第11話 エウペ町とルージュ市 五人の女の子とウシの老夫婦
市街地 ルージュ市の隣に新たに町が出来上がった。
元々はルージュ市の一部だったが、人口増加などの理由から街を分ける計画が立ち上がり、今回ようやく新たな街が出来た。元々、航空関連施設があったり小さいながらも空港があったり、そこで働く人たちが集まっていたのもあり「空の街」「航空街」と呼ばれていた。
そのまま呼び続ける事も可能だが、この場所は町名が付いた。
町長のも新たに決められ、新しい街に生まれ変わったのだ。
この場所にある学校やその他施設も、新たな街に生まれ変わった影響で名称など色々と変わった部分もあれば変わらない部分もある。
町の人々は徐々に慣れていこう、早く覚えようという人と、昔の方が良かったなど変わった事に不満を持つ人まで、実に様々な意見を持つ人々が現れた。
それでも町は少しずつ生まれ変わり、現在では街並みが馴染むようになってきた。
隣の海の街「アズーロ町」の道路標識にも、しっかり新たな町名が書き込まれている。
そんなエウペ町にある学校は寮があり、小学校一年生から高校三年までの子供達が通う学校である。
親の仕事の関係で寮のある学校に入学させる親が沢山いる。
もちろん町の再開発前、ここはルージュ市の航空地区という場所だった。
それで「空の街」など呼ばれていた時から、基本ここに住む人たちは空港かパイロットなど飛行機に関する仕事をしている。
その為、職場と家が近い方が仕事に差し支えないのだ。
そこに出来た学校ゆえに、この地域はフライトで帰宅できない親に変わり、面倒見てくれる寮母(または寮父)がいる寮生活の学校が建てられたのだ。
もちろん全ての親が飛行機に乗っている訳ではない。航空管理センターや町の飲食店や空港近くのホテルなど、様々な職業の人も生活している為、両親の元で暮らす子供達もいるし、その子達は自宅から通っている。
この学校はこの地域ならではの学校である。
幼稚園や保育園も存在するが、ほぼ普通の幼稚園や保育園とは異なるシステムで運営されている。
その家の生活スタイルに合わせて選べる為、対象の子供がいる家庭は自分達で相談し決めているのだ。
小学生の五人組の女の子はいつも学校近くの公園に集まっている。
寮生活している子供達で常に一緒にいるほど仲が良い。
今日も公園で集まって話をしている。
彼女たちはつねに新しい情報を受け取り「最先端の」という言葉が付いている物に弱い。
ファッションも人一倍気にかけ、子供ながらに高級な物を身に着けている。
親の影響もあるだろうが、彼女たちはどこかファッションモデルや女優レベルと周りからは思われているし、自分達もそう思っている。
ルージュ市のデパートが好きで、よくルージュ市に五人で出かけている。
今日も一人が「ルージュ市に行きたい」と言い出し、五人で公園を出てルージュ市へ向かった。
今回、彼女らが向かったのはデパートではなくデパートの向かい側の公園方面である。
そこにはお菓子のワゴンやソフトクリームを売っているおばあさんがいるのだ。
そこのおばあさんがやっているお店のソフトクリームは、色々な人に大人気である。
もちろん五人組もそのソフトクリームが大好きだ。
五人は今日はなんの味にするかと話している間にルージュ市まで来たが、公園まではまだ少しある。
五人はお喋りが止まらないまま歩いている為、誰一人道の途中で文句は出なかった。
喋っているとあっという間についてしまい、五人はソフトクリーム屋さんがある公園の中央部分を目指した。
今日は休日とあって公園には様々な人達が来ていた。
緑の多い遊歩道を歩いて公園の中央通りまで出てくると、目の前にはカラフルなタイルが敷き詰められている場所まで来た。
だだっ広いスペースにキャンディーワゴンなどが置いてあり、黄色やピンクなどのパステルカラーの可愛らしい見た目のワゴンにはお菓子が陳列され販売されている。
今現在、二つのワゴンとその近くにソフトクリームのお店がある。
