第2話:戦いの終わり

 上半身を食われた俺は、その口の中で激痛に耐えながらリスポーンと唱えると、奴に噛み潰された。

 案の定リスポーンは口の中。

 急に喉の奥に異物が現れたんで、狼野郎はさぞ驚いたろう。

 上半身を食われた俺は、その口の中で激痛に耐えながらリスポーンと唱えると、奴に噛み潰された。

 案の定リスポーンは口の中。

 急に喉の奥に異物が現れたんで、狼野郎はさぞ驚いたろう。


「ギャゥ!?」


 叫び声がそのまま届き、鼓膜が破れそうなほどの音が俺の耳を刺激した。

 騒音とか爆音とかいうレベルではなく、痛みを伴う音の暴力。

 なんとか気力だけで対抗しつつ息を止めると、俺はそのまま喉の奥へと入り込んでいく。


 真っ赤で赤く細い道をこじ開けて通る。

 息が続かなそうになったので、慌ててリスポーンを唱える。


 残飯を1年貯めて発酵させてぐちゃぐちゃに混ぜたらこんな匂いになるんだろうか。

 吐きそうなほどの異臭と呼吸ができない苦しさが俺を襲い続ける。

 ヌルヌルしていて進みづらいし、更には奴が暴れ回っているのか、振動と轟音で頭がいかれそうだ。

 いつの間にプツリと意識が切れても不思議ではない。


 酸素不足で朦朧としてきた意識が胃に辿り着いたことで多少緩和される。

 が、そこにある光景を目にして息をのんだ。

 短剣や、折れたんであろう長剣。メイス、弓矢の破片、更には魔法の杖みたいなものが、胃の中に浮いて残っていたのだ。

 衣装などの類は残っていなかったが、あちらこちらに金属製のパーツなどが今にも消えそうに浮いている。

 なぜ溶けていないのかは分からないが、しかしこの事実が示すのは、この狼が人を食った事があると言う単純な答えだろう。

 気分悪いぜ畜生。


 空気が残り少ない以上、声を出すわけにもいかないが、しかしそれでも思わず吐息を漏らしてしまうほどに凄惨な光景だった。

 が、骨が残ってないのはどういう事だろうか。

 骨を溶かすほどの酸が含まれてる?ってことは俺なんかが入ったら一溜りもないのでは?

 そもそも人間って酸に強いのか?


 真面目な話、メイスとか剣じゃなく、スマホや何かが落ちていないのは何故だ?

 ここを地球じゃないという仮定で考えれば、俺のように地球からこの世界に来るのが殆どなら、銃がないとおかしい。

 なら、この時代の人間じゃない?

 考えられるのは2つ。ここには銃火器発明以後の人間は投棄されていない。

 後もうひとつは、ここが全く別の法則と時代背景を持った、異世界であるという可能性。

 ここは……異世界なのか?


 他の文明……具体的には魔法を用いた生活をするような、そんな文明が存在するのか?

 いや、ファンタジーとして受け入れるのなら容易いが、実際に見ると不可解だ。

 しかしそれならば外で食らわされた風の斬撃にも得心とくしんがいく。

 速すぎて見えないのではなく、本当に不可視の「魔法」であると考えれば、あのめちゃくちゃな力にも多少は信憑性が出てくるってものだ。

 あんなに大きい狼は地球の重力では存在できない可能性が高い。

 いたとして愚鈍だろう、あんなに速いわけが無い。

 

 が、ここが重力の違う異世界で、魔法があるとするならそれにも納得が行く。

 更に言えば、運動を久しぶりにやった俺でもある程度動けたのは、重力が低い関係もあるかもしれない。

 いや、低いと決まったわけではないが、あの重量であの速度だ。地球と同じだというほうが無理がある。

 まあ……地球から遠く離れた星だったとして、別の宇宙だったとして、俺には観測のしようがないのだからそう結論付けるよりほかどうしようもない。


「リスポーン」


 俺はそう唱えると、胃壁に爪を立てて降りながら、底に貯まる胃液に触れる。

 

