう考えても"最序盤"じゃない。
というかそもそも、だ。
俺は覚悟を決めて小さく叫んだ。
「最初からボス戦とか意味わかんねえよ!弱くてオールドゲームじゃねーかよ!
サンドが驚いた様にこちらを振り向く。
が、意味はわかっていない様子だ。まあ、日本語だし。
「お、おい。どしたんだよ」
「ハードモードすぎる!鬼畜すぎる!挙げ句の果てに裏切りはいくら何でも酷すぎる!脚本家か原作者出てこいやコラッ!」
「どこの言葉だよ!」
一
「よし、宿に向かいましょう」
「俺はお前が怖くなってきたぞ」
こうしてフェルの盲目を直すための第一歩は、幕を開けたのだった。
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