それぞれの戦い  白銀の騎士伝説(後編) 2

 カーデラは、自宅の一室から立ち上がり、近くにある自らの神殿に向かう。

 神は、千里眼のように地上世界を見通す事は出来ない。ましてや、その場にいて、指先一つで奇跡を起こす事も出来ない。

 それ故に、自らの神殿に向かう。

 神殿には、いくつかの扉が設置されている。地上世界に通じる扉である。

 地上世界のカーデラ神を祀る神殿に通じている扉が設置されている。

 カーデラは各地で信仰されている神なので、扉の数も多い。

 中でも、グラーダは地母神信仰が厚い。

 砂漠の小国だったグラーダは、地母神カーデラと水の神ウテナの恵みが必要だった。

 逆に太陽に対しては、「過酷」「試練」を暗示するものであり、太陽神信仰は根付かない。

 だからこそ、グラーダ三世も、カーデラとウテナに気遣う。

 自然とカーデラも、グラーダを贔屓する事が多いのだ。


 カーデラが使用した扉は、もっとも地母神信仰の厚い産業都市レグラーダへの扉だった。


 

 扉をくぐり、地母神カーデラがその姿を地上に出現させると、地母神の神殿にいた神官たちが驚きつつも、感激して地にひれ伏す。

「カーデラ様。よくぞおいで下されました。すぐに祭祀の準備を致しますので、御座敷みざしきにてお待ちください」

 近くにいた神官が恭しく神殿内のカーデラの私室に案内しようとするが、カーデラは顎で制する。

「良い。それよりペガサスを用意せよ」

 神殿には、神が移動するための乗騎(大抵がペガサスだ)が飼育されていた。以前歌う旅団が魔王討伐の際に乗り合わせたのも、ここレグラーダの地母神神殿で飼育されていたペガサスである。

「は。お出かけでございますか?」

 神官はやや残念そうにする。神殿には沢山の信者からの「奇跡」の誓願が山積みとなっていた。

 神々は、こうした自身の奇跡を願う人たちの願いを、気まぐれで希に叶えに訪れる。

 比較的よく足を運ぶレグラーダでさえ、人々の叶えられていない願いは山積みである。

 神々は、基本的に怠惰であり、カーデラはまめな部類に入る。

 第二級神以上になると、その傾向が見られるようになるが、第三級以下は、自分を売り込むために必死に働く。

 ただし、第三級神以下は、「奇跡」などと言うものは起こせない。だから、魔法開発やダンジョン製作にいそしむ。

 魔法改革以前は、「お悩み相談所」的な活動をしていたのだから涙ぐましい。


 第一級神で、もっとも積極的に働くのが水の女神ウテナである。一年のほとんどを世界各国の神殿で過ごしている。

 次が、意外な事に美の女神ヴィーナスである。ただし、彼女の場合は、美しい姿を見せびらかすばかりである。

 逆に言えば、それで仕事として成り立っているのだ。



 カーデラは、神殿から出ると、神官に牽かれてきたペガサス4頭に牽かせた馬車に乗り込む。馭者はいない。

 カーデラが馬車の中から合図をすると、ペガサスは少し走ってから空に舞い上がっていった。


 神であっても、空を単身で飛ぶ事が出来る者は希である。

 単身で自在に空を飛べるのは、トリ獣人と、一部有翼の特化人スピニアン、あとはエルフの大森林のハイエルフにいるらしいというくらいである。

 だから、リラが、地上人の人間族なのに、空を飛べる事に人々は驚くのである。

 また、トリ獣人は基本的に魔法適性がない。魔力のある者も、それは肉体の獣化や飛行能力の補正に使っているようで、魔法に適さないのだ。

 例えば、エレッサでトリ獣人の隊長をしていたバレルは、自他共に認める飛行能力の高さを誇っていた。バレルの魔力値は250である。魔法使いとして申し分ない魔力を持っているが、一切の魔法は使えない。

 空を飛ぶという事は、それだけ大変な事なのである。




 カーデラにはジーンの居場所がボンヤリとわかる。

 普通はわからないものだが、極大魔法をジーンが使用している現状では、搾り取られたマナの痕跡をたどる事が出来る。

 四頭のペガサスに牽かれた馬車の速度は恐ろしく速い。100キロを30分程度で走覇する。


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