「熱ッ!痛った!」


 その熱さに思わず思い切り手を引いてしまう。

 が、それが災いした。勢い良く手を引いたことでバランスを崩し、俺は滑って胃壁を転がり落ちる。

 腰を打ったと思ったら、次に襲ってきたのは熱湯など比にならないほどの熱だった。


「熱い熱い!」


 痛みと熱が俺の体を蝕む。

 しかしなかなか溶けない、死ねない。

 胃液では溶けるのにそこそこの時間がかかるだろう。それが状況の好転と長きにわたる苦痛の両方を兼ね備えているから皮肉だ。


「クソがァァァァァァ!ここまで来て詰みとか認められるかよ!」


 俺は近くにあった剣の柄を握り、左手に短剣を構えて思い切り胃壁に突き刺す。


「使うぜ!」


 と、轟音が響き、血がドバドバと溢れ出した。

 いける、体内からならアイツは傷つけられる!というか無理だったら脱出もできないし詰んでたけどな!

 と、苦しみを忘れていた俺の体が再び酸素を求め始める。


「カッ……ハッ…………!!」


 声にならない声が喉の奥に絡まる。

 痛みと熱が体を焼き、苦しみが身体中を駆け巡る。

 意識が傾き、思考が乱れ、目の焦点がブレる。


 そして俺は、すぐさま意識を失った。






 *


 今回のリスポーンは今までとは何かが違った。

 恐らく、意識を失ったあとも暫くは生きていたのだろう。

 両手に握っていた剣はもう手の中にはない。

 胃液にぷかぷかと浮いている。


 対処法は分かった。

 気を失うまでは恐らく1分程度。

 迷ってる暇はない。


 俺は息をこぼさぬように胃液の中に飛び込み、剣と短剣を拾い上げた。

 

「ンー!ン"ー!」


 熱い熱い!

 いたい!


 クラっとふらつく体を何とか奮い立たせ、胃壁にめちゃくちゃ傷をつける。

 あちこちから血が吹き出し、斬りつける度に痛みからか奴が暴れているのがわかった。

 切った先から血が枯れると、胃液が逆流して奴の体内を蝕んでいく。


 無言であちこちを刺し、斬り、胃液の下にも穴を開け、剥ぎ取った。

 意識が飛びそうになるのを必死で押え、なんども斬りつける。斬りつける。斬りつける。斬りつける斬りつける斬りつける斬りつける斬りつける斬りつける斬りつける斬りつける。

 何も見えない。でも手は離さない。切る、斬る、ただ、斬る。




 ふと、痛みが消えて、視界がクリアになる。慌てて胃壁に捕まると、自分がリスポーンしたのだと理解出来た。


 もう、振動も音も無くなっていた。

「ギャゥ!?」


 叫び声がそのまま届き、鼓膜が破れそうなほどの音が俺の耳を刺激した。

 騒音とか爆音とかいうレベルではなく、痛みを伴う音の暴力。

 なんとか気力だけで対抗しつつ息を止めると、俺はそのまま喉の奥へと入り込んでいく。


 真っ赤で赤く細い道をこじ開けて通る。

 息が続かなそうになったので、慌ててリスポーンを唱える。


 残飯を1年貯めて発酵させてぐちゃぐちゃに混ぜたらこんな匂いになるんだろうか。

 吐きそうなほどの異臭と呼吸ができない苦しさが俺を襲い続ける。

 ヌルヌルしていて進みづらいし、更には奴が暴れ回っているのか、振動と轟音で頭がいかれそうだ。

 いつの間にプツリと意識が切れても不思議ではない。


 酸素不足で朦朧としてきた意識が胃に辿り着いたことで多少緩和される。

 が、そこにある光景を目にして息をのんだ。

 短剣や、折れたんであろう長剣。メイス、弓矢の破片、更には魔法の杖みたいなものが、胃の中に浮いて残っていたのだ。

 衣装などの類は残っていなかったが、あちらこちらに金属製のパーツなどが今にも消えそうに浮いている。

 なぜ溶けていないのかは分からないが、しかしこの事実が示すのは、この狼が人を食った事があると言う単純な答えだろう。

 気分悪いぜ畜生。


 空気が残り少ない以上、声を出すわけにもいかないが、しかしそれでも思わず吐息を漏らしてしまうほどに凄惨な光景だった。

 が、骨が残ってないのはどういう事だろうか。

 骨を溶かすほどの酸が含まれてる?ってことは俺なんかが入ったら一溜りもないのでは?

 そもそも人間って酸に強いのか?


 真面目な話、メイスとか剣じゃなく、銃が落ちていないのは何故だ?

