最終話 アスール クラロ町 ブラウンウサギファミリーとグレーネコの家政婦さん

ヴィオラ町には元々大きな川が流れていた。

人口増加に伴い、その辺一帯はヴィオラ町とは分けられる計画がたち、エウペ町のように新しい町が出来たが、今はようやく落ち着きつつある。

やはりどこも、混乱は多少あっても、慣れてくればごく普通の生活に戻って行くものである。

たまに昔の名残が出る場合もあるが、それはそれでしょうがない事だ。

皆あれこれ言いながらも、新しい町に馴染み始め、穏やかな日が続いている。

その場所に昔から住んでいる「ブラウンウサギ」の獣人家族は、種族名の通り茶色い毛のウサギで短毛種である。

そんな家族は大きな風車小屋のある家に住んでいる。

お父さんの仕事はその風車で風力発電の仕事をしている。

社長と名乗っているが、数少ない社員を抱える小さい会社の社長というだけで、お父さんも作業員の一人である。

お母さんはお菓子作りのプロでテレビに出ている。

番組内でお菓子を作っていて、それは結構人気の番組である。

子供は二人、男の子と女の子がいる。

二人共小学生で、男の子は星を見るのが好きで、家の一番上にあるドーム型の屋根から望遠鏡から星を見ている事が好きだ。

女の子は手芸やパッチワークが好きで、部屋をカントリー調にしている。

入学祝で買ってもらい、ベッドや布団が新しくなった。

そこでパッチワークの布団カバーになり、そこからパッチワークやカントリー調の物が気に入るようになった。

机も買ってもらい、小学生になるというのは彼女にとって大きな一歩となった。

男の子が小学六年生、女の子が小学三年生である。

男の子は最後の年で学校の名前が変わってしまった事に、少々残念に思っていたが名称が変わっても、町名が変わっても、住んでいる町も学校も好きで気に入っている。

女の子の方もそれは兄である彼と同じ気持ちだ。

そんな四人家族のサポートをしてくれているのは、家政婦さんの「グレーネコ」の女性だ。


グレーネコの女性も種族名通りグレーの毛色の短毛種のネコの獣人である。

住み込みで働いてくれている彼女は、元々お母さんの知り合いである。

忙しい両親に変わり、ベビーシッターをやってくれたのがキッカケで、そのまま家政婦さんになった。

今では大事な家族の一員である。

そんな感じでブラウンファミリーとグレーネコの家政婦さんは、順風満帆といった暮らしぶりだ。




いつものように子供達は好きな時間を過ごしていた。

ブラウンウサギの男の子、マシューは家のドーム型の所で空模様を見ていた。

ドーム型の所は屋上のようになっている場所に出れる。

ドーム型の所を一周するように屋上があり作が付けられている。

今日は珍しく晴れ渡っている空で、心地よい風が吹いている。

こういう空は見ていて楽しかった。

お父さんも普段から仕事の都合で空を見ている。

マシューはそれがキッカケで空を見るのが好きになった。

いつかは父の仕事を手伝えたら…と思っている。

妹のヘレナは、一階でお母さんの番組を見ていた。

家政婦さんは今、お父さんに頼まれてお父さんの仕事場に行っている。

ヘレナは頭を右へ左へと傾けながらメモしていた。

お母さんは元々お菓子作りが好きで、それがいつの間にか仕事になった。

そんなお母さんを見て、ヘレナはお母さんを憧れの対象にしている。

今もお母さんの番組を見てお菓子作りを勉強している。

まだお菓子作りはしたことないが、今度ピクニックをしに公園へ行く予定がある。

その時、お兄ちゃんのマシューにお菓子を作り渡したいと思っているのだ。

その時に家政婦さんに手伝ってもらう事になっているが、なるべく見守り役をやってもらうつもりだ。

小学三年生でも作れるようなお菓子だが、火の使い方やオーブンの使い方など、指示してもらわなくてはならない。

その為の大人だ。

家政婦さんは料理が趣味で、いつも美味しい料理を作ってくれる。

その家政婦さんならお菓子作りの監督役もキチンとこなしてくれるだろう。

今度のピクニックはお父さんとお母さんと子供達と家政婦さんの五人で行く事になっている。

それがヘレナにとってとっても楽しみなのだ。




夕方になるとお父さんの仕事を手伝っていた家政婦さんが家に帰ってきた。

子供達はテレビを見ていた。

「ただいま、二人共ちょっと待っていてね、今からご飯作るから」

二人はテレビから目を離し「おかえりなさい」と家政婦さんへ声をかけた。

