第27話:新人同士の魔狩

「と言うことで、俺と一緒に魔手に行かないか!?ほれ、依頼もとってきた!」

「いいですか、接続詞ってのは前にある何かしらの文章に働きかける作用がある品詞なんです。開口一番で『と言うことで』は言葉の使い方が間違ってるんです。どういうことだよ」


 開口一番に「と言うことで」と言うもはや定番と言っても過言ではない使い古されたボケに、思わず突っ込む。


「すまん、何を言ってるか理解できん!はっはっは!」

「まさか、此奴ガチか!?」


 どうやらボケではなくガチだったらしい。

 それはそれでだいぶやばいけどな。


「いやな、勧誘の熱も冷めてきたのだし、噂の天才新人ノワールと一緒に魔狩にでも行きたいと思ったわけなんだが……!」


 なるほど、そういう事か。


 新しい宿に移ってから数日。

 例の殺人事件については何も手掛かりがなく、そのあおりを受けて白熱していた新人勧誘も、ある程度の収束を見せていた。

 とはいえ遠征に言っていたような魔狩にはまだ誘われることもあるが……。

 まあ、当時の熱量で迫ってくるかと言ったらそういう感じではなく、お手並み拝見的な意味合いも多分に含まれているだろう。


 ちなみにあの双子はどこかのパーティの新しいメンバーとして、ロックウェルも同様にどこかのパーティの荷物持ちとして所属先が決まっていた。

 対して俺はと言えば、すごく助かったとは言われるものの、本格的なパーティへの勧誘はいまだに無しだ。

 それはどうやらフーブも同じようだった。

 が、実力は高いのだが性格と声が煩いと一緒にやっていくには致命的だ……なんて声が聞こえてきたところからも、問題なのはその性格って事だろう。


 ……あ、因みにフィールは本勧誘もたくさん来るが、全部断っているらしい。

 贅沢なことである。


「まあ、実力はあるらしいですし、いいですよ。まあ……あまり無茶な依頼じゃなければ」

「大丈夫だ、ホレ」


 そう言って彼が見せてきたのは、狼の魔獣である『ガビウル』の群れの討伐だった。

 場所は俺の来た森林。

 その奥地にいた『ガンドラ・レディリア』という魔獣の死により、今までもっと西側にいたはずのガビウルが町側に接近。

 商人の一行が少なくない被害を受けたそうだ。

 成功報酬は1万5000ラディ、それに10匹を超えた群れの場合は一匹超えるたびに1000ラディ追加だそうだ。


 ……あ、お察しの通りガンドラ・レディリアなる魔獣は俺が殺した、"ヤツ"です。


「ガビウルは一匹なら一般人にも殺せる。群れの規模は現状、あまり大きくないそうだし、俺の実力なら奴らに引けを取ることもない!はっはっは!」

「了解です、でも俺あんまり戦えませんよ?」


 俺はをさすりながら彼に言う。


「問題ない!飯の準備と荷物持ち、あと食料計算。細かい諸々の雑事。それさえやってくれれば報酬は半分半分で構わない!」

「ちょっと待ってください、破格すぎます。裏があるのかと疑いたくなるほどに」


 俺の半分苦笑の混じった言葉に、フーブが首をかしげると、仁王立ちのポーズをとりながら、俺に堂々と宣言した。


「フィールって奴と話した時もそうだがな、なぜおまえは俺に敬語を使うんだ!」

「え、そりゃ……なんででしょうね。理由なんてないですよ。初対面の相手に、それも歳も経歴も知らないような相手に、最初からタメで話すのがなんとなく怖いからですかね?」

「ふーむ、わからん!はっはっは!」


 というか、依頼の話はどこ行ったんだ。

 コイツ、人の話を聞かなすぎるだろ。


「で、なんでそんなに破格の条件で……」

「じゃあ、敬語をやめろと言ったらやめるのか!?」

「まあ、やめますよ。たぶん同世代だろうし、魔狩としても同期だ」


 俺は彼の言葉に押し切られ、一旦依頼の話はよそに置くことにした。

 全くもって勝手な奴である。が、ツッコミに回るのは嫌いじゃない。ので、少し楽しいというか、そんな気もする。


「じゃあ、やめろ!敬語!そもそも俺はこの国の言葉があまり得意じゃないんだ!大声と勢いでごまかしてるけどな!だから敬語は時々聞き取れない!はっはっは!」

「そういうことなら、やめるよ。あと、なぜ高笑いをするんだ」


 俺はフーブに了承を伝えると、フーブは話を強引に戻した。


「ノワールは仕事でもらえる報酬の額が少ない方がいいのか!?」

「いや、急に話もどったな!?まあいいけど……」


 俺は溜息をついて返答する。


「いやな、あんまりにもうまい話には、裏があると疑いたくなるのが人間の性と言うか……俺の性と言うか。日本人の性と言うか」

「最後のほうはなんて言ってたのか聞こえなかったぞ!もう一度、聞こえるように大きな声で言ってくれ!」

「聞かなくていいことだよ!それより……」


 フーブのほうを見ると、純粋そのもの、濁りのない目でこちらを見つめている。

 その特徴的な赤髪はやはり燃えるようにこちらに強い主張のようなものを飛ばしているような気がする。

 うん、見た目が威圧感あるんだな、フーブの場合は。

 性格もあるが、やはり見た目の暑苦しさは大きいと思う。知らんけど。


「本当に5,5の割合でいいのか?俺は戦闘で、本当に役に立てないぞ?」

「だが俺は戦闘以外で何の役にも立てん!なれば妥当だと思うが?」

「フーブがそう言うなら、俺はそれで構わないよ」


 フーブは「うむ!」と大仰に頷くと、その依頼書を受付に持っていこうとして……途中で何かに気が付いたように引き返してきた。


「すまん、魔狩証明書を預かるのを忘れていた」


 だよね。


「いいよ、俺も一緒に行く……」


 俺は頼んでおいたココ・ジュースを一気に飲み干すと、入れ物の下に料金を挟み込んで席を立った。


「すいません、片付けお願いします!」

「はいただいまー!」


 隣の机に料理を運び終えた職員にチップを手渡して片づけを頼むと、彼女はチップを懐に仕舞って快く返事をした。


「さて、正式に依頼を受理しに行きますかね」

「うむ!楽しみだ!」

「初めての遠足じゃあるまいし……」


 俺は剣と一緒に腰に付けた子袋、その中に入っている魔狩証明書と魔狩実績証明書を取り出した。

 一般にそれぞれハンターカード、ハンター手帳と呼ばれるもので、その功績や達成依頼を記載して様々な支援をする上での円滑化を図る意図で作成されているのがハンター手帳。

 魔狩として依頼を受けたり、役所に申請したりするときに使うのが魔狩証明書である。

 今の俺の証明書には登録支部と登録番号、氏名などが記載されている。


「すいません、この依頼を正式に受理したいんですけど」

「はーい!じゃあ受理しましたよーっと!」


 相変わらずノリが軽い受付嬢に依頼の受理を申し込むと、2つ返事で許可された。

 人の命を預かってるんだからもっと厳正にしてほしいとは思うが、まあ、こんなものかという妙な納得もある。


 俺とフーブは受けた依頼の達成のため、準備を整えるために協会のドアを開ける。

 ふと、視線を感じて振り向くと、ガルムさんが総合受付から、暇そうにこちらを眺めて言った。


「気をつけろよ」

「はい!」


 同期との初めての魔狩。

 実質的な魔狩デビューと言っても過言ではないだろう。

 俺は期待と不安を胸に、もう協会を出たフーブの後を追うのだった。

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