その店の客が利用出来るようにと、椅子やテーブルが用意されており、飲食に関するスペースになっている。
見慣れないワゴンもあったが、五人は真っ直ぐにソフトクリーム屋さんへ向かった。
その店で働くおばあさんはおじいさんと二人暮らしで、家の前をソフトクリーム屋にした建物に住んでいる。
その家があるのが公園の敷地内にあるように見える為、そのソフトクリーム屋さんはその公園に住んでいると勘違いされているが本来は違う。
しかし、おばあさんもおじいさんも公園内に住んでいると思われている事を気にしてない為、公園内に住むソフトクリーム屋さんで話が通じている。
お菓子のワゴンもその店のおじいさんが店番をする店で、ソフトクリーム屋さんの近くに置いてある。
二つあるワゴンはタイルの上でコロコロ転がせるようになっていて場所が変わる場合がある。
しかし、だいたい近くにおじいさんがいる為、おじいさんが目印役になっている。
今日もおじいさんは女性にちょっかい出しながらワゴンで菓子を売っていた。
この店のおじいさんはちょっとスケベと噂されているが、実害が出たりしている訳ではない。あくまで冗談が多いのだがスケベな冗談が多いというだけだ。
誰も本気で受け取る事は無く、ただの「スケベジジイ」で終わっている。
おばあさんの方は、厳しい口調の時もあるが比較的良い人である。
「エミリーさん」や「エミリーおばあちゃん」と呼ばれているが、噂では魔法使いなのでは?と思われているらしく、そのたまの厳しい口調から、ソフトクリームは美味しいがおばあさんとはあまり関わり合いたくない、喋りたくない。という人がチラホラしているのも事実である。
なぜ魔法使いという噂が立ったのかは誰も知らないらしいが、おばあさん自体またはおじいさんも含めて否定も何も言わない為、真実は誰も知らないままである。
五人はそんなおばあさんの元に行き、ソフトクリームを注文しようとしたが丁度そこにエミリーの夫であるジョフおじいちゃんがいた。
エミリーとジョフは「牛の獣人」だがホルスタインである。
白い毛と黒い毛が生えているが黒い毛は柄のように生えている。
今の所、この国でホルスタインはこのおじいさんとおばあさんだけである。
間違える事はない、この辺では有名な「スケベジジイ」である。
「よう、嬢ちゃんたち、おじさんとそこのbarで一杯、ひっかけねーか?」
ジョフは相変わらず笑いにくい冗談で彼女らを歓迎した。
しかし相手が悪かったのか、ジョフは素直にとらえた彼女らに「うわ、キモッ」「サイテー」「ジジイを相手喋りたくない」と散々な言われ方をされてしまった。
エミリーが彼女達に注意をしてからジョフにも注意したが、その事がキッカケでジョフは少し落ち込みトボトボとワゴンの方に帰って行った。
エミリーは「全く…」と独り言をつぶやいてから「あんたたちも、言葉には気を付けな!」と彼女らにいうと、五人組の一人から「なんかもういらない、ここで食べる気しなくなった、デパートのジェラートショップ行こう」という提案が出たが、二人くらいから、「あっちに行くなら、最初からあっちに行けば良くない?」「私、すごい楽しみだったのに」と文句が出たが、結局話し合いの結果、来た道を戻る事になった。
エミリーは小学生の言葉使いの悪さにイヤな気分になっていたが、こちらとしてもジョフの言葉が悪いのも分かっていたうえで、静止しなかったのも悪かったと少し反省することにした。
たまにジョフの言葉がキッカケで、こういう風に折角のお客さんが逃げていく事がある。
ジョフに注意しなくてはと思うと、直らないジョフに腹が立つが、ジョフだって根っからの悪者ではない、ただちょっとスケベの度が高いだけだ。
あまり叱りすぎるのも…と考えてバランスを取る事にした。
五人組の女の子達はだらだらと道を歩いていた。
あまり会話もせず、行きとは大違いだったが、それでも何とか歩いて公園を抜け、目の前にある建物を見て気分を変えた。