家政婦さんはキッチンへ入り冷蔵庫の扉を開けた。

「うーん、今日は何にしようかしら?」

冷蔵庫の中を物色しているとピーマンが目についた。

「ピーマンね、ピーマン良いわね」

ピーマンを手に取り、他の食材を見ようとした所、リビングの方でテレビを見ていたマシューの声が聞こえた。

「ピーマンは、ダメだと思う」

「あら、なんで?」

「僕はたぶん、アレルギーが、ほら、ヘレナだって、ほら、あの、あれだから」

「分かったわ、ピーマンは小さく刻んで料理に使いましょう」

マシューは手で顔を覆い落ち込んでしまった様子だ。

「お兄ちゃん、わたしがないしょでたべてあげる」

「ありがとう」

二人は小声で喋ったのだが「ヘレナ、私の耳と目はごまかせないわよ」とキッチンから家政婦さんの声が聞こえてきた。

「ごめんね、お兄ちゃん」

「ヘレナ、気持ちだけありがたく受け取っておくよ」




夕飯はマシューの大嫌いなピーマン料理が出てきたが、同時にマシューの大好物も出てきた。

「僕の好きな物もある、ありがとう、スーザンさん」

「良いのよ、食事は栄養も大事だけど、一番大事なのは、楽しく食事する事よ。それにね、実は私もピーマンが大嫌いだったの!あなた達のお父さんとお母さんには、内緒にしといてね?あっ、今は食べれるようになったわよ。自分に合った調理法を見つけたの。それからは美味しく食べれるようになったわ」

家政婦さんはにこやかに笑った。

それを見てマシューも、ピーマン料理を少しだけ食べてみようという気持ちが湧いてきた。

「スーザンさんの言う通り、今日の料理はピーマンでも美味しく感じたよ」

ちょっと悲しそうな顔をして、マシューは家政婦さんを見つめた。

家政婦さんはそれをみて、頑張って食べてくれた事に「頑張ってくれたわね、食べてくれてありがとう」と言った。

「さて、ヘレナ、あなたのお皿の中に、まだ食べられてない食材があるわよ?それはどうする?」

「これは後で…」

「後で食べるのね」

「うん、さいごに食べようと思って」

「あなたの分には、あなたの嫌いな物は少なくしたんだけど、それでもダメだったのかしら?それとも、本当に最後に食べるの?」

「今、食べようかな、お兄ちゃんもがんばって食べたんだし」

「そうね、マシューもあなたもちゃんと食べれて偉いわね、その調子で他のもちゃんと食べてね」

「はい」

ヘレナは苦虫を噛むような顔でゆっくりと噛んでいた。

顔は吐き出したい気持ちで一杯だというメッセージを発しているようだった。

二人の嫌いな物が出た以外は楽しい食卓となった。

夕飯が終わり兄妹がリビングでテレビを見ていると父親が帰ってきた。

家政婦さんは食器を洗っている最中だった。

「おかえりなさいませ」

「あぁ」

「お夕飯はどうします?」

「晩酌にするよ。スーザン、今日はありがとうな、手伝ってくれたおかげで助かったよ」

「いえ、お気になさらず」

「子供達は夕飯食べたのか?」

「はい、たった今終わって、子供達はリビングでテレビを見ています」

キッチンからリビングの方を見るとテレビでは子供向け番組がやっていた。

子供達は真剣に見ているようだ。

お父さんはリビングにあるソファーに近付き二人に声をかけた。

「邪魔してすまないね、お父さん帰って来たぞ」

「お父さん!」とマシュー。

「おかえりなさい」とヘレナ。

微笑ましい会話を聞いてから、家政婦さんは家事をしに再びキッチンのシンクに向き直った。




洗い物を済ませてから、お父さんの為の晩酌の用意をしている間、お父さんはお風呂などを済ませていた。

子供達は見たいテレビが終わると部屋へ行くといい、二人で子供部屋を目指して行った。

お母さんはテレビの仕事で結構遅くなってしまう。

それまでに子供達は宿題を済ませたりお風呂の時間。

お父さんはゆっくりと晩酌。

家政婦さんは家事をしたりお風呂に入ったりして過ごす。

これがこの家の日常だ。




翌日

ヘレナは学校から帰ると、自分の部屋でカレンダーを見たり部屋の時計を見たりを繰り返していた。

ピクニックに行くのにまだ日にちがある。

一ヵ月も何週間も先のように感じて、とても長く待たされている気分だった。

そのせいでカレンダーを何回も見てしまったり、時間の進み具合を確認している。

タンスの中に入っている服を沢山出してコーディネートしてみたり、当日持っていくリュックの中に何度も必要な物を出し入れしたり、忘れ物チェックしたりと同じ行動を繰り返していた。

