『鏢局荒らし(四)』
数人の用心棒が怪我を負ったが、幸い死人は出なかったので、野盗を撃退した一行は再び目的地の街を目指して進んでいく。
「いやー、さすが先生ですな! 正に一騎当千の働き!」
「まーな、給料分ぐれえは働くぜ」
鏢局の関係者の分かりやすい阿諛追従だったが、拓飛は得意気だ。凰華は話が終わるのを待って、拓飛に話しかける。
「さっきはありがとね。でも、どうやって石ころで刀を折れたの?」
「大したことはねえよ。石ころにちょいと氣を込めて投げただけだ」
「そうなんだ。でも、あの距離から正確に刀を狙えるなんて凄いね!」
「昔な、飛んでる鳥に石を当てるってのをやらされてよ。それで嫌でも身に付いちまった」
「ええ? 可哀相じゃない!」
「そういう修行だったんだよ。果物もねえ獣もいねえ断崖絶壁に置き去りにされてよ。他に食うモンはねえから仕方なくな」
拓飛はさらりと言ってのけたが、かなり過酷な修行方法である。凰華は自分のことのように腹が立ってきた。
「ひどい師父ね! 弟子を何だと思ってるの?」
「なんでおめえがキレてんだよ。これでもおっさんには感謝はしてるんだぜ? おかげで強くなれたしよ。……ま、いずれ借りは何倍にもして返してやるがな」
そう言いながら拓飛はいつにも増して凶悪な笑みを浮かべる。
「つーわけでよ、技を教えるったって、俺もまともに教わってねえから、人に教えるなんて出来ねえ。だから強くなりてえなら、俺から技を盗め。俺もそうした」
「うん。でも、内功って見て覚えられるものなのかな?」
「そりゃ無理だろうな」
「ええ?」
「ハッキリ言うが、おめえの武術の腕はヒデえ。見れたモンじゃねえ」
ここまでハッキリと自分の腕前を否定されて凰華は泣きそうだ。
「まあ聞けよ。全部が全部悪いってわけじゃねえ。武術の型はおめえの親父に教わったんだろ? ありゃ、なかなか悪くねえと思うぜ」
父親の技が褒められて、凰華は少し機嫌を直した。
「じゃあ、どこがどうヒドいの?」
「技っつうか、闘い方かな。おめえ、あの道場でずっと親父と修行してたんだろ?」
「う、うん……」
「真っ平らな地面で
「う……そうかも」
「つまりよ、内功を覚える段階ですらねえっつうか、その前に覚えることが山程あるっつう感じだな」
拓飛の物言いは不躾で無遠慮だが、的は射ている。さっきも石につまずき、危うく殺されかけたものだ。
「……ありがと。よく分かったわ。内功のことはひとまず忘れる」
「ま、がんばれや」
そう言うと拓飛は目をつぶり眠り始める。
(見てて、父さん。あたし、父さんの教えは大事にして、もう一度最初から闘い方や心構えを見つめ直してみる)
凰華は心の中で決意を新たにした。
(第四章に続く)
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