行きより公園を歩く時間は長かった気がするが、五人は今度こそジェラートに期待を膨らまし交差点を渡りデパートの中へ入って行った。
今渡って来たばかりの交差点で、とある親子に見える二人組とすれ違ったのだが、五人組の一人は仲良さそうな親子?に自分の姿を重ねたが、他の四人はその親子らしき二人に気付かなかったらしく、ジェラートの味を何にするかで盛り上がっていた。
その五人組とすれ違った親子に見える二人組は、先程五人組がいた公園の中へと入って行った。
公園の中を通り、中央通りと書いてある場所まで来ると、子供が男性に話しかけた。
「カルセドニーお父さん、今日の事は絶対にみんなにはヒミツのにんむですから、しゃべらないで下さい」
「分かってるよ、で、どこだ?そのおいしいソフトクリーム屋さんとは」
「乳牛のおばあさんがやってるお店なんです、実はそのおばあさんは、まほうつかいらしいのです、コーデリアちゃんが言ってました」
「乳牛のソフトクリーム屋さんか、随分な店だな、魔法使いか…なんだろう怪しそうだな」
「おじさ、お父さん、あそこみたいです」
「その、なぜ今日は、お父さん呼びなんだ?」
「ん?今日は親子でお買い物のにんむですから」
「親子?」
「はい、お父さんは娘に必要な物を買い与えなくてはいけません」
「別に、お金渡すから、学校で必要な物があれば、コーデリアと一緒に買い物へ行って良いんだよ?」
「…デリバリーとかいうのが無いですね」
「ん?出前とかか?」
「いえ、なんでもないです」
噛み合わない会話をしながら公園の中を歩いてきたのは、フリントキャットの獣人男性とキヌネコの獣人の女の子だった。
彼らは親子ではないが、フリントキャットの男性が所有する島で一緒に島暮らしをする二人で、どうやら学校で必要な物を買いにデパートまで来たらしい。
その帰り道、キヌネコの女の子はソフトクリームが食べたい、店を知っているから一緒に来て欲しいと男性に頼んだらしく、それで一緒に公園まで来たのだが、どこか会話が所々噛み合ってないらしいが、それは二人にとってあまり気にすべき事ではない。
ちなみに女の子は男性に「デリカシーがない」という言葉を使いたかったらしいが、言い間違えてしまったらしい。
しかし彼女は近くにお目当ての店がある事に気付くと、間違えた事はどうでも良くなったみたいだ。
男性の手を引っ張りその店に一直線に向かって行った。
そのまま店の前まで行くと、店番しているおばあさんに「こんにちは、今日はお父さんと来ました」と挨拶した。
「おや、シークレットガールちゃんだね、いらっしゃい」
おばあさんの顔は何かを見透かしたような顔だった。
「今日は、ストロベリー味のソフトクリームが良いです!お父さんは何が良いですか?」
「えっ?えっと、じゃあ、バニラを」
「ストロベリーのソフトクリームと、バニラ味のソフトクリームだね、お代は…」
おばあさんがテキパキと作業し、お金を受け取るとお釣りを渡し、ソフトクリームの機械の方まで行くと早速ストロベリーから作り始めた。
女の子はワクワクしながら見ている。
「いつも、コーデリアとここへ来るのか?」
「はい、学校帰りとか、お休みの日に来ます」
「そうか、コーデリアの奴、意外と面倒見の良い子なんだなー」
「コーデリアちゃんは、いつも私を気にかけてくれます」
「余計な事は教わってないか?」
「なんですか?」
「いや、なんでもない」
「変なカルセドニーさんです、あっ、カルセドニーおじ、お父さんです」
「うん、まぁいいか」
そこでストロベリーソフトクリームを持って、おばあさんが何食わぬ顔でやってきた。
「はいよ、お嬢ちゃん」
「はい、ありがとうございます、おとうしゃん、あの、お父さん、私はそっちのイスで待ってます。」
「あぁ、気を付けて、こぼさないようにね」
「はい、がんばります」
そう言って女の子はその場を去って行った。