ベッドに横になればごろごろと体を左右に揺らして、うーん、うーんとピクニックでする予定の遊びの事を考えたり、かと思えば窓の方を見て天気予報の事を考えたり。

全く進む気配がない時計をベッドから見つめ、ヘレナはため息をついた。




家政婦さんは今夜の夕飯のメニューを考えていた。

まとめて食材を買い、冷蔵庫内にある物で食事を作り、足らなければ買い足すという方法を取っている。

一週間のうち、真ん中の日がスーパーの日と決めていて、今日はスーパーの日じゃない為、限られた食材でご飯を作らなきゃならなかった。

昨日、子供達の嫌いな食材を使った料理と大好物の料理を出してしまった為、スーパーの日まで残り数日、あまった食材で作るとなると多少作りたいと思っている料理だと足らない物がある。

子供達が好き嫌いなく何でも食べれるなら苦労はしないが、子供達がご飯の時間を嫌いにならないようにしようとしていたら、嫌いな物と大好物がセットになって出るというのが当たり前のようになってしまった。

やりくりしながら上手に生活しなければと思ってはいるが、そう上手く行くなら苦労しないで生きられるだろう。

家政婦さんは、しかたない、今日は簡単な物で済ませようと、考えを切り替え、残りの数日の事も考えて、冷蔵庫内の物で済ませたメニューにした。

ヘレナが下の階へ降りて家政婦さんの元へ行き、お菓子作りの事を再確認すると「ヘレナ、楽しみなのはわかるけど、何度も大丈夫と言っているはずよ」と返ってきた。

「でも、だって」とヘレナが言うと「大丈夫よ、その日はママも私もいるんだから」と家政婦さんは返事をした。

そこでようやく納得したかと思えば「あー、しゅくだいがあるんだった」とテンションが下がったような声で、うつむきながら部屋へと戻って行った。




夕飯時になるといつも通り家政婦さんと子供達の三人の食卓となった。

食事が終わるとお父さんが帰ってきて、いつも通り晩酌をしていた。

その時、玄関の鍵が開き扉が開く音がして、パタパタとスリッパで歩く音が廊下に響いた。

「はぁー、ただいまー」と言い入ってきたのはお母さんだ。

今日は珍しくテレビの仕事が早く終わったからと、この時間に帰ってきたらしい。

子供達は大喜びで母の元へ駆け寄り、特にヘレナは誰よりも早く母に抱き着いた。

「ママ、おかえりなさい」

「ただいま、ヘレナ」

「おかえりなさい」

「マシュー、ただいま」

「今日は珍しく早くご帰還だな、お菓子の国の女王様」

「あら、早く帰ってきてはいけない理由でもあるの?」

「まさか!帰って来てくれて嬉しいよ。ちょっとしたその、照れ隠しだ」

皆、お母さんの登場に喜びを隠せないらしい。

家政婦さんもニコニコと微笑ましいシーンを見ている。

そんな家政婦さんもお母さんの所へ行って声をかけた。

「おかえりなさい」

「ただいま、いつもありがとうね」

「良いのよ、気にしないで」

「あなたがいてくれるから、仕事に専念できるわ。とても助かってるのよ」

「あなたは仕事が大好きだもんね」

「おかげさまで、順調に進んでるわ」

「それは良かった、あっ、なんか用意する?」

「うん、頼もうかな」

家政婦さんはキッチンへ向かい、お母さんはずっとくっついたままのヘレナと一緒にリビングへ向かった。

お母さんの後ろをマシューが付いていき、お父さんは晩酌の途中だった為、ダイニングの席に戻り、ちょっぴりいつもと違う時間を家族で共有した。




待ちに待った休日の日、ヘレナはいつもより早く起きた。

家政婦さんが起きるより早く、一人でリビングでボーっとしていた。

家政婦さんが起きてくると心配した声で話しかけてきたが、いつもより寝つきが悪く、早く目覚めてしまった為、今になって眠たくなってきてしまったらしい。

家政婦さんは直ぐにソファーにヘレナを寝かせ、自分は準備に取り掛かった。

準備している最中、いつも通りに目覚めてきたお父さんが「休日であるのに家政婦さんには休みが無いな、遠慮せず休みたい時は言ってくれ、もう子供達も成長しつつある、お留守番も出来るようになっただろう?」と言ったが、家政婦さんは「大丈夫ですよ、特にお休みが欲しいとは思ってません。結構、自分の時間も取れてますから、でも、気にかけてくれて、ありがとうございます」と返事をした。

しばらくするとお母さんも一階のリビングへ顔を出した。

「あら、みんな早いわね、おはよう」

「おはよう」とお父さんと家政婦さんが返事をした。

その声に反応して目を開けたヘレナは飛び起きた。

「あれ、ねすごしちゃった」

「あら、ヘレナ?」とお母さんが言うと、家政婦さんが事情を説明してくれた。

お父さんとお母さんはヘレナの元へ行き笑いながら慰めてくれた。

寝過ごしていないと気付き、安心したのかヘレナは笑顔を取り戻した。

その後、手や顔を洗い家政婦さんがいるキッチンへ向かい、お菓子作りをする事となった。

お母さんは簡単な朝ご飯とピクニック用のお弁当を作り、家政婦さんはヘレナを見守っていた。

なにか手伝う事は手伝い、自分で出来る部分は自分でやらせた。

それが終わると洗濯など、朝のうちに片付けておきたい家事をする事にしてある。

のんびりとマシューが起きてきて、家族に挨拶をするとリビングの窓から外に出て、庭で天気の確認をした。

今日は珍しく晴天である。

いかにもピクニック日和の天気で、曇りや雨の心配はなさそうだ。

家の中へ戻るとマシューはテレビをつけて天気予報を確認した。

しばらくしてお菓子が出来上がり、朝ご飯やお弁当も出来上がった。

皆で食卓を囲み、のどかな休日を迎えた。

朝ご飯が終わると、それぞれ自分達の準備に取り掛かった。

家政婦さんは家事を済ませ、お母さんは朝ご飯の片付けを済ませてから身支度をした。ヘレナは念入りに準備したものを確認し、洋服もキチンと手入れされている事を確認し、着替えてリュックを背負った。

