最終話(闇バージョン) アスール クラロ町 グレーネコの家政婦さん
この町、ヴィオラ町は町の開発で分断され、アスール クラロ町になった。
学校の名称が変わったりと新しい町になってからだいぶ混乱もあったが、今は落ち着いてきている。
そんな街に暮らすブラウンウサギの獣人一家は、グレーネコの家政婦さんを住み込みで働かせている。
表面上は家政婦さんは良い人なのだが、実は家政婦さんには誰にも知られたくない裏の部分がある。
「グレーネコ」の獣人は、全身明るいグレーの毛色で短毛種である。
そんなグレーネコの獣人の女性は、ブラウンウサギの家族とは上の子が産まれた時ベビーシッターを頼まれて以来、ずっと一緒に暮らしている。
衣食住がちゃんと確保出来てる環境で暮らせているが、彼女にだって色々な感情がある。
ロボットではないのだ。普通に暮らしていれば不満も溜まってくる。
ブラウンウサギの家族の人達からは信頼されて、家族の一員として扱われているが、家政婦さんはそれもなんだか納得してなかった。
元々、ブラウンウサギの女性、この一家のお母さんと仲が良かった。
家政婦さんとなる前、彼女、スーザンは料理が得意で、その腕前は子供達の嫌いな食べ物でも何とか工夫して調理し食べられるようになるくらいだ。
その腕前は評価されていたが、ブラウンウサギのお母さんもお菓子作りが得意で、おまけに料理も得意である。
本来はスーザンがその舞台に上がるはずだったが、その舞台は今、ブラウンウサギのお母さんが立っている。
お母さんはテレビに出始めると、本も出したり結構な有名人になった。
自分の番組内では、お菓子作りをメインにしているが、休日や時間に合わせて料理を作ったりして、毎日決まった時間に放送されている。
そのせいで収録など、テレビの仕事が忙しく、ほぼ家にいない。
たまに休日に休みをもらう時もあるが、その時は家族の為の時間となっている。
その為、スーザンがベビーシッターになってくれと頼まれた時、素直に「良いわよ」とは言いたくなかったが、友人の頼みで、子供が小さい時だけと思っていたが、二人目が出来、結局二人目も頼まれ、スーザンは「家政婦さん」となった。彼女だって男性に愛され幸せな結婚をし、子供を望んでいたがそれは叶いそうにない。
子供達は懐いてくれているが、父親がいれば「パパ、パパ」とそちらへ行き、母親がいれば「ママ、ママ」とそちらへ行く。
「スーザン」とは呼ばれるが、スーザンはママと呼ばれる事はない。
ブラウンウサギの獣人男性、この一家のお父さんは風力発電の小さな会社を立ち上げて社長をやっているが、従業員が少なくスーザンは事務員のような仕事も頼まれている。
それ以外にも仕事を頼まれる事もある。
スーザンは風力発電の会社の手伝いも、やりたいわけではない。
その事についても不満だった。
お父さんからは「感謝してる」とは言われても、給料が増える訳ではない。
あくまで給料は家政婦さんとしての仕事のみだ。
そしてその給料としても、スーザンからは自分の仕事を奪ったように見える彼女からだった。
スーザンはひっそりと、彼女の旦那を奪おうかと思ったが、一緒に暮らし、たまに仕事を手伝っているのに、お父さんはスーザンを「ただの家政婦さん」としか見ていない。
スーザンの目の前で、夫婦として話したりちゃんと家族として生きている。
スーザンだって愛する夫という存在に憧れたが、それが叶わず嫌な物ばかり見せられている気がした。
子供達だって、いくら嫌いな食べ物をだしたりしても、精神的に効いてないみたいだ。
嫌がらせとして出しているが、自分の闇を知られたくない為、工夫しているせいで苦い顔しながらも食べてくれる。
優しい家政婦さんを演じるのも疲れてきたと感じているが、この生活を終わらせてしまうと住まいも仕事も失ってしまう。