それを見ておばあさんは、「彼女の本当のお父さんは、今頃どうしてるんだろうねー、心配じゃないんだろうか」と呟いた。
「えっ?」
「あぁ、すまない、独り言だよ。ただね、私はこの年まで生きてるとね。色々と知らない事まで、知る羽目になっちゃう時もあるのさ」
「えっとあの」
「あぁ、チョコレートだっけ?バニラだっけ?どっちだったっけ?」
「バニラです」
「はいよ、バニラね、あんたの娘、今でもキャンプを楽しんでいるかい?」
「へっえっ?」
「おっとっと、秘密は秘密」
そう言っておばあさんはバニラソフトクリームを作りに行った。
男性は椅子に座って待っている女の子を見つめた。
彼女の秘密はまだ明かされていない、情報を知っているなら教えて欲しかったが、そう上手くは行かなかったみたいだ。
少し肩を落とし、バニラソフトクリームが来るのを待った。
おばあさんはニタニタと笑いながら「あんた、気付かないうちに、女を虜にするタイプだね。まぁせいぜい、奥さんに怒られない様にするんだね。はいよ、バニラソフトクリーム」
「ありがとうございます」
ソフトクリームを受け取ると、男性は椅子の方に向かって歩いて行った。
その姿を見ておばあさんは「謎の少女と五人の女の子たち…良いね」と呟いたが誰にもその言葉は聞こえなかった。
男性は女の子の隣に座り、バニラ味のソフトクリームを少し舐めた。
甘さと冷たさが口に伝わり、確かに美味しいと感じた。
その時「コーデリアちゃんが、ストロベリー味は、恋の願いが叶うと言ってました。これで私も恋のお願いが叶いそうです」という可憐な少女の声が聞こえた。
むふっという音が口から洩れたが、ソフトクリームは垂れたり落ちたりしなかった事に少々安堵しながら男性は、隣にいる女の子に「今、なんていった?」と慌てながら聞き返した。
「コーデリアちゃんがストロベリーの味のソフトクリームは、恋の願いが叶うと言いました」
「コーデリアが?もしかして、好きな子がいるのか?」
「それはカルセドニーさんにはヒミツですが」
「まぁコーデリアは、別にいいか、で、君も恋の願いがあると?」
「はい、くろねこのおうじさまに会えますようにとお願いしながら食べるんです」
「なんだ、それか」
「何だとはなんですか?失礼です!」
「あっ、ごめん、叶うと良いな」
「はい!」
そう言うとニコニコ顔でソフトクリームを頬張る女の子。
それを見てるだけで幸せな気分が込み上げてきた。
父親ではないが、保護者として彼女が幸せならそれで良いと思えた。
確かに彼女の本当の父親の情報は欲しかったが、娘を一人ぼっちにさせたなんて罪な父親だと思うと、自分が代わりに父親になり彼女を幸せに出来るならいつだって「お父さん」と呼ばれても良い、何回でも「お父さん」と呼んでくれと男性は思った。
一方、幸せな“親子”とは対照的にこちらはまだ荒れていた。
デパートでジェラートショップに行き、ジェラートを食べた女の子の五人組はデパートで休んでいた。
一人が「なんか魔法にでもかかった気分」というと「私も」という意見と「えー?全然」という意見と「なにそれ」という意見が出てきた。
もう一人は黙っていたが、普段文句ばかりの友人が文句を言わなくなったのは、確かに魔法にかかったように見えた。
魔法使いのおばあさんという噂は知っているが、実際目にしたのは今日が初めてだった。
今まで何回か言った事があるのに、今回はなんだか違って見える。
これが噂の真実だろうか?と思ったが口には出せなかった。
五人の目の前をカンガルーの獣人親子とハムスターの獣人の女の子が歩いていた。
父親と娘、それとその娘の友達に見える。
三人は楽しそうに歩いていた。
五人のうち二人ぐらいは、そういう人たちが歩いているのを目撃すると、真っ先に悪口や批判的な言葉を言うのだが、今日は目撃した所で誰もそんなことは口にしなかった。
そんな彼女ら五人の近くで暖かい目で見守る「スケベジジイ」がいた。