今日はアウトドアファッションだが女の子らしさも失わない服を選んである。

色やデザインで女の子らしさを、けど遊びまわる為、派手な装飾はなくシンプルでかつ動きやすい服装だ。

リュックも帽子とセットになるようにして、量も入るがオシャレも手を抜かない物を選んだ。

ヘレナは上から下まで完ぺきにコーディネートして部屋を出た。

リビングに戻ると、お母さんと家政婦さんがバスケットに食べ物やピクニック用のお皿などを詰めていた。

マシューはお父さんの手伝いをしているらしい。

一旦リュックをソファーに置き、ヘレナもお母さんたちの手伝いに参加した。

お父さんが「車に荷物を詰めてくれ。俺は今から着替えてくる」と言うと、みんなで車と家を往復した。

マシューはもう着替えているらしく、車の中で荷物が積まれるのを見つめ、積まれた荷物はマシューが整理整頓してくれた。

ヘレナが自分の荷物を背負って車まで運ぶと、「ヘレナ、忘れ物は大丈夫か?後で泣くなよ」と声をかけてくれた。

「大丈夫よ、ちゃんとチェックしたもん」と返事をすると、マシューが「じゃあ、俺のもチェックして持ってきてくれ。リビングに置いてあるから」と言ってきた。

言われた通りに中を念入りにチェックし、マシューのバックを車に持っていった。

「ありがとう」

「ちゃんとチェックしてきたよ」

「うん、助かる。で、俺のリュックに何が入ってた?」

そう聞かれて中に入ってた物を一つずつ思い出し、口に出して伝えた。

「うん、ちゃんと入ってるな」

「私のも見よう」

そう言ってヘレナはリュックの中を確認したが、忘れ物は無かった。

お母さんたちは各部屋の戸締りなどを確認して車に乗り込んできた。

最後にお父さんが車に乗り込むと、全員いるか忘れ物は無いかとチェックしてから車を発進させた。




車で一時間くらいの公園に到着すると、皆手分けして荷物を運んだ。

まずは肝心の場所取りから始める事となった。

結構周りにはすでに場所取りされていたり、同じく場所を探す家族連れがいる。

お父さんは多少焦ったが、慌てずに探せば何とかなるだろうと思い、家族にも「慌てずに良い所を探そう」と言ってキョロキョロとし始めた。

マシューが「お父さん、あっちの方空いてるよ」と言うと、確かに空いているスペースがあった。

「おぉ、じゃああっちに行くか」と言うお父さんの一言で家族は動き、マシューもお父さんのサポートに入った。

ここは人気の公園で、休日になると結構混む為、場所取りをしてレジャーシートなどを広げ、子供達が駆けずり回る光景をよく目にする場所である。

年に何回かこうやって家族が全員休みの時に、ピクニックを楽しむのが家族の決まり事である。

今回は今日がそのピクニックの日で、その為に朝から皆で準備してきたのだ。

ヘレナは人一倍楽しみにしていた為、公園に着いただけではなく、ちゃんとピクニック出来る場所が見つからなければ準備した意味がない。一人ものすごい緊張感のある顔で、父と兄を見つめていた。

