第3話:予想外

 気がついた時、私は王太子と妹の密談を見ていた部屋にいました。

 普段は誰も来ない物置部屋です。

 しかも深夜の三時になっていました。

 春とはいえまだ朝晩は凍えるほど寒い日があります。

 身体が冷え切っていて身体が上手く動かせなくなっていました。


(魔法をかけて身体を回復させるから、よく覚えておきなさい)


 不意に心の中に言葉が響き渡りました。

 これでさっきの事が夢でない事が分かりました。

 でも私がおかしくなってしまった可能性があります。

 全て死にかけている私の妄想と言う可能性があるのです。


(ほんと、疑い深いわね。

 これも王太子妃教育の弊害だわね。

 じゃあしっかりと実感しなさい、ヒール)


 身体中に力が蘇ります。

 冷え切って動かすこともできなかった身体が、何時でも動かせそうです。

 それどころか力がみなぎっていて、動かしたくて仕方がない気分です。

 でもそれも私の妄想かもしれません。

 死にかけている私が見てる夢と言う可能性があるのです。


(きいいいいい、もういいわよ、そこまで疑うのなら、私がこの身体を使うわよ。

 貴女は黙って私のやる事を見ていなさい)


 イーシスはそう断言すると私の身体を勝手に使いだしました。

 とは言っても直ぐに復讐を始めた訳ではありません。

 こんな時間まで寝ていたと言うか、死にかけていたのです。

 生理的な問題から始めなければいけません。


(本当にこの世界は野蛮よね。

 花を摘みに行くなんて言葉で飾って、野糞野小便するんだから。

 さっさとトイレ文化を取入れなさいよね)


 イーシスが聞くに堪えない事を口にします。

 いえ、実際に口にしている訳ではなく、私の心に広がるのです。

 ですがトイレ文化とは何を言っているのでしょうか。

 排泄は庭でするモノと決まっています。

 貴族の女性はその為に広がったスカートを穿き、見られないようにするのです。


 庭が持てないような庶民は、家の裏にある庇の下でします。

 都市部の集合住宅に住む庶民は、オマルにして窓から捨てています。

 本当は裏に捨てて雨で流れるのを待つのがマナーなのですが、庶民にそのようなマナーを期待しても無理です。

 彼らは平気で窓から表通りに捨ててしまいます。


(きいいいいい、貴女そんな事思い浮かべていなかったじゃないの。

 そんなに汚いのを知っていたら、貴女の復讐に付き合うなんて言わなかったわよ。

 仕方なわね、復讐を始める前に都市を綺麗にするわよ。

 糞尿まみれの道を歩くなんてまっぴらよ)


 駄目です、そんな事は許せません。

 都市を綺麗にするなんてできるはずがありません。

 そんな事よりも復讐です、さっさと復讐してもらうのです。

 そしてこんな気味の悪い状態を終わらせるのです。

 

 

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