こんな仕事だって失ったら結構なダメージを食らうだろう。
スーザンは天涯孤独な人生を歩んでいる。
ここで暮らさなければ居場所が無くなってしまうのだ。
それが怖くてスーザンは仮面をかぶり続けている。
不満を抱えながら、家族の一員として家族のイベントに参加し、不満と闇を抱え続けている。
もうすでに精神のどこかが狂っている気がする。
気がするのではなく、実際狂っているのだろう。
華やかな世界で活躍し、趣味が仕事になり、順風満帆な人生を歩む元友人とその家族。
自分は夢も希望も失い、男からも女として必要とされず小間使い。
子供達から「お母さん」と呼ばれる事もない。
自分の子供を産むことも出来ない。
スーザンは楽になりたくて、噂を頼りに病院を訪ねた。
病院はヴィオラ町に存在していたが、見た目は普通の病院だ。
中へ入ると誰も居なかった。
怖いくらいに静かだ。
時間は夕方から夜にかけてが良い。夜間診療だからと言われ、ブラウン一家には心配されないよう、スーパーに足りない物を買うと言って出てきた。
今日の夕飯はもう作って来たし、家事も全てこなしてきた。
怪しまれないよう出てきたが、ここに一人でいると不安が頭に沢山湧いてきた。
そんな時、冷たそうな声が聞こえてきた。
スーザンはその女性を見た時、病院の中が暗かったせいで幽霊のように白い顔の女性でビックリしてしまった。
「初診の方ですか?」
「はい」
「では、問診票を用意しますから、受付の方に来てもらえますか」
「はい」
言われた通りにして受付の前に立つと、女性は眼鏡をかけて問診票を出してくれた。
「そちらでゆっくり座ってお書きになって下さい」
指示された方を見てスーザンは返事をした。
しばらくして問診票をかき終わると受付に持っていき、「お願いします」と言い、出すとやはり幽霊のように白い顔した女性は、「はい、お待ちください」と返事した。
誰もこの病院に訪れない。
スーザンはさらに恐怖に襲われた。
誰からも連絡が無く、家の事が気になってきた。
“精神病院と聞いてるけど本当に大丈夫なのかしら”
その時、奥から男性か現れた。
その人の顔もやはり幽霊のようだ、それもだいぶ鬼の表情のような幽霊に見える。
「新しい患者さんですね、奥へどうぞ」
言われてスーザンは「はい」と返事して立ち上がった。
男の方へ行くと受付の女性が付いてきた。
「心配なさらないで、もう楽になれますから」
そう後ろから声をかけられる。
しゃべり口調は、もはや生きている人ではないように感じた。
少し歩いた気がする。
暗い中、階段も下がった気がする。
明かりが少なく足元があまり見えなくて恐怖だった。
男が扉を開ける音が聞こえ、扉の向こう側へ入った気配がした。
男に「こちらが診察室です、中へどうぞ」と言われ、スーザンは中へ入った。
受付の女性も中へ入り、扉が閉まった。
それからスーザンは「今日、この病院へ来たことは、誰にも話さないで下さい。」と言われた。
スーザンはもちろんそのつもりだった。
「はい」と答えると、「では、こちらにお座りになってください」と言われ丸椅子に座らされた。
男がスーザンに「では、症状を話して下さい」というので、スーザンはただ何も考えずに「もう楽になりたいんです」と答えた。
病院ではスーザンの問診が終わると「また、新たな住人が増えてしまいましたね」と女性が話すと、男が「この国は闇を抱えたまま、生きている者が多いからな」と答えた。
二人はこの病院の医師と看護師だが、本来はまた違う職業である。
夜間と昼間は別の顔を持つ二人だった。
「さて、あなた、これからどうします」
「家に帰るよ、今日来た患者の事は、それとなく処理しといてくれ」
「わかりました」
最終話(闇バージョン) 終わり
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