さっき立っていた場所から少し歩くと、まだ人があまり居ないエリアまで着いた。

ポツポツと人がいるが、先程の場所より人がいない。

だからって場所的に悪い場所ではない。

さっきの場所は入り口に近く、荷物を持ってあまり移動しなくて済むという理由だけで人気があるエリアだ。

「よし、ここにするか」とお父さんが言った場所は、確かに良い場所だった。

ヘレナはその事を聞いて安心した。

お父さんをリーダーに芝生の上にレジャーシートをひいたりして、荷物を下ろしていく。

簡単なテーブルも広げ、お父さんは疲れたのかテーブルの横に座ると「ビール飲みてーなぁ」と呟いた。

「お父さん、ビールはまだ早いですよ」

お母さんは冷たい飲み物を、お父さんの方へ差し出した。

「はぁ、しょうがないか」と言い、お父さんは飲み物を受け取った。

子供達は各々自分の荷物から、二人で遊べるオモチャを取り出し、広場の方に走って行った。

この公園はアスレチック、サイクリングなども出来る公園で、すごく大きな公園である。

二人はまず広場で遊んでから、アスレチック広場へ行ったり、サイクリングをしようと話し合った。




広場で遊ぶ子供達を見守りながら、大人たちは飲み物とつまみを片手に、のんびりと会話しながら過ごしていた。

しばらく遊ぶと、お腹が空いたのか二人は戻ってきた。

「そうだ、ヘレナがお菓子作ってくれたんだよな、それ食べようかな」

「いいよ」

「二人共、そろそろお昼の時間よ。おやつの前にお昼ご飯食べましょうね」

母の言葉に二人は「もうご飯の時間?」と言い返したが、お腹空いて戻って来た事を思えば、もうそんな時間だと納得できた。

お昼ご飯はバスケットの中から取り出された。

お弁当の蓋が開けられると、華やかな彩りが子供達の目を捉えた。

「わぁ!」

「美味しそう!」

「おぉ、すごい豪華だな」

子供二人とお父さんが声を上げた。

お母さんと家政婦さんはニコニコとその光景を見つめている。

「いたたきます」という声と共に、皆がお弁当をつつき始めた。

手作りのお弁当は母が作ったというのもあるかも知れないが、特別美味しく感じた。

皆、嬉しそうな顔で食べている。

皆でお弁当をつついているとあっという間に空になった。

お弁当が空になると今度は待ちに待ったおやつの時間である。

ヘレナはドキドキしながら、自分で兄の為に作ったお菓子を取り出した。

「お兄ちゃん、これだよ!お兄ちゃんのために作ったから食べてね」

「ありがとう、ヘレナ、これ、ちゃんと食べれるよな?」

「大丈夫に決まってるでしょ!もうー」

マシューは「ごめん、ごめん」と言いながら受け取った。

一口食べると、ちゃんと食べれるし味も美味しかった。

「んっ!ヘレナ…これ…。」

「えっ大丈夫でしょ?食べれない?まずかった?」

「ふふっ美味しいよ、ありがとう」

「もー!」

笑ってもう一口食べる。

お菓子を美味しそうに食べるマシューの顔を見て、ヘレナはようやく安心できた。

その光景を大人が微笑ましく思いながら見つめている。

ご飯とお菓子を食べ終わった後は、アスレチックとサイクリングをしに行く事になった。

ここからは少し離れた場所にある為、家政婦さんが二人と行動を共にすることになった。

「ヘレナ、まずはアスレチックで遊ぼう!その後サイクリングで競争だ!」

「わかった、私もちゃんと、じてんしゃにのれるようになったんだからね!まけないから!」

「二人共、私の目の届かない所に行かない事、ケガをしない、他の子にケガをさせない事、良い?ちゃんと守ってね?」

二人は「はーい」と返事をした。

一方、二人きりになった夫婦は、テーブルの上を片付けたり、シートの上のごみを片付けた。

「なんだか、結婚する前の事を思い出すな」

「ふふっ、この場所、初めて二人でデートした場所に似てるわね」

「あの時、君は買ったばかりのワンピースで、こんなヒールの高いパンプスを履いてたな」

「あなたはシャツとジーンズでとてもラフだったわね」

「君のパンプスのヒールの高さで、俺の背が追い越されるかと思ったよ」

「私は、あなたのラフ加減が、女性を見る為の物差しかと思ったわ」

「俺だって、あの時は最上級のオシャレをしたんだぞ?」

「だったらせめて、もう少し下をジーンズじゃなくするとか、サンダルで来ないとか?あったんじゃない?」

「靴はその、ぼろぼろなのしか無くって、みっともないのを履いてくるより、良かっただろ?」

「正直に、暑くてサンダルで良いと思ったんでしょ」

「バレてたか」

「もう、その日、初デートの日にね、気付いたわ」

「早いなぁ」

「だってその日、私も暑くてサンダルが良かったって思ったし、高いヒールのパンプスなんて履いて、無理をして、家に帰って足に靴擦れが出来てるのを見て、ものすごく後悔したもの」

