第24話:初めまして魔狩、さようならニート生活
魔導操車は思ったより小さく、自動車をうんと小さくしたような見た目だった。
運転席含め4人乗りらしいのだが、カルミアと二人でも所狭しと言った感じだ。
狭い理由はその大きさだけではなく、後ろの大きな機械類(?)にある。
木材でできた本体の半分以上を占有するように鎮座しているその箱は、どこにも開け口が見当たらなかった。
壊れたりしたらどうなるのだろうか……なんてことを思わなくはないのだが、まあ外からなんとかする手段があったり、企業秘密だったりするのだろう。
座り心地に関しては、木でできた無骨で硬い椅子にさえを目を瞑れば、乗り心地は良かった。
計算上常に微妙に浮かしたほうが魔力効率がいいらしく、ホバークラフトのように浮いているので、揺れが一切感じられないのだ。
うれしい誤算と言うやつである。
うれしい誤算はもう一つ。現在一つしか開いていなかった魔導操車のレンタル期限を過ぎても、まだ返していない客がいるらしい。
という事情から、いくらか性能が高いものを同じ料金で貸してもらった。
契約書上、遅れたらその損害分を保証するという内容らしいので高いのを貸して遅れたやつに全部吹っ掛けるほうが儲かるそうだ。
商魂たくましいことである。
「ちょっと格好はつかないが、とにかくやっと出発だ!」
ーーおおォォォ!
………………
「……ぃよし、いくか。あんまり時間はかけてられねえ。移動に2日じゃおちおちサボるわけにもいかないからな」
「ですね」
まあ、しかし魔導操車の性能が上がったから移動時間はだいぶ短縮されるだろう。
速度表を見せてもらったところ、借りる予定だった操車よりも約1.5倍の性能だ。移動時間は頑張れば1日で行けるかも知れない。
俺とカルミアは手持ちしていた保存食の類を魔導操車に積み込むと、カルミアは運転席で俺は後部座席に乗った。
あまり座り心地は良くないが、筋肉痛も治ったことだし我慢できないこともないだろう。
「よし、動かすぞ」
ゆっくりと加速を始める魔導操車。
そのままの緩慢な動きでラピスの門から出ると、操車はだんだんと加速を始めた。おそらく街中ではあまりスピードを出せないんだろう。
加速を始めた操車はやがて、全力疾走ほどの速度になり、そのままの勢いで草原を走り始めた。
そこまで速度は出ていないのだが、前方に見える山からだろうか、吹き下ろす風が気持ちよく、目を細める。
整備された街道が一体を埋め尽くす小さな草木の中で浮いており、目的地が非常にわかりやすくなっていた。
街灯などの建築物はほとんど無いが、看板や打ち捨てられたシャベルなど、所々に人の手が加えられた形跡を感じられる。
看板によると、どうやらここはラピス草原というそうだ。ちょうど、俺のきた西門から反対方向の東門から出たのだが、景色が全然違うから驚きだ。
カルミアによれば、ラピス街道はラピスと他都市の交易の要であり、この交易の要であるそうな。
そして今回俺たちが向かうのは、しばらく街道沿いに魔導操車を走らせて、そこからまっすぐ山の麓まで行くコースだ。
カルミアさんは生憎と地図や文字が読めなかったため、俺が地図を借りて案内をすることになっていた。
とはいえカルミアさんもそこには何度か行ったことがあるようなので、細かい調整は必要だが、大まかには問題ないだろう。
「こんなに早い機種乗ったことないぜオイ。癖になりそうだ」
カルミアさんが運転席のレバーをいじりながら言う。
彼の短い茶髪は風に煽られて後ろになびき、さながらオールバックだった。
「しかし、不思議ですよね。これ、後ろに何が積んであるんでしょうか」
「魔法触媒の一種らしいぜ。まあ、正確なことはわからんが……」
魔法触媒。
なんだかよくわからないがなかなかにワクワクする響きだな。
「とはいえ、俺ら素人にいじれるようなもんでもねえだろうし、気にしないが吉だぜ。下手なことして壊したら、修理費とかマジで馬鹿にならなそうだしな」
「そうですね……」
その言葉に若干身震いする。
このレベルの技術を使った魔法を使った機械……仮称、"魔導機械"の仕組みは俺には絶対に理解できない類のものだろうと思う。