おじいさんは彼女らの事を確認すると「よしよし、わしの魔法にかかっているな。全く、今どきの子は言葉遣いが悪くて聞いてられん。しばらく、そうじゃな、今日一日はそうして、汚い言葉を吐かないようにしててくれ。魔法をもう少し強くしとくぞ、良い子になりなされ」そう一人でブツブツ呟くと、五人組の女の子達の頭上で何かがキラキラと降り注いだ。
それを目視すると「スケベジジイ」は「さて、これでOK」と言い、その場を去って行った。
おじいさんが公園に帰ってくると、おばあさんがブツブツと呟いていた。
「ばあさん、どうした?」
「あぁ、実は、魔法使いのおばあさんシリーズの新作が久しぶりに書けそうなの、長い間スランプだった甲斐があったわ、今度は秘密が多い謎の女の子と五人組の女の子の話よ」
「へぇー、良かったなぁ」
「あんたの方はどう?」
「わしはほれ、現役だよ」
そう言っておじいさんは腰を振った。
「魔法使いだってばれないようにしたの?って意味だったんだけど」
「…えっ?耳が遠くて聞こえねーけど、なんか言ったか?」
「さてね、さっ、ワゴン片付けてちょうだい」
「わしはまだ」
「スケベジジイ、早くしなさいよ!」
そう言われるとおじいさんは、ワゴンの方へとぼとぼと歩いて行った。
デパートでは相変わらず賑わいを見せていたが、五人組の女の子達はデパートの出入り口付近にいた。
「宿題とかやった?」と誰かが言えば、「やってない」か「少しだけやった」「これからやる」といった答えが返ってきた。
唯一、一人だけ「もう終わった」と返した。
いつも五人で集まっても、どこか皆と違う方向を見つめていたりする子が一人いた。
先程、親子のような二人組とすれ違った時、魔法にかけられたようだと気付いた時も彼女だった。
白いふわふわな長い毛を身にまとっているペルシャネコの獣人の女の子だった。
クリョーンキャットの獣人の女の子は、頻繁にペルシャネコの彼女と一緒にいるが、どうも今日は様子がおかしいと感じていた。
「今日はなんだか、変じゃない?」とこっそり聞くと「別に、いつもと変わらないよ」と返ってきた。
「そうかな、なんか変だったよ」
「どこが?」
「なんか、心が違う方向を向いてるような…」
「べつに」
「…なら良いんだけど」
「うん」
二人は寮で同じ部屋を共有している。
午前中、二人は一緒に宿題を片付けた。
一人は半分終わり、一人は全部終わっている。
いつも五人で活動しているとはいえ、三人と二人に別れる時がある。
その時はこの二人は一緒に行動している。
目の前を歩く三人とは仲良くしているが、少し距離を置く時もある。
もちろん目の前の三人もそうだ。
五人全員が毎日くっついてる訳ではない。
大体五人で行動してはいるが、くっつく相手は決まっているのだ。
だからこそ相手の変化には気になってしまうが、相手が何も言わなければ深入りした会話は出来なくなってしまう。
彼女は“ちょっと悲しいな”という感情を抱いたが、言葉には出さなかった。
五人の女の子は寮に戻り、それぞれの部屋に戻った。
それぞれが自分の好きな時間を過ごす時間だ。
宿題を済ませる子もいれば、のんびり本を読んだりする子もいる。
ペルシャネコの獣人の女の子佐藤 麗奈(さとう れな)は今日あった事を日記帳に書き込んだ。
日に何回も日記帳にあった事を書き込む日もある。
それだけ自分の思いを他人に話さず、日記を話し相手にして自分の頭の中を整理している。
クリョーンキャットの獣人の女の子伊藤 優衣(いとう ゆい)は残った宿題を片付ける事にした。
チラチラと麗奈の方を見つめるが、麗奈は何か書くのに夢中になり優衣の方は見なかった。
他の三人は自分の部屋で同じ部屋の子と話したりして時間を潰した。
一番は五人で集まるのが楽しいのだが、同じ部屋の子と喋ったり宿題を一緒に片付けている時間も、また違って楽しい時間だった。
女の子同士というのは非常に複雑であるが、当人たちは謎のルールの中、複雑な関係の中を器用に渡り歩いている。
店じまいをして家に戻ってきたおばあさんは、早速ノートになにやら書き込んでいた。
