第7話:事情聴取

 憲兵に引き取られた俺は、とりあえずまともな服と食事をと言うことで奥に通されて、大きな食堂に通された。

 今の時間、憲兵の人たちは訓練や見回りに行っているらしく、わずかに日の差す、簡素で大きな食堂には何人かの職員と怪我をした憲兵がいるだけだった。

 そこに座らされて待っていると、憲兵の一人が自分の食事と俺の食事を持って、俺の席の前にやってきた。


 「待たせてすまない、憲兵1団、団員のロウェだ。君の境遇と、支援について担当している。数日から1ヶ月ほどの付き合いだろうが、よろしく頼むよ」

 「よろしくお願いします」


 俺が頭を下げたのをみてロウェは軽く頭を下げると、右手に持っていた御盆を自分の前に、左手に持っていた御盆を俺の前に置いて、椅子にかけた。

 御盆の上にはパンとスープ、それと焼いたジャガイモとサラダが大盛りに載っており、食欲をそそられる。


 感謝を伝えようとしてふと、彼の方を見やると、その姿に一瞬気を取られる。

 ピンと伸びた背筋と隙のない出立に、上から目線ながら感心する。素人目に見ても隙がない。

 短く揃えられた金髪と、温和そうな顔立ちがその印象を軽減しているが、間違いなく相当強い。

 このレベルの実力者が一般の団員であると言う事実が、憲兵団の実力の高さを表しているだろう。


 「さて、腹が減っては話もしづらいだろう。食いながらでいいから、答えられる質問にだけ答えてくれ」

 「ありがとうございます」

 

 俺は食べてもいいと許可が出るとすぐに目の前にあったパンにかぶりついた。彼らの旅では最低限の食事は食べていたが、やはり体力の消耗もあって、十分ではなかった。

 うまい。空腹は最高のスパイスだと言うが、それにしたってうまい。スープとパンを交互に食べ、とにかく空いた腹を満たす。

 その姿を見てロウェは笑いをこぼす。


 「はは、ずいぶん腹が減ってたんだな。だが、よく噛んで食えよ。喉につまらせたら事だからな」

 「ふぁい」


 口にパンを含んだまま返事をすると、彼は一層笑みを深くした。


 「さて、このまま全部食い終わってからでいいんだが、一応仕事なんで、質問させてもらうぞ。まず……記憶喪失という事だが、本当なのか?」

 

 俺は口の中のパンを飲み込むと、彼の方を見て、答える。

 

 「はい、何にも覚えていません」

 「自分の名前とか、出身とか、職業とかも?」

 「ええ、何も」


 彼は左手に御盆と一緒に持っていた紙に何かを書いた。

 見たところおそらく俺に聞く質問やそれに対する答え、メモをする用紙だろう。

 この世界で紙の価値がどのくらいのものかが分からないのだが、ここで使われているということは俺の想像したよりは安いのだろうか?

 

 「さて、じゃあ住所は思い出せる?」


 ほかの考え事をしていてぼーっとしていると、次の質問が飛んできた。

 俺が自信なさげに「思い出せない」と答えると、ロウェは難しそうな顔をして唸る。


 「ふーむ、困った。いや、困っていたのは知ってたが、実際に聞くとより困る」


 うーんと言いながら、ロウェは頭をトントンと叩いた。

 確かに、難しい境遇だろう。

 犯罪者が記憶が消えたフリをして新しい顔で人生をやり直そうとしてる可能性だってある。魔法があるこの世界なら、ありえない事では無いだろう。

 実際に魔法がない俺のいた世界でだって同じような話を聞いたことがないでは無い


 実際、記憶喪失なんて曖昧で、自己申告でどうとでもなる。粗があれば覚えてたとか思いだしたって言えばいい。

 これ以上に都合のいい設定はないだろう。まぁだからこそ俺もそれを使ったわけだし、実際嘘をついていることには違いないわけだ。

 そりゃあ対応に困るだろう。


 「とりあえず、一時的に預かりという形で三日間ここにいて様子を見る。それで問題なさそうなら解放するが、多分街を出て、他の街に行くには1月かかると見積もってくれ。一時外出は認められると思うが……まぁその程度だろう」

 「なるほどです」

 「よし、他にもいくつか聞かなければいけない事がある。犯罪歴やら出生についてだ。まぁほとんど覚えてないだろうから、答えられる範囲で答えてくれ」

 「はい」

 「じゃあ、質問だ。まず犯罪歴について……」



 その後、結構な数の質問をされたが、ほとんど答えられなかったのだった。

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