第10話:救出希望

(助けるわよ、いいわね、イーシス)


 私は自分のために甥か姪か分からない子を助ける事にしました。

 別に慈善家を気取る気はないです。

 単に自責の念に責め苛められ悪夢にうなされるのが嫌なだけです。


(えええええ、面倒よそんな事。

 放っておけばいいのよ、そんな子。

 どうせ腐れ王太子とエイダの子供よ)


 イーシスはわざと憎まれ口を叩きますが、嘘だと分かっています。

 さっきは私の良心を刺激するためにわざと事情を語ったのです。

 ねじくれた難儀な性格ですが、決して悪人ではないのです。


(誰がねじくれた性格よ、あんたのような素直馬鹿よりマシよ)


 しばらく悪口を心の中で言い合いましたが、ちょっとした遊びです。

 猫の姉妹がじゃれあっているようなものです。

 しばらく言い合いをした後で領民を集めて命令を下しました。


「いいですか、よく聞きなさい。

 私も慈善事業であなた達を助けた訳ではありません。

 領地を発展させるために助けたのです。

 領地を発展させるためには自衛力も必要です。

 これから毎日戦闘訓練もしてもらいます」

 

 イーシスが私の言葉遣いを真似て領民を鍛えます。

 私には軍事的な知識はほとんどありません。

 いえ、必死で学んだ帝王学はあります。

 でも全部役に立たない机上の空論だとイーシスに言われてしまいました。


 今まで寝る間も惜しんでやってきた私の努力はいったいなんだったのでしょうか。

 そう言われた晩はワンワンと大泣きしてしまいました。

 意地悪なイーシスが慰めくれるほどでした。

 だから今は全部イーシスに頼っています。

 私の子供を助けたいという想いを実現させるために軍事力を持つのです。

 

 確かに普通なら領地を守るための力は必要です。

 でも「流転のイーシス」にはとんでもない魔力と強力な魔術があるはずです。

 子供一人救うことくらい片手間でできると思うのです。

 元貧民の自警団が必要だとは思えないです。


(何馬鹿なこと言っているのよ、この箱入り娘。

 本当に役に立たない勉強ばかりやってきたのね。

 それとも応用できない才能の無さのせいなの。

 魔術を使い過ぎると私の事がバレてしまうでしょ。

 できるだけ表の力でやるのよ。

 魔術は表の力を目立たせてコソッと使うのよ)


 イーシスが言いたい放題私の事を罵ります。

 確かに私には天与の才などありません。

 寝る間も惜しんで覚えた帝王学すら現実に合わせて使えません。

 才能がないので応用する事ができないのです。

 でもここまで言う事はないと思うのです。

 

 だって私は魔術が使えないのです。

 イーシスが使える魔術の事も知らないのです。

 知らないことを上手く使えるはずがないではありませんか。

 それをここまで悪し様に言われると、泣いてしまいます。


(あああああ、ごめん、御免、ごめんてば。

 なかないで、泣かないで、お願いだから泣かないで。

 泣かれると私が虐めたみたいじゃないのよ。

 謝るから、私が悪かったから、お願いだから泣かないでよぉ)


(うぇええええん、イーシスが、イーシスが虐めるからよぉお)

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