第23話:勧誘

「お前、一時的にパーティに入らないか」


 パーティ。仲間、党などの意味を持つ。

 一時的な物もあれば、長期的な物もあるが、最近のセオリーは長期的なパーティを組むことらしい。

 一昔前はソロ基本、自分にできない時は利害の一致としてパーティを組むような形態だったが、最近はパーティ単位での出世や昔馴染みで絆深いパーティを組み、その中で足りない部分を他で補うのが主流らしい。

 そして、田舎から出てきなようなパーティは、言い方は悪いが頭が良くないことが多い。


 数の単位や、簡単な乗法除法たしひき算などすら分からずに、報酬の分配で瓦解したパーティは少なくないらしい。

 とはいえ、ある程度生き残ってきたパーティ及び魔狩は算術が出来ることの重要性を理解していることが多い。


 だから算術の問題を満点で、超絶高速で解けた俺の需要は中々に高いのだ。

 取り合いになるぐらいには。


 俺の試験の結果は5段階評価のうち、魔が1、武が2、体が2の学が5か、それ以上と記載されていた。

 備考には、算術試験で3年内最高速度での突破者。と書かれたいた。

 小っ恥ずかしいばかりだが、高評価を受けて悪い気はしなかった。

 ちなみにフィールの成績は魔5、武が4、体が3、学が2だった。精霊言語学試験での点数は非常に低かったが、俺と同じく何となくやってみただけらしいので、彼女が馬鹿だと言う訳では決してないと、名誉のために言わせてもらう。

 なんでフィールの成績だけ知ってるかって?

 見たからだよ、掲示板の成績を。


 そしてフィールは早々に勧誘まみれになって魔狩に連れていかれた。

 どうやらどこかの魔獣の群れが村に接近していて、それを討伐しに行くらしい。

 絵?なんで知ってるのかって?

 仲良いから教えて貰ったんだよ。


 ちなみにセクとブックも同様にどっかのパーティと魔狩に行った。ブーブはまだ見てない。

 そしてロックウェルは向こうのテーブルで羨ましそうに俺の方を見ていた。


「で、どのパーティに入るんだよ。俺のはほら、これだぞ。荷物持ちと野営の食糧分割、報酬分割を頼みたい。分け前は1割だ」

「うわ、これ5万ラディの依頼じゃないですか!1割って、良いんですか?」

「だが、ちょろまかすなよ」

「いや、待て!俺たちの依頼は5万2000ラディだ。分け前は1割だがこっちの方が多分多いだろ!?」

「てめぇその依頼短期じゃなくて長期じゃねえか!1割は不当だぞノワール!」


 唐突に取っ組み合いの喧嘩が始まり、周りの人たちも口笛吹いたり声援を送ったりして囃し立てる。

 魔狩ってのは全員こうなんだろうか?

 誰の所に行くのが1番角が立たないかなんて事を考えていると、向こうから見慣れた装備の3人組がやってくる。

 やってくるタイミングもイケメンなんて完璧かよあの主人公ハーレムイケメン魔狩


「ラードさん!」

「ん、ああ。ノワールじゃないか。随分と人気者なんだな」


 彼らは俺に気が付くとこちらのテーブルに寄ってきて、椅子に座った。

 さすがラードと言うべきか、彼が来たら他の魔狩達が彼を避けて周りを囲んだ。


「おいラード、俺が目をつけてた新人だ。横から入って取り去るなんて事すんなよ」

「しないとも。俺も魔狩の一員だ。彼の友人という立場を利用して、彼を引き入れようなどとはね。だか……」

「だが、なんだよ?」

「彼の友人として、もっとも割のいい仕事を彼に教えてあげるのもいいかも知れないな?どれどれ」


 ラードは俺の前に置かれた5枚ほどの依頼書をパラパラとめくると、それぞれの受注者から割合を聞き出した。

 どうやら俺に依頼しているのは5組。

 男女混合パーティ2組、男性パーティ1組、ソロ2組。


「ふむ、実績から見てもそこのカルミアが1番割のいい仕事を出しているね、どうする?他のを受けるかい?」


 ラードに渡されて見た依頼書には、達成報酬2万、期限は1週間。内容はテメレア盗賊団討伐時に脱走したハピレモロンの捕獲あるいは討伐。


「なんですか、この愉快な名前の生物は」

「確か意味は、古語で"鮮血レモロン喰らいハピ"。巨大な針で獲物の肉深くまで針を突き刺し、致死量の血を吸い取る魔獣だ」

「ゲ、ヤバそう」


俺が目に見えて嫌悪感をあらわにすると、カルミアと言われた男が補足する。


「確かにやべえが、お前にやって欲しいのは食料計算と距離計算だけだ。依頼期間も5日と短いし、オラはハピレモロンの討伐経験がある。それ以上のも、な。それで報酬3割だ」