「足を気にしている君は、とても可哀想だと思ってたよ。休むかって聞いても、大丈夫しか言わなくて、困ったなって思ってたんだ」

「なんだか、気分悪くさせちゃうかと思って、辛いって言えなかったの」

「お互い、まだ若かったな」

「そうね」

昔デートしてた頃を、いくつも思い出しては二人で語り合っていた。

こうして夫婦として暮らしている今、昔懐かしい恋人同士だった頃の苦い思い出や辛い思い出も、全て懐かしい思い出として二人の心に刻まれている。

夫婦になってからの思い出も沢山増えた。

二人で暮らし始めたり子供が産まれたり…。

家政婦さんとの事も、大切な家族の一員になるまで色々あったが、今は全て乗り越えて五人で暮らしている。




空が赤くなり始める前に三人は帰ってきた。

ヘレナがお母さんに抱き着いて「お兄ちゃんとサイクリングでしょうぶして、私がかったの!」と言った。

「えへへー!」と笑い「ママにも見てほしかった」と言った。

お母さんは「あら、すごいわね!お母さんも見たかったわ!じゃあ、また今度、ここへ来た時は、今度もまたお兄ちゃんに勝つ所を、お母さんに見せて!」

「また、ママと来れるの?うん!またぜったい私がかつよ!」

「えぇ、また来ましょうね、さっ、帰る準備するわよ」

「はーい」

お母さんはなんとなくだが、見なくてもその光景が頭に浮かんだ。

きっとマシューが妹が勝つようにしたんだろう。

それもわざとマシューが負けるようになにか、ふざけながら自転車を走らせたんだろう。

最近自転車に乗れるようになったヘレナの為にした事だろうと、お母さんは思った。

お父さんも何かを感じたようで、マシューに小声で「妹の相手、ご苦労さん」と言った。

マシューもマシューで「妹の扱いは心得ているからね。ヘレナの子守は任せて!ほかの子は遠慮するけど」と言った。

周りの家族はチラホラと帰宅準備をしている。

それを見て家政婦さんが「そろそろ帰る準備しなきゃ、さっ、ヘレナ、マシュー、手伝って!」と言った。

お父さんが「道路が混みそうだなー」というと、お母さんは「ゆっくり帰宅しましょう。焦る事無いわ」と言った。

「それもそうだな」とお父さんが返事をし「もっと遊んでから帰る?」とヘレナ、「ヘレナだけ公園でお泊りするか?」とマシュー。

じゃれ合ってる二人をお母さんがなだめ、家政婦さんは片付けに専念していた。

空が赤く染めあがっているのを見て、ヘレナは綺麗だという感情と共に寂しいという感情も芽生えさせていた。

車に荷物が積まれ、自分達が乗り込み窓の外を見つめていると、駄々をこねる小さな子が目に映った。

どうやら帰りたくないらしい。

お母さんに手を引かれ斜めっている。

手をバタバタさせてなにか訴えていた。

「あの子、ヘレナみたいだな。昔はヘレナもあんな感じだったの、覚えてるか?」

突然、隣に座ったマシューから声をかけられ、驚いたがそれよりもその言葉についてヘレナは口を尖らせ、「お兄ちゃんの方が、あんなかんじだったんでしょ?」と言った。

「ヘレナの方だって!お母さんの腕、引きちぎれたらどうしようかって思いながら見てたもん」

「なーんーでー!」

「こらこら、車動くから、大人しく座ってなさい、シートベルト付けたか?忘れ物無いか?」