正直なところメカニズムを知りたい欲はないではないのだが、自分の余計な好奇心によって多額の、それもありえないほどの額を請求されて仕舞えば、地球に帰るどころではなくなるだろう。
一生地下労働所で強制労働、悪ければ奴隷なんてこともあるかも知れない。
異世界で器物破損からの奴隷落ち。
こんなにくだらないことはないだろう。
「そもそも、この世界に奴隷なんてものがあるのか……?」
「ん?奴隷って聞こえたけど、何かあったのか?」
俺の言葉に耳ざとく反応するカルミア。
「いや、簡単な疑問なんですけどね。奴隷って存在するんですか?」
「ん?奴隷ぐらい街にいくらでもいるだろ。なんだ見たことねえのかお前。変わってんだなあ……」
やっぱりいるようだ、奴隷。
奴隷と言うのだからやはり、その地位は相当に低いと踏んでいいだろう。
その事実に俺は再び身震いした。ここは異世界、地球じゃない。そのことを再認識せざるをえなかった。
*
タテアオ山その麓である最終目的地に着いた時、太陽は既に落ちて夜も更け始めていた。
山への街道、その分岐点にある野営用のキャンプ地。つまり予定野営地についたはいいのだが、時間は予定よりも3時間ほど早く、まだ夕方にもなっていなかった。
俺たちが今そこにいないのは、野営を始めるには早すぎるので、さっさと歩を進めて今日中に目的地まで到着しようというカルミアさんの判断だ。
予定よりも早く依頼を始められそうで、カルミアも喜んでいた。
「しかし食料が結構余っちまいそうだな」
「いや、大いに越したことはないですよ。1日で見つからない可能性だってあるんだし」
炎の魔道具で火を起こしたカルミアが、俺の肩をポンポンと叩いた。
おそらく火の番と料理だろう。
俺は鞄の中からじっとりと柔らかい干し肉の包みと、フライパン、それと植物油を取り出した。
フライパンに油をしくと、火にかけて油サラサラになるまで待つ。
数秒経ってフライパンをくるくる回すと、油が水のように流動し始めたので、借りたナイフで干し肉をスライスし、火にかけて焼き始めた。
ナイフは少し切れ味が悪かったが、それ以上に干し肉が柔らかくスパッと切れたのだ。
俺は昔読み漁っていたライトノベルの影響で、干し肉は硬くてまずいと言うイメージがあったのだから驚いた。
さて、肉がいい感じに焼けてくると、いい香りが漂ってくる。
俺は折を見てフライパンを傾けて肉をひっくり返す。
いい感じに焼けてきた所で火から外し、鞄の中から親指から中指にかけての3本指につける、不思議な形の手袋を取り出す。
食用手袋と言うらしい。素材はよくわからないが、あまり伸縮性はなく本当に食べるためだけに特化しているのだとわかる形状と手触りだった。
水洗いもできるらしい、よくできた代物だ。
「荷物持ちにも使えて助かるぜ、料理もできるしな」
「いえ、そんな。高い報酬なのにこれだけしかできなくて申し訳ないぐらいです」
俺はそう言うと食用手袋をカルミアに手渡した。カルミアはそれを受け取ると早速肉を摘み始めた。
俺はその横で鞄からビスケットとドライフルーツを取り出す。
もう2日分あるので結構余裕なのだが、油断はできない。今日の分以上のものは食べないように注意しなければならないだろう。
俺はざっと数を数えると、フライパンの上にナッツ類とビスケット、ドライフルーツをいくつかおいた。
「お、助かるぜ。全部に肉でもいいが、やっぱ甘味は大事だぜ」
「同意です。糖分がないと頭も働かないし」
「お、おう」
俺たちはひとしきり食事を堪能すると、途中のキャンプ地で汲んできた水を鞄から出して少しばかり飲んだ。
そう、このラピスの都周辺には大きな川と、それに付随する分流がいくつも流れており、その水のどれもがすごく美味しい。
「さて、腹が減ってきても事だ。俺はそろそろ寝るとするぜ。交代の時間になったら、起こしてくれ」
「了解です」
カラミアは俺の返事を聞くと、平原に立てた簡易的なテントに潜り込んだ。
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