ずっと一緒だよ

勝利だギューちゃん

第1話

僕はぬいぐるみ。

クマのぬいぐるみ。


僕には、いわゆる固有名詞という物がない。

それは、里親になってくれる子が、つけてくれるだろう。


箱から出されて、棚に陳列される。

ここは、ファンシーショップみたいだな・・・


そこへ、一組の家族が来た。

小さい女の子を連れている。


5歳くらいかな

その子が、僕をとる。


「パパ、ママ、これ買って」

「こんなのでいいの?」


こんなのとは、失礼な。


「うん。くまたろうくん。この子がいい」

くまたろう・・・まんまだな


まあ、大切にしてくれるなら、いいか。


「れいな、大事にするんだよ」

「うん、パパ、ママ、ありがとう」


れいなちゃんというのか・・・


こうして、僕、くまたろうは、れいなちゃんと、暮らすことになる。

といっても、お話は出来ないけど・・・


「くまたろう、きょうね、お絵かきで花丸もらったんだ」

れいなちゃんは、その日にあったことを、僕に報告した。


もっとたくさんの仲間がいると思っていたが、ぬいぐるみは、僕だけのようだ。


「くまたろう。今日幼稚園を卒園したんだよ。もうじき、一年生なんだ」

そっか・・・

もう小学生なのか・・・


「くまたろう、見て。ピカピカのランドセル」

赤いランドセルを自慢気にみせる。


れいなちゃんは、いつまで僕を、大事にしてくれるだろう。


「あっ、少し汚れてる。洗ってあげるね」

洗ってくれた。


「くまたろう、今日は風邪なの。一緒に寝てくれる?」

れいなちゃんは、病気の度に、僕と一緒に寝てくれる。


「くまたろう。私も、今日から4年生だよ。裁縫ならうんだ」

とても、嬉しそうだ。


「あっ、ほつれてる。縫ってあげるね」

ほつれたところを縫ってくれた。


痛いです。

でも、大事にしてくれるのは、嬉しい。


でも、思う。

いつまで、一緒にいられるか・・・


「くまたろう。私も中学生になるんだよ。君との付き合いも長いね。これからも、よろしくね」

真新しい、制服姿を見せてくれる。


セーラー服なのか・・・

個人的には、ブレザーが・・・


それは、高校の時に期待しよう。


「・・・くまたろう・・・失恋しちゃった・・・抱いていい」

僕を抱いて、泣きじゃくる、れいなちゃん。


悲しそうだ。

でも、そうやって、学んでいくんだ。


「くまたろう。今度修学旅行だよ。楽しみだな」

しおりを見せる。


奈良と京都か・・・

定番だな。


「くまたろう。今度から高校生なんだ。これが制服だよ」

今度は、ブレザーか・・・


僕の前で、くるりと回る。

とても、短い。


・・・白か・・・


「くまたろう、見たな」

ぬいぐるみに見られても、いいだろうに・・・


それが、思春期か・・・


しかし、それから数日だって、れいなちゃんが帰って来なくなった。

初めのうちは、旅行かお泊りと思っていた。


しかし、どうも様子がおかしい。


そして・・・


信じられない現実を、突きつけられる。


れいなちゃんが、事故にあい、命を落としたのだ。

入院していて、意識不明のまま、亡くなったらしい。


僕は、声をあげて泣きたくなった。


そして僕は、れいなちゃんの、棺の納められた。



私は、玲奈。

佐倉玲奈。


私には、大切なお友達がいる。

5歳の誕生日に、両親から買ってもらったクマのぬいぐるみ。


ファンシーショップで陳列されていた、あの子を見て、私は一目惚れをした。

私は、くまたろうと名付けた。


それから、いつも一緒だった。

何かあると、くまたろうに報告した。


心なしか、くまたろうの心が聞こえてくる気がした。

ツッコミが多かったように感じる。


でも、高校生に入って直後に、私は交通事故に合い、意識不明となった。

そして、そのまま、天国へと行くことになった。


命とは、あっけない。

両親に親孝行が出来なかったのは、悔いが残る。


でも、それ以外は、ない。


いつ死んでも、後悔しないように、一生懸命生きてきた。


両親は、くまたろうのぬいぐるみを、棺に入れてくれた。

ありがたい。


私の部屋には、くまたろうのぬいぐるみしか、置かなかった。

この子ひとりに、愛情を注ぎたかった。


そして、私は、くまたろうと、天にのぼる。


「れいなちゃん」

「くまたろう?」

「こうして、お話しるのは、初めてだね」

「くまたろうと、話せるなんて、夢みたい」

「もう、死んでるからね。お互い」

「死んでる?」


「れいなちゃん、物には魂が宿るんだよ」

「魂?」

「れいなちゃんは、僕を大事にしてくれたから、魂が宿ったんだ」

「よく言われるね」


「れいなちゃんも、僕も、器を失った。魂だけになったんだよ」

「ということは?」

「もう、器に束縛される事はない。これからは、対等にお話しできるんだよ」


いつしか、手を取り合う。


「行こうか・・・」

「うん」

「どこへ行っても・・・」

「行っても・・・」


『ずっと、一緒だよ』


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