第2話 お正月〜side渉〜 

チリリリリリチリリリリリチリリ

バンッ

「なに……もう…」

一年、初めの朝からけたたましくなる目覚まし時計。

半端叩くようにして止めた目覚まし時計は、隣で気持ち良さそうに寝ている従兄弟、ゆきのもので、僕・渉はため息をつく。

一緒の部屋で一緒に寝るのに、別に文句はない。

幸とは仲がいいし、朝はこんなだけど、かなり賢いところがあって、話に飽きない。

うーん、例えるなら蓮斗みたいな感じかな。

まあ、そこまでハキハキとした性格ではないけど。

そしてなにより僕は従兄弟家族の家にひきとってもらっている身なんだから、文句なんてあるはずもない。

でも、朝の寝起きの悪さと、それをなんとかしようというあれやこれやの摸索に僕を巻き込むのはやめていただきたくもある。

……あれだけうるさい音がなっていて、よくぐっすり眠れるね、本当。

皮肉とかじゃなくて、純粋にそう思う。

窓の方を見ると、しまりきっていないカーテンの隙間から暖かい光が漏れ、床に写ってちらついていた。

もう、朝なんだ。

幸の幸せそうな寝顔を見ていると、自然に口角があがっていた。

物音はしない。きっとまだ、誰も起きていない。

あいにく、一度起きたらなかなか寝付けないたちの僕。

……起きるか。

さて、新しい年を始めよう。


着替えたり、ある程度の身支度を整えてから、階段を降りて、一階の居住スペースへのドアのノブを握る。

その反対側にある、このもう一つのドアはこの家の仕事である美容室に繋がっているんだ。

僕もたまに手伝いをするから入るけど、でもその時は気合を入れて、『これからお客様と関わるんだ』と思ってから開けるようにしている。

おじさんやおばさん、ここで働いている美容師さんがはいるとキラキラしだす世界だけど、電気もついていない今は、またそれとは反対の意味できれいに見えた。

「あれ……?」

この、美容室につながるドアは、真ん中あたりがガラスで作られていて、こちらからは外の様子が覗けるようになっている。

今、そこからなにか人影が見えているのだ。

どうしたんだろう……。

年末年始休業のお知らせの張り紙は3日前からしていたはずなのに。

なにか、待ち合わせ場所にでもつかっているのかな。

でも、なんとなくそう思えなくて、居住スペースの裏口から外に出て、表へ回ってみる。

そこには、明らかに美容室を覗き込み、インターホンを押そうか押すまいか、オロオロしながら迷っている女の人がいた。

「あのぅ……なにか御用でしょうか?」

一応営業スマイルは浮かべて、訪ねてみる。

「えと、あと、私、怪しく見えますよね!?」

「え?」

……いきなり何を言い出したんだろうか。

僕がポカンとしてると、その人は半泣きになりながら「ごめんなさい」と「すみません」を繰り返し唱え続けている。

……いや、なんなんだ、この人。

まず印象的なのは目までかかる前髪と、背中までありそうな漆黒の後ろ髪。

失礼を承知でいうけど、貞子のそれにしか見えない。

服はまともで、おとなし目のワンピースに茶色のコートを羽織っている。

そのギャップが限りなく違和感を醸し出していて、逆にそれを狙っているのかと聞きたくなる格好だった。

「ええっと、美容院に何か用ですか?」

そう聞くと、その貞子似の人(通称貞子さんと呼ぶ)はすごい勢いで頷いた。

残念ながら今は休業期間中ですと、伝えようとしてガラス戸に貼ってあったチラシを指差そうとしたけど、その指す先には、何もない……

あれ、おかしいな。

確かに貼ってあったのに……?

キョロキョロと見回すと、近くのプランターにそれらしきものが入っているのが見えた。

もしかして…風でとばされたのか…。

そんなことを考えると、いくつか腑に落ちることがある。

………なるほど。そういうことか。

「もしかして。

急な用ができて美容院へ行かなくては行けなくなってしまった。だけど元旦なので空いているところが一つもない。そこで、唯一何も掲載がなかったうちに来たっていうことですか?」

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