第6話:魅了

 私達を辺境に送って来た王国軍は、廃城について直ぐに王都に戻りました。

 はっきり言えば逃げ帰ったのです。

 今の王国軍に蛮族と戦う勇気などないのです。

 私達を護るモノはボロボロに崩れた城壁しかありません。

 私達の領民、元王都の貧民は怯え切っていました。


「私の力をよく見ていなさい。

 私に従う限り天寿を全うさせてあげます。

 私に逆らう者は容赦せずに殺します」


 もちろん私にこんな言葉を口にする度胸などありません。

 全部イーシスが言ってくれたのです。

 しかも言葉だけではなかったのです。


「濠よ、深く広く穿て」


 イーシスがそう言霊を発すると、濠のなかった城に濠ができます。

 地の底まで続くような、底の見えない深い深い濠です。

 幅も百メートル以上あるでしょう。

 とてもではありませんが、誰も濠を超えることができません。

 しかし同時に領民も城から出て行くことができません。

 逃げ出すことができないのです。


「壁よ硬く厚く高くそびえよ」


 イーシスが再び領民に分かるように大きな声で言霊を発生させます。

 ですが身体を共有している私には分かります。

 イーシスには呪文や言霊など不要なのです。

 ただ心に思い浮かべるだけで全て現実になるのです。

 それが可能なだけな魔力がイーシスにはあるのです。


 もうすでに領民はイーシスの事を恐れおののいています。

 これからは誰も反逆どころか口答えもしないでしょう。

 唯々諾々と私の言う通りにするでしょう。

 イーシスと言っても身体を共有しているので私の事でもありますから。


「城よ、光り輝く壮麗な姿になれ」


 これが止めだったのかもしれません。

 白く光り輝く大理石と、黒光りする大理石。

 いえ、それだけではありません。

 碧と蒼と紅に輝く大理石が城を美しく彩っているのです。

 芸術的な組み合わせて城を美しくしています。


 領民達が大きな口を開けて城に見とれています。

 濠も城壁も領民に力を見せつけるには最適だったと思います。

 ですが美しい城を創り出した事で、心を鷲掴みにしたようです。

 イーシスは領民を魅了したのです。

 彼らは私の為なら命も惜しまず仕えてくれるでしょう。


「今日は特別に城に泊まることを許します。

 数日後には城下の家々を修理します。

 それまで城内での生活を楽しむように。

 ただし、絶対に城内で糞尿をしてはいけません。

 各庭園に便所という糞尿をするところを創ります。

 糞尿は必ずそこでするように、分かりましたね」


「「「「「はい」」」」」


 やれ、やれ、糞尿だけは絶対に許せないようですね。

 これがなければもっと付き合い易いのですが。


(うるさいわね、これだけは絶対に譲れないわよ。

 それともうこれで王国軍が攻めてきてお大丈夫だから、噂を流すわよ)

 

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