お父さんの一言で二人は落ち着いたが、マシューが「忘れ物チェック担当のヘレナさん、忘れ物大丈夫ですか?」と聞くと、「さっきママと忘れ物ないか、かくにんしたから大丈夫」と、まだ口を尖らせながらヘレナが答えると、マシューが「お父さん、忘れ物無いよ。大丈夫だって!」と言った。

「そうか、じゃあ家に向かって出発するぞー」と言い、車を動かした。

道中「お腹が空いた」と誰かが言い、夕飯は店で食べる事になった。

夕飯を食べてお腹いっぱいになった五人は、再び車に乗り込んで家を目指した。

知らないうちに後部座席は静かになっていた。

家に着き、お父さんはマシューを、お母さんはヘレナを抱えて二人の部屋へ運んだ。

その間、家政婦さんが荷物を車から降ろすのと、家の中へ運ぶ作業を一人でこなし、戻って来た夫婦にバトンタッチした後は、今度、家の中に入れた荷物を子供の荷物は子供部屋へ運び、バスケットなどはキッチンやリビングへ運んだ。

手分けして荷物を開封し、片付ける作業に移った。

家政婦さんはお弁当をシンクに置くと、洗濯物を片付けに行った。

大人三人で片付けた後、疲れた体を癒す為、先にお父さんがお風呂に入り、続いてお母さんが入った。最後に家政婦さんが入り、出た所で二人がダイニングに集まっていた。

「さて、飲むか」と、お父さんはお酒を飲む気満々といった感じで腹を叩きながら言った。

お母さんは「付き合うわよ、おつまみはどうする?」と言った。

二人の会話を聞いて「私が用意するわ」と、家政婦さんがキッチンへ向かった。

三人は晩酌をして時間を過ごしていた。

階段を降りる音が聞こえてきたと思ったら子供達だった。

目が覚めたらしく下へ降りてきたらしい。

ヘレナからお風呂の時間となった。

マシューはソファーに座り、テレビをつけた。

ヘレナがお風呂から上がると今度はマシューが入った。

ヘレナはお風呂から上がると部屋へ直ぐに戻ってしまった。

マシューもそれは同じだった。

テレビは消してからお風呂場へ向かった為、大人たちはまだ眠いんだろうと察した。

大人たちも晩酌が終わると家政婦さんを一人残し、夫婦は二人の寝室へ向かった。

家政婦さんは晩酌の片付けと家の戸締りなどを確認して部屋へ戻った。

家政婦さんは部屋に入ると真っ先にベッドへ腰掛け、枕をどかして背もたれへ背中をくっつけ、寝る前の読書の時間を設けた。

愛読書は【魔法使いのおばあさんシリーズ】だ。

新作はもう出ないと思ったが、いつかまた出るのでは?という風の噂を聞いてまた読み返している所だ。

それを読んだら今度は日記を書いてから眠る事にしている。

それが最近の日課だ。

それぞれが思い思いに過ごした休日となった。

今現在、窓の外は深い闇に包まれているが、これが明けて朝になればまた新たな一日が始まる。

ブラウン一家の一日は、また慌ただしく始まるだろう。

今この時間は、家政婦さんにとっての自分の時間なのだ。

その時間を家政婦さんは大切に思いながら過ごしている。




              最終話 終わり。


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