今日あった女の子の五人組の事や、父親らしき男と来た秘密が大好きな女の子の事を頭に思い浮かべて、時折ため息を交えながらぶつぶつと独り言をつぶやいていた。
おばあさんはお店の傍ら小説を書いていたが、スランプだった。シリーズ物を書いていたらしいがこの分だと新作は無理か?と思われ、最後に書かれた本で終了と思われているが、出来具合によってはシリーズの最新作が世に出てきそうだ。
おじいさんはおばあさんの本のファンとして楽しみに待つつもりである。
「頑張るのは良い事でもあるが、頑張りすぎたり、無理はするなよって…聞いてないか」
おばあさんは少女に戻った気になり、頭の中にある物をノートに書き写すのに夢中になっていた。
その小説に出てくる女の子のモデルになった秘密が大好きな子、キヌネコの少女は島に帰り自分のお気に入りのテントの中で、隠してある宝箱を取り出し蓋を開けた。
中には色々な物が入っている。
そこに入っているノートに今日あった事を書き込み、終わればまたその宝箱の中にしまい、宝箱もいつもの場所に隠した。
その後、宿題をする為、簡易テーブルを出した。
原稿用紙にタイトルだけ書いてある。
「私のそんけいする人物」と書かれた作文用紙を見つめ、続きを書き足すことにした。
すでに学年と名前は書き込んであるが、最初の文章は「私のそんけいする人は」とまでしか書いていなかった。
そこにカルセドニーお父さんと書き込み、一回頭を左側にひねって消しゴムを手に取った。
消しゴムでカルセドニーお父さんという文字を消し、そこにセバスチャンさんと書き込んだ。
なんとなくその名前を書き込むのに躊躇した。
それでカルセドニーの名前を消して、カルセドニーの弟、セバスチャンの名前を書き込んだのだ。
後は適当に良く分からない相手、セバスチャンの事を、さも尊敬しているという風に書き込み、作文の宿題を終わらせた。
外からバーベキューやるぞーと声がかかり、出来上がった宿題を学校に行くとき使うリュックの中にしまい外に出た。
一人息子の世話をするカルセドニーの姿を見て、父親としては良さそうだが尊敬までは値しないと、そう自分に言い聞かせた。
あくまでカルセドニーは保護者であり自分は勝手にそのカルセドニーに対し甘えているだけだ。
心にある氷はそう簡単には解けないだろう。
「しろねこちゃん」と呼ばれた彼女は心の中を除かれないよう、気持ちを心の氷の中に隠してから輪の中に入って行った。
翌朝
エウペ町は普段通りの朝を迎えた。
寮生活中の子達も起きて支度し、食堂に集まり朝食を食べ、一旦部屋に戻って学校へ向かう準備をして、学校へ向かう子が何十人もいる。
寮も分けられているとはいえ、小学校から高校までの子供達が一斉に敷地内を動いている。
昨日の五人組の女の子達もその流れの中にいた。
ぞろぞろと教室に入ってくると、クラスの中は今度、学校全体が行う「学校行事」の事について話が盛り上がった。
高校生は文化祭と称し、自分達で出店を出したり、劇をやったりとするらしいが、中学生たちは【文化活動発表会】という題の音楽発表会のような物を、近くの文化会館を借りてやるらしい。
小学生達は高校とまではいかないものの、劇やクラスで出来る出し物をするらしい。
食べ物の出店など、お金が発生するものはないのだが、皆でアイデアを出し合い、教室内で出来るものをやるらしい。
そこでこのクラスは昨日、クラス全員参加の劇にしたらしいが、今日どんな劇にするかどんな役にするか決めるらしい。
それで朝から教室中、子供達が劇の話に対して皆で話しているらしい。
五人組の女の子達もリーダー格の子ココアウサギの獣人の女の子、高橋 瑛里架(たかはし えりか)の所へ集まって喋っている。
彼女はリーダー格であり、いつも噂話や悪口を言う為、五人組以外の子達はあまり近寄る事はない。
イジメの主犯格ではと言われるほどの子である。