「は!?その依頼2万ラディだろ?3割だろうが俺の5万2000の方が多いに決まってんだろ!」

「そうだったとしてもそう変わんねえよバカ。お前その難易度の依頼初めてだろ、俺の方が安定してるね」


 カルミアがさっきの5万2000の依頼の人と喧嘩している。

 しかし、5万2000の依頼は報酬5200、2万の方は6000だ。

 俺は全体的に依頼表を一つ一つ見て、どれを受けるか決めるとカルミアに声をかけた。


「よろしくお願いします、カルミアさん」

「おっしゃああ!見たかコラ!」

「クソがああああああ!おい、次は俺んとこ来ていいんだからな!?」

「は、はい」


 多分、荒らくれているが悪い人たちじゃないのだろう。


「よし、そうと決まれば早速食料調達だ。準備はあるか?」

「何もないと思います」

「なら良し」


 カルミアは俺の手を引くと、魔狩協会を出たのだった。



 *


 カルミアの向かった先は保存食などが置いてある魔狩ハンター御用達の店だった。

 名前は『カテラ保存食料店』。

 何ともまあシンプルな名前である、一般人はあまり立ち寄ることはないだろう。

 しかし、このラピスはそこそこに大きな街らしくこのような店も繁盛するのだそうだ。


「これから魔狩をするにあたって覚えておいた方がいい店の一つだ。店の名前は覚えちゃいねぇが、魔狩をする際はみんな基本ここに立寄る。ここで買う食料の計算がお前の初仕事だ。まず、距離と車の速度、野営時間を決めるぞ」

「車の速度も決められるんですか?」

「……そんなことも知らないのか?いいか、よく聞け。ここから出る車を借りる方法が幾つかある。ひとつは馬車。動物の馬に人が乗れる椅子を付けて移動する、オーソドックスなもんだ。だが、今回はこれを使えねぇ。今は御者を雇う金も操馬術もないからな」

「……ほう」


 他にもあるような言い方に引っかかる。大抵こう言う移動手段って馬車だけじゃないのか?


「もうひとつは魔導操車。目的地までの魔力代さえあれば、簡単な操作で人を運べる」

「それだったらみんなそれを使うんじゃないですか?」

「比較的魔法が発展してるこの国も、魔導操車の速度は早いと言い難い。走るよりも遅いくらいだ。だから金がありゃあ馬と御者を雇うが、歩いて移動する訳にも行かねぇ。だから車を使うって訳さ。あとは、丈夫だし命令に忠実だからな」

「へー、ちなみに魔導操車の借り賃と魔力代って幾らぐらいするんです?」

「んまあ経験上、3000ラディ位だな」


 ラディ。この世界におけるお金の単位。

 街の感じを見ている限り、大体1ラディが20円ほどって感覚だ。

 だから今回の報酬はだいたい日本円で12万ってことになるだろう。

 俺は住居を持っておらず、魔狩の場合所得税の2割を国が補償してくれる。更に登録から1ヶ月は申請書を出せば税金の中から働きに応じて最大6割返還されるそうだ。

 ちなみに俺は勿論申請している。

 所得税が約4割なので、2割引で32%が税金で持っていかれるのでだいたい……

 今回の魔狩で8万4000円弱ってことだ。あくまで日本円換算で……だが。


 まあつまりは魔導操車は借り賃含め合計6万くらいするってことだ。

 今回の彼の報酬は、経費を勘定しなければ俺のを除いて大体20万弱ってことだ。

 操車代を引けば14万。


 確かに5日で一旦14万程と考えれば高く見えるが、命を懸けてこれだから正直まぁ、割には合わないよな……


「今回の旅は大体12.5イルガデール程だ。往復で……えっと?」

「25イデガールですね」


 大体5キロほどだったと思われる。

 カルミアが流石、と言わんばかりにヒュウッと口笛を吹いて褒めるが、なんだか褒められた気がしないのが困りものである。


「魔導操車の速度が……前聞いたのだと確か……えっと、どのぐらいだったかな……。参った、これじゃあ到着時間が分からねぇ」

「……適当に決めて餓死じゃあ格好つきませんし、先に借りる操車決めときます?」

「よし、そうだな。それがいい」


 カルミアとの買い物は、あっちに行ったりこっちに行ったりでなかなか終わらず、結局出発したのは昼をすぎた頃になっていた。

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