第9話:悪夢

 王都では色々な事が起こっているようです。

 全部性格の悪いイーシスがやった事です。

 王太子は高い塔に幽閉されました。

 異母妹のエイダは修道院に閉じ込められています。

 私は何もやっていないので、私の責任ではありません。


(なに言っているのよ、私達は一心同体よ。

 私のモノは私のモノ、アグネスのモノも私のモノよ)


 やはり何を言っても無駄なようですね。

 でもどうしても言っておかなければいけない事があります。

 後々大問題になるかもしれませんが、見て見ぬふりはできません。

 私の不完全な良心がズキズキと疼きます。

 小心者の証拠だともいえますが。


(イーシス、王太子とエイダの子供をどうする心算よ。

 まさか水に流したり殺したりしないでしょうね。

 子供を殺すなんて絶対に嫌よ。

 生れる前だからと言って水に流す事も嫌だからね)


(私だってそんな事は嫌いよ。

 本当にアグネスは私の事をどう思っているのよ)


(頭はいいし魔術は優れているし、力はあるけど性格の悪い女よ)


(きいいいいいい、あんたの方がよっぽど性格が悪いわよ。

 よく平気でそんな事を口にできるわね)


(口になんかしていませんんんんん。

 心の中で思っているだけですぅううううう)


(あああああ、はらたつ、たらたつ、腹立つ。

 そこまで言うのなら貴女の身体を使って子供を殺してやるからね)


(だめ、だめ、だめ、絶対に駄目。

 謝るからそれだけは止めて、お願いだから止めて)


(ふん、最初からやらないって言ってるでしょ。

 私だって純真無垢な子供は大好きなのよ。

 最初から子供を殺す気なんてコレッポッチもないわよ。

 周りの人間は魔術で意識操作してあるから、独断で水に流す事も殺す事もなわ。 

 ちゃんと出産させてくれるわよ)


 よかった、本当によかった。

 もし私達がやった事が原因で、まがりなりにも甥か姪が殺されるような事に成ったら、一生悪夢にうなされることになるわ。


(だけどね、あの子を利用しようとする者が現れたら別よ。

 認知はされないでしょうが、王家の血とグロブナ公爵家の血を受け継ぐ子よ。

 王位継承や公爵家継承の火種になるのは間違いないわ。

 近隣諸国が取り込んで手駒に使おうとする可能性もあるのよ。

 それを嫌って事前に殺そうとする者が現れる可能性もあるわ。

 それにアグネスと結婚してグロブナ公爵家を乗っ取ろうとする者も現れるわよ。

 そんな者にとっては邪魔者でしかないのよ)


 確かにイーシスの言う通りね、なにか手を打つ必要があるわ。

 このまま辺境で隠棲したかったのに、仕方がないわね。

 悪夢が見たくないのなら私がこの手で助けるしかないわね。

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