瑛里架と良く一緒にいるリスの獣人の女の子、田中 愛海(たなか あみ)は芸能人の追っかけ、情報集めが趣味で、ファンクラブ所属中であり、ライブなどのイベントは欠かさず参加している。
その三人と、とりあえず一緒にいるのはトイプードルの獣人の女の子、鈴木 亜李彩(すずき ありさ)である。
彼女はロックミュージックが好きで、つねにロックでいる事をモットーに生きている。
若干問題行動も目立つ生徒である。
その為、皆とはちょっと違うフロアでの生活だが、一応学校には通わせている。
監視付きなら外出も大丈夫だが、昨日は黙って出かけたらしく帰ってきた所、厳しい処分が降りた。
劇には不参加になったと告げた。
ちょっと離れた所で、その三人組の話を黙って聞いていた二人は、昨日一時的に彼女ら三人が大人しかったのが、改めて不思議に思った。
いつもなんとなく五人で集まっているが、とくに理由なく三人といる為、二人はどことなくクラス中からも、なぜ一緒にいるのだろうという目で見られている。
彼女ら五年生のクラスは、そんな五人組がいる為、なにか五人組の女の子が主人公だったりするお話が良いのでは?という事になり決まったのだが、亜李彩が出れないとなった事を偶然そばにいた事で聞いてしまったクラスの子は、ひそひそと「劇どうなるんだろうね?」などと小声で喋っていたが、チャイムが鳴り先生が教室に入ってくると、やはり劇の事を初めに説明したが、話し合った結果、劇はそのままで配役をこれから決めるから大丈夫だと説明した。
結果、四人はやはり主人公レベルの役が決まった。
空いたスペースは別の子が担当する事で決まり話し合いは終わった。
着々と話が決まって行けば、今度は準備に取り掛かる事となる。
子供達は楽しみな子がいれば、あまりこういう行事が好きではない子は憂鬱な気分で過ごす事となりそうだ。
当日までの日々、無事、何事もなく過ぎ去るよう、麗奈と優衣は願うばかりだった。
一方、市街地でソフトクリーム屋さんを営むおばあさんは、空いた時間は新作の為にアイデアをひねり出したり、ひらめきをメモに書いていた。
魔法使いのおばあさんと六人の女の子達が、どういった感じに動くかによって話が変わってくる。
五人組の女の子と一人の女の子が今回のキーワードである。
その子達を上手く活用して、より良い物語を完成させなくてはならず、おばあさんは悩みが尽きなかった。
それでもソフトクリーム屋の仕事では、へまをしないように精神を集中させた。
最近ではピザとバーべキューのワゴン販売も店を、おっさん二人でやっている。
直ぐ近くにある為、おばあさんとおじいさんも常連になりピザを良く頼んでいる。
おじいさんは店番が暇だとその店に顔をだしお酒を飲んでいる。
おばあさんも頭をスッキリさせようと、その店に向かい飲み物を頼んだ。
「ボブ特製ドリンク」なる物を飲み、おじいさんと会話していると、自然と頭がスッキリして疲れが取れてきた。
ようやく長いスランプから抜けだしたプレッシャーから、頭が固くなっていたらしい。
スッキリした気分になると、またやる気がみなぎってきた。
おばあさんはドリンクを飲み干すと店に戻り、メモに色々と書き込んだ。
新作が出来上がるのはまだまだ先の話だが、おばあさんはワクワク、ウキウキしている。
新作が上手く書けてベストセラーになる事を願い、おばあさんは空を見上げた。
相変わらずのどんより雲の暗い天気だが、たまに晴れる日がある事を知っている。
世の中上手く行く時と行かない時とあるが、おばあさんは希望を捨てずいつか絶対叶うと信じ、微笑んだ。
その後、エウペ町の小中高等学校の【文化祭】は、笑いあり涙あり感動ありと、大成功を収め、おばあさんは新作を書き終わり、久々のベストセラーになるのだが、今の彼女らは知る由もない。
今はまだ本人たちにとって結果はお楽しみにという状態である。
第11話 終わり
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