 ここを地球じゃないという仮定で考えれば、俺のように地球からこの世界に来るのが殆どなら、銃がないとおかしい。

 なら、この時代の人間じゃない?

 考えられるのは2つ。ここには銃火器発明以後の人間は投棄されていない。

 後もうひとつは、ここが全く別の法則と時代背景を持った、異世界であるという可能性。

 ここは……異世界なのか?


 他の文明……具体的には魔法を用いた生活をするような、そんな文明が存在するのか?

 いや、ファンタジーとして受け入れるのなら容易いが、実際に見ると不可解だ。

 しかしそれならば外で食らわされた風の斬撃にも得心とくしんがいく。

 速すぎて見えないのではなく、本当に不可視の「魔法」であると考えれば、あのめちゃくちゃな力にも多少は信憑性が出てくるってものだ。

 あんなに大きい狼は地球の重力では存在できない可能性が高い。

 いたとして愚鈍だろう、あんなに速いわけが無い。

 

 が、ここが重力の違う異世界で、魔法があるとするならそれにも納得が行く。

 更に言えば、運動を久しぶりにやった俺でもある程度動けたのは、重力が低い関係もあるかもしれない。

 いや、低いと決まったわけではないが、あの重量であの速度だ。地球と同じだというほうが無理がある。

 まあ……地球から遠く離れた星だったとして、別の宇宙だったとして、俺には観測のしようがないのだからそう結論付けるよりほかどうしようもない。


「リスポーン」


 俺はそう唱えると、胃壁に爪を立てて降りながら、底に貯まる胃液に触れる。

 

「熱ッ!痛った!」


 その熱さに思わず思い切り手を引いてしまう。

 が、それが災いした。勢い良く手を引いたことでバランスを崩し、俺は滑って胃壁を転がり落ちる。

 腰を打ったと思ったら、次に襲ってきたのは熱湯など比にならないほどの熱だった。


「熱い熱い!」


 痛みと熱が俺の体を蝕む。

 しかしなかなか溶けない、死ねない。

 胃液では溶けるのにそこそこの時間がかかるだろう。それが状況の好転と長きにわたる苦痛の両方を兼ね備えているから皮肉だ。


「クソがァァァァァァ!ここまで来て詰みとか認められるかよ!」


 俺は近くにあった剣の柄を握り、左手に短剣を構えて思い切り胃壁に突き刺す。


「使うぜ!」


 と、轟音が響き、血がドバドバと溢れ出した。

 いける、体内からならアイツは傷つけられる!というか無理だったら脱出もできないし詰んでたけどな!

 と、苦しみを忘れていた俺の体が再び酸素を求め始める。


「カッ……ハッ…………!!」


 声にならない声が喉の奥に絡まる。

 痛みと熱が体を焼き、苦しみが身体中を駆け巡る。

 意識が傾き、思考が乱れ、目の焦点がブレる。


 そして俺は、すぐさま意識を失った。






 *


 今回のリスポーンは今までとは何かが違った。

 恐らく、意識を失ったあとも暫くは生きていたのだろう。

 両手に握っていた剣はもう手の中にはない。

 胃液にぷかぷかと浮いている。


 対処法は分かった。

 気を失うまでは恐らく1分程度。

 迷ってる暇はない。


 俺は息をこぼさぬように胃液の中に飛び込み、剣と短剣を拾い上げた。

 

「ンー!ン"ー!」


 熱い熱い!

 いたい!


 クラっとふらつく体を何とか奮い立たせ、胃壁にめちゃくちゃ傷をつける。

 あちこちから血が吹き出し、斬りつける度に痛みからか奴が暴れているのがわかった。

 切った先から血が枯れると、胃液が逆流して奴の体内を蝕んでいく。


 無言であちこちを刺し、斬り、胃液の下にも穴を開け、剥ぎ取った。

 意識が飛びそうになるのを必死で押え、なんども斬りつける。斬りつける。斬りつける。斬りつける斬りつける斬りつける斬りつける斬りつける斬りつける斬りつける斬りつける。

 何も見えない。でも手は離さない。切る、斬る、ただ、斬る。




 ふと、痛みが消えて、視界がクリアになる。慌てて胃壁に捕まると、自分がリスポーンしたのだと理解出来た。


 もう、振動も